成長市場としてのミャンマー

十社十色のアジア戦略
(画像=TORWAISTUDIO/Shutterstock.com)

親日かつ東南アジアで最後の巨大市場・フロンティアなど言われているミャンマー。携帯電話もクレジットカードも使えなかった2~3年前に比べ、ミャンマー市場は急速に発展・成長している。ミンガラドン始め、ヤンゴン市内の工業団地は完売状態。街では袈裟姿の敬虔な仏教徒を多く目にし、日本から輸入した中占の路線バスが道の右側を走る。ドアの位置が反対なので、バスの乗降は道の真ん中だ。日本の家電製品・化粧品会社の看板も多く、シメサバをつまみに日本酒や焼酎が飲める日本食料理屋もある。日系企業の多くがオフィスを構える中心部のサクラタワーは2003年に一平米11ドルだったが、2013年からは70ドルに賃料改定された。中国企業および韓国企業のミャンマー進出・投資・M&A実績は日本企業以上である。たとえば、1989年度から2011年度までの中国企業による累積投資認可額は日本企業累計の62倍に上っている。

ユニ・チャームのアジアは一日にして成らず

今回のユニ・チャームによるMYCAREのM&Aには4つの特徴がある。1つ目は日本企業がミャンマーの消費者を市場としてとらえ、M&Aという手段で同国に入ったこと。安価な生産を可能にするために工場を手に入れるのではなく、消費地として販売・流通網を手にしたのだ。

2つ目は、そのM&Aが東南アジアを股にかける形であったこと。今回の買収は、ユニ・チャームのタイ法人が、MYCAREの親会社であるシンガポール法人を買ったもので、ユニ・チャームのそれまでのアジア拠点が分十に活きたM&Aであった。

3つ目の特徴は一人当たりGDPを指標にしたプロダクト・ライフサイクル基にづく、マーケティング戦略に長けた意思決定であったこと。競合のP&Gも 東南アジアにおいて、同様の背景で積極的な動きを取っている。関連商品の原料である不織布を提供する化学会社も多く東南アジアに進出している。図①に東南アジア各国の一人当たり名目GDPの推移とユニ・チャームの進出年をまとめた。

十社十色のアジア戦略
(画像=Futureより)

4つ目の特徴はアジア戦略に長けた人材がM&A戦略を実行したこと。前述のように、ユニ・チャームは今回が初めての東南アジア進出ではなく、インドネシ・アタイ・インドなどに工場・物流網への設備投資を断続的に行ってきた。消費者への広告投資も重ねてきた。今回の先端的・高度な形でのミャンマー市場への参入には、アジアに最初の現地法人を作ってから(台湾・1984年)約30年かかっている。

商品・サービスの悔外展開難湯度を把据

今回のケースは、他の日本企業の参考になるのだろうか?

大手日系企業でも、すべての事業ラインが既にアジアで展開しているという会社は多くない。上場企業でいえば、アジアで1~2か所の拠点設立にとどまっている企業が全体の半数程度かと思われる。アジアヘの事業進出・展開に数多くの企業とともに取り組んでいる弊社の経験からいうと、B2C 企業は日本の商品・サービスをどの程度ロ一カル化させる必要があるかにより、アジア進出の難易度は大きく異なる。他方、B2B企業は現地でのサービス提供に際し、事業運営ノウハウ・トレードシークレットの移管にどれだけ人が介在するかが、アジア進出の難易度を分ける。業界別にアジア進出の難易度をプロットしたものが図②になる。弊社の体感値であり、一考察であることをご了承いただきたい。同じ「二輪車」や「ブランド品」でも、新品を販売するのと、中古品を買取・販売するのでは難易度が大きく異なる。ITサービスでも、データセンターのようなハコモノを作り、現地客でを開拓する場合と、企業のシステムニーズを現地でくみ上げ、システムインテグーレション事業を提供するのでは、難易度は違う。化学品原料・化粧品・健康食品・OTC薬など、類似商品でも参入難易度は大きく違う。

十社十色のアジア戦略
(画像=Futureより)

「魅力的でない業界であったとしても、それを理解し、差別化したポジションを取れている企業の収益は高い」というマイケル・ポーターの「競争の戦略」のコンセプト同様、参入難易度が高い業界であることを自覚し、精緻に戦略を立て、時間と労力をかけて着実にアジア展開をする会社の成功確度は高い。「スピード勝負」「出てみなければ成否は分からない」という勢いだけで戦略なくアジア進出し、成功した例は少ない。

アジアで輝くための共通項

参入の難易度が横軸だとすると、成功確度の高低は縦軸で考えられる。アジアでの事業の成否を分けていると考えられるポイントを図③にまとめた。具体的には、日本での既成概念・思い込みを捨て、ファクトだけに注目して、正しい眼鏡でアジア市場をみること。過去と現在ではなく、今後どうなるか、それをもたらす要因に注目することが重要である。どのセグメントに、何を売るかというWhereとWhatのターゲット論に加え、どうってや売るか、儲けるかというHowを考えることも大事である。

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(画像=Futureより)

たとえばマンダムがインドネシアなどで、男性用整髪料を小分けにして単価を下げて販売し、成功した話は有名である。日本語を巧みに扱う現地人や日系のプロフェッショナル・サービス会社に依存するのは楽だが、要注意である。トップ自らが足を運んで市場の肌感覚を持ち、トップダウンで物事を決めるか、そうでなければ、現地の人材に権限を大胆に委譲するかのどちらかが良い。日本を意識させていては、現地で成功できない。図③の成功要件に今回のケースを当てはめてみると、ユニ・チャームが長年アジア市場で成長している理由は説明しやすくなる。

島田直樹(代表取締役 株式会社ピー・アンド・イー・ディレクションズ)