1990年代初頭、イギリスのブリストルで活動を開始したストリートアーティスト、バンクシー。2000年に入ると本格的に商業美術に参入し、未だ正体不明のアイデンティティを守りながら第一線で活躍し続ける巨匠へと成長しました。新しい壁画が登場するたび、オークションレコードが更新されるたび、大きな話題をさらっていくバンクシーの熱烈なコレクターは世界中に存在しています。
しかし、それだけ人気のあるアーティストなのにも関わらず、バンクシーの作品を一体どのようにして手に入れたら良いのか、どの作品が良いのか、いまいち分からない方も多いのでは?これからバンクシーの作品の購入し、コレクションを築いていきたいと考えている方のために、バンクシー作品を購入する上で基本的で大切なこと5つをご紹介します。
1:プライマリーとセカンダリー
まず初めに、アートを購入する際に覚えておきたいのが「プライマリー(一次市場)」と「セカンダリー(二次市場)」です。「プライマリー」は、作品が最初に発表される市場で、主に所属するギャラリーや百貨店、アートフェアなどが挙げられます。
そして、プライマリーで販売された作品が購入者の手元を離れて、オークションハウスなどで転売される市場が「セカンダリー」です。どのギャラリーが保有していたのか、どんなコレクターの手に渡ったのかの来歴と何の展覧会で展示されたかなどの展覧会歴は、作品の価値上昇に大きく寄与します。セカンダリーは、アート市場においてとても重要な市場です。
2:バンクシーの作品はどこで買える?
現在、バンクシーの作品が購入できるのは、「セカンダリー」のみです。バンクシーはギャラリーに所属していないにしろ、10年ほど前は公認のディーラーを介したり、展覧会で直接販売したり、元制作会社の「POW(Pictures on Walls)」を通じて版画作品を販売していました。つまり、昔はプライマリーでも購入することができたのですが、今は限りなく難しくなっています。それはなぜでしょうか?
その主な理由には、バンクシーのプライマリー作品を買える唯一の販売チャネルが現在「ペストコントロール」(バンクシーが2008年に設立した公式の認証機関)のみであるということ。そして、販売頻度が低くなっていることが挙げられます。
出典:https://pestcontroloffice.com/
実は、バンクシーが版画作品を販売したのは、POWが閉店する2017年にリリースした《Sale Ends V.2》が最後で、その前は2010年の《Choose your weapon》とかなり間隔が空いています。供給が低下傾向にあるなか、バンクシー人気は世界で確実なものとなり、常に需要が上回っている状態にあるといえるでしょう。
加えて、バンクシーはストリートで描いた壁画を必ずしも毎回版画作品にしているわけではありません。そして、今後何かしらのプライマリー作品が販売されたとしても、激しい競争が繰り広げられるのは必須です。つまり、バンクシーをプライマリーで購入することは現実的にはかなり難しいため、セカンダリーで作品を探す必要があるのです。
3:代表的なモチーフ
それでは、セカンダリーでどんなバンクシーの作品を探せば良いのでしょうか?作品を探す前に、バンクシーの超代表的な作品・モチーフ3つをおさらいします。
《Girl with Balloon》
風船に手を伸ばす少女を描いた《Girl with Balloon》は、2002年にロンドンで出現した壁画が元にされていて、バンクシーを最も象徴する代名詞的な作品です。また、2018年、サザビーズオークションの最中にシュレッダーにかけられた作品としても世界的に有名で、この一件以降バンクシー作品の価格が高騰しました。
《Girl with Balloon》の版画作品には、風船の色が赤の他に紫、ピンク、ゴールドのバリエーションがあります。他の色は赤よりも制作部数が少ないため、オークションでは必ず目玉になっています。2021年3月サザビーズでは、《Girl with Balloon Colour AP (Gold)》が110万4,000万ポンド(当時約1億6,572万円)で落札。バンクシーの版画作品においてオークションレコードを更新し、話題を呼びました。
《Love is in the Air》
《Love is in the Air》(または「Flower Thrower」)もバンクシーの象徴的な作品。2003年にパレスチナとイスラエルを分断する壁に出現した壁画が元になり、平和を訴える強いメッセージが込められています。サインあり・なしのプリントほかキャンバス、木製パネルに描かれた作品があります。
猿とネズミ
バンクシー作品の中でも最も認知度が高く、人気もあるのが「ネズミ」と「猿」をモチーフにした作品です。イギリス議会の政治家たちを猿に置き換え、タイトルに《Devolved Parliament》(退化した議会)とつけた作品のように、人間を揶揄するような表現をする際によく使われるモチーフです。
出典:https://commons.wikimedia.org/
最も有名なものの一つに、“Laugh now, but one day we’ll be in charge”(今は笑うがいいさ。でもいつかオレたちが支配者になる)という言葉が書かれた猿の作品《Laugh Now》があります。ネズミの作品では、《Love Rat》と《Gangsta Rat》が人気です。MYARTBROKERによると、この二つの作品価値は、2008年から2020年にかけて1000%上昇したといいます。
4:エディションについて
サインあり?なし?どちらを選ぶべきか
