2022年5月16日、ニューヨークでサザビーズオークション「The Macklow Collection」が開催された。

2021年11月、アルベルト・ジャコメッティやマーク・ロスコの作品が高額で取り引きされ、サザビーズ史上最高の落札総額を記録した「The Macklow Collection」。続く今回も、抽象表現主義やポップアートの良品など30点がそろった。

今回の落札価格ランキングは、1位のマーク・ロスコに続き、2位ゲルハルト・リヒター、3位アンディ・ウォーホルという結果に。リヒターとウォーホルはマーケットでの好調が続いている。

この記事では、落札価格TOP5の作品とANDART関連アーティストの落札情報を紹介。落札価格は手数料込み、1USD=128.93円(2022年5月16日終値)で計算。

5)サイ・トゥオンブリー《Synopsis of a Battle 》(1968)
落札価格:約19億6,759万円($15,261,500)

サイ・トゥオンブリー《Synopsis of a Battle 》(1968)
(画像=サイ・トゥオンブリー《Synopsis of a Battle 》(1968))

出典:https://www.sothebys.com/

抽象表現主義の巨匠サイ・トゥオンブリーは、かつて米陸軍で暗号制作・解読に従事していたという経歴を持ち、フリーハンドで描いた線で構成された絵画が特徴。一見すると落書きのようにも見える作風だが、2015年にサザビーズ・ニューヨークに出品された「黒板」シリーズの一作が、約86億円で落札され話題を呼んだ。

同じく「黒板」シリーズの本作は、字とも絵とも取れる自由な筆致で描かれたトゥオンブリーらしい作品。レオナルド・ダ・ヴィンチがノートに遺した軍用機のスケッチにインスピレーションを得たという。今回の出品まで、40年以上にわたってマックロー夫妻のコレクションに収蔵されていた。(予想落札価格:約15億4,710万〜23億2,065万円 / $12,000,000 – 18,000,000)

4)ウィレム・デ・クーニング《Untitled》(1961)
落札価格:約22億9,349万円($17,789,300)

ウィレム・デ・クーニング《Untitled》
(画像=ウィレム・デ・クーニング《Untitled》)

出典:https://www.sothebys.com/

予想落札価格を大幅に上回り、ウィレム・デ・クーニングの油彩画が4位にランクイン。デ・クーニングはニューヨークのマンハッタンを拠点としてキャリアを築いてきたが、1963年にロングアイランド東部の自然豊かな小村スプリングスに移ることを決意。そのための準備として同地に自宅とスタジオを建設した年に、本作が制作された。

都会で過ごしてきたデ・クーニングは、海辺の豊かな自然に感銘を受け、光や空気感、音や香りをキャンバス上に表現しようとした。強い日差しのイエロー、砂浜のようなベージュ、澄んだ海の淡いブルーを通して、画家のリラックスした気分が伝わってくる傑作となった。(予想落札価格:約9億247万〜12億8,925万円 / $7,000,000 – 10,000,000)

3)アンディ・ウォーホル《Self Portrait》(1986)
落札価格:約24億1,199万円($18,708,500​​​)

アンディ・ウォーホル《Self Portrait》(1986)
(画像=アンディ・ウォーホル《Self Portrait》(1986))

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時代の寵児としてカリスマ的な人気を誇ったウォーホルが心臓発作により急死したのは、1987年2月のこと。その数ヶ月前に制作された本作は、ウォーホルの遺作となった。着用していた銀色のカツラにちなみ「Fright Wig(恐怖のカツラ)」とも呼ばれる。

2メートル四方を超える巨大なサイズであることや、黒のタートルネックが背景と同化して首が浮いているように見えることなどから、モニュメント的な様相を呈しており、死を暗示しているようでもある。当時、ウォーホルの自画像は1960年代に制作されたきりだったが、ギャラリストのアンソニー・ドフェイが自画像をメインにした個展を提案。個展はウォーホルの死後に実現した。(予想落札価格:約19億3,388万〜25億7,850万円 / $15,000,000 – 20,000,000)

2)ゲルハルト・リヒター《Seestück [Seascape]》(1965)
落札価格:約38億9,334万円($30,198,500)

ゲルハルト・リヒター《Seestück [Seascape]》
(画像=ゲルハルト・リヒター《Seestück [Seascape]》)

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1980年代以降の抽象画で知られるリヒターだが、「海景」と題された本作には海と空のリアルな姿が写し取られている。リヒターと同じくドレスデン出身の画家カスパー・ダヴィッド・フリードリヒや、イギリスで活躍した風景画の巨匠ジョン・コンスタブル、大気と光を巧みに描き出したウィリアム・ターナーら、ロマン派の近代画家たちの影響が感じられる一作。

2022年、日本で16年ぶりとなる大規模個展が開催されることもあり、国内でも注目の高まっているリヒター。5月10日のクリスティーズ・ニューヨークでは、 代表的な「アブストラクト・ペインティング」シリーズの作品が約48億円で落札され、同オークション落札価格第1位に輝いた。(予想落札価格:32億2,313万〜45億1,238万円 / $25,000,000 – 35,000,000)

1)マーク・ロスコ《Untitled》(1960)
落札価格:約61億8,943万円($48,008,000)

マーク・ロスコ《Untitled》(1960)
(画像=マーク・ロスコ《Untitled》(1960))

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抽象表現主義を代表するロシア出身のアメリカ人画家、マーク・ロスコ。神話や哲学からインスピレーションを得て、1940年代末に独自のスタイルを確立した。鑑賞者を包み込む瞑想的な大画面の絵画が特徴で、本作では茶と青を基調とした色面が緊張感をもって融合されている。

ロスコは1950年代末には国際的な高評価を受けており、30点の連作からなる《シーグラム壁画》、「ロスコ・チャペル」と呼ばれる礼拝堂の壁画など、大規模なプロジェクトを手掛けた。2つのプロジェクトの間である1960年に制作されたキャンバス画は、本作を含め19点しか存在せず、そのうち約半数が美術館に収蔵されている。本作はマックロー夫妻の手に渡ってから今回のオークションに出品されるまでの約40年間、一度も一般公開されていなかった。(予想落札価格:約45億1,238万〜64億4,625万円 / $35,000,000 – 50,000,000)

【ANDART取り扱いアーティスト落札情報】
パブロ・ピカソ《Jeune homme》(1958)
落札価格:約3億284万円($2,349,000​)

パブロ・ピカソ《Jeune homme》
(画像=パブロ・ピカソ《Jeune homme》)

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本作はピカソが地中海沿岸の別荘に滞在中、近辺で拾った木片を使って制作した遊び心あふれる作品。繰り返し水浴をテーマに扱ってきたピカソは、この2年前《La Baigneurs(水浴する人々)》と題した6点組の彫刻群を制作しており、本作につながったと考えられている。シンプルながらバランスのとれた木彫りには、ピカソが熱心に研究したアフリカやオセアニアの美術の影響が現れている。

今回、予想落札価格を大きく上回る高額での落札となった。(予想落札価格:約1億2,893万〜1億9,339万円 / $1,000,000 – 1,500,000)

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文:ANDART編集部