矢野経済研究所
(画像=Ahmet Aglamaz/stock.adobe.com)

中国当局による「ゼロコロナ」政策の影響は、懸念されていた通りの規模と深刻さをもって顕在化しつつある。上海、深圳、瀋陽、東莞、長春、西安など厳しい統制を強いられた都市は3月以降、20を越えた。本来、消費を牽引すべき都市部における厳格な行動規制の長期化は、内需全体を委縮させるとともに全土のサプライチェーンに深刻な影響を与えつつある。
自動車販売がこれを象徴する。中国自動車工業協会によると4月の新車販売は前年の5割程度に落ち込んだ。封鎖地域における工場の停止、物流の混乱、顧客の不在が原因だ。

こうした中、4月下旬になると上海でも生産再開に向けての動きがみられた。とは言え、工場と外部との出入りは依然制限されている。つまり、事業所内に一定規模以上の宿泊設備がなければ本格稼働は出来ないということだ。一方、物流でも「重点物資輸送車両通行証」制度がスタート、省を越えたモノの輸送が動き出した。ただ、こちらも人員不足等により運送費は通常の数倍に達している。正常化には程遠い状況だ。

「ゼロコロナ」による影響は中国国内に止まらない。中国税関総署によると4月の輸出は3月の前年同月比14.7%増から同3.9%増へ急減、2020年6月以来の低い伸び率となった。一方、輸入も低調に推移、2020年8月以来のマイナスとなった3月の2287億ドルを下回る2225億ドルとなった。つまり、Made in Chinaの出荷額が落ち込むと同時に中国向けのモノの流れも低調だった、ということだ。そもそも海外向けの荷物が港に届かない。加えて、作業員不足による荷揚げ作業の停滞、輸送力低下による貨物の滞留など港湾システム全体の機能不全が効いている。日本企業への影響も大きい。

さて、事態の長期化に伴い「ゼロコロナ」への異論が国外はもちろん国内からも出始めた。しかし、秋の共産党大会を前に「現指導部が自らの誤りを認め、方針を転換することはない」との見方は根強い。当局が発した「職務怠慢による感染拡大に対する責任は厳しく問う」とのメッセージは地方官吏にとって絶対的な行動指針だ。「ゼロコロナ」が続く限り正常化は遠いと言わざるを得ない。とは言え、中国経済の急回復も世界にとってのリスクだ。巨大な需要の戻りはエネルギー、食料、資材、物流における世界的な供給不足を招来するはずであり、ロシアの軍事侵攻に伴う物資の高騰に拍車をかけることになるだろう。いずれにせよ目の前の混乱への対処と並行して “その先” にやってくるリスクを想定した戦略シナリオを準備しておく必要がある。

今週の“ひらめき”視点 5.1 – 5.12
代表取締役社長 水越 孝