バンクシーの版画作品を購入する際に考慮したい点として、作品にサインがあるかどうかも大きなポイントです。通常、バンクシーの版画はサインありが150部、サインなしが600部で構成され、それぞれにエディションナンバーが振られています。
バンクシーの作家としての価値が成熟しきった近年において、サインありの版画作品の平均価格は、2020~2021年にかけて152%上昇しました。サインありの方が当然、希少価値が高いため、より高値で取引されています。一方で、セカンダリー市場に出回る頻度は低く、その分狙っているコレクターも多いため倍率も高くなります。それに対して、サインなしは版数が多くて収集しやすい上、平均価格も112%と同じく上がっています。
双方に利点があるため、サインあり・なしで選ぶというよりかは、最も重要な「作品のコンディション」の良し悪しを第一に、自身のバジェットと相談して、「自分が好きな作品」を購入するようにした方が良いでしょう。アート作品は、今すぐに希望するものが手に入るというわけではないので、時間をかけて良いものを探していきたいです。
ここが面白い?例外的なエディション作品
バンクシーの版画作品において、一般的なサインあり150部・サインなし600部以外にも変則的なエディションが数多くあります。少し混乱してしまいますが、ここがバンクシーの面白いところでもあります。変則的なエディション作品をいくつかピックアップして見てみましょう。
《Very Little Helps》
2008年にリリースされた本作は、サインあり299部の作品。“Very Little Helps”とは「ほとんど何の役にも立たない」という意味で、これはイギリスの大手スーパーマーケットTESCO(テスコ)の企業スローガンである“Every Little Helps”(どんな小さなことでも役に立つ)をもじったもの。資本主義、消費主義への批判が込められた皮肉的な表現がされています。
《Nola》
出典:https://www.myartbroker.com/
「Umbrella Girl」とも呼ばれている《Nola》は、2008年にニューオリンズに登場しました。これは、2005年のハリケーン・カトリーナと2008年のハリケーン・グスタフによる被害を受けて制作されたものです。雨が白いバージョンは289部、灰色の雨は63部、その他黄色やオレンジ、マルチカラーの雨のバージョンが31〜66部のエディション、いずれもサインありで制作されています。
《Choose your weapon》
キース・ヘリングの作品に登場した「犬」のモチーフを取り入れた作品で、カラーは全部で19色展開されています。最も希少なカラーはイエロー、グリーン、パープル、ピンク、ターコイズで、それぞれ25部サイン入りのエディションです。2010年に抽選で販売された際、あまりの人気に「Queue Jumping Grey」というバージョン(58部)が追加され、これも他のレアなカラーと同等に人気があります。
5:購入する際の注意事項
CoAの確認と専門家への相談
いよいよ欲しい作品の目星がついてきたなら、購入時と購入後に注意すべき点を改めて頭に入れておきましょう。やはり、第一に気をつけたいのは「贋作」です。
バンクシーの作品には、ペストコントロールが発行する「CoA(Certificate of Authenticity)」という証明書が付属されています。このCoAは、2009年以降(ペストコントロール社設立後)の作品には必ず発行されていて、もし、それ以前の作品が手元にあれば、ペストコントロールに真贋鑑定の依頼が可能です。無事本物であることが証明されれば、新たにCoAを発行してくれる仕組みです。
最近では、オンラインでアートを気軽に購入できる反面、罠が多いのも事実です。個人で判断するのではなく、実績のある画廊やオークションハウスで購入するなど、必ず専門家の意見を聞いて購入を検討しましょう。
購入後の保管はどうする?
アート作品は思った以上にデリケートなもの。日光が当たってしまったり、多湿な空間で保管したりすると、劣化が進み、修復が難しくなってしまいます。もし、数年後に自分の手元から離れていく可能性があるのなら、保管方法も考えておきたいところです。
一定期間、自宅やオフィスなどに飾って鑑賞を楽しんだ後、アート作品を専門に預かる月額の貸し倉庫などプロの手に預けるのも一つです。もちろん絶対に売らない、ずっと飾っておきたいという場合も、どのような方法でどんな場所に飾るのが良いのか、専門家にアドバイスを求めてみましょう。
世界的アーティスト、バンクシーの作品購入は、深い知識がないと、自分一人で全てを判断するのは難しいところもあります。気になっている作品やモチーフがあれば、オークションの出品情報や落札結果で相場をいつもチェックしておくのも大切です。しっかり時間をかけて、自分の好きな作品に出会い、ゆったりとアートを楽しんでいきましょう。
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現在、バンクシーの作品は全8作品を取り扱っています。バンクシー以外にも奈良美智やアンディ・ウォーホル、KAWSなどのアーティストを取り扱っていますので、是非ご覧ください。
文:ANDART編集部
参考
・https://www.christies.com/features/Collecting-Guide-Banksy-street-artist-10016-1.aspx?sc_lang=en&lid=1
・https://www.myartbroker.com/artist-banksy/guides/a-buyers-guide-to-banksy