オフィス内田 内田勝規,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

この記事は2022年4月14日に「テレ東プラス」で公開された「地方にチャンスと宝あり!~「伝説の男」不屈の挑戦:読んで分かる『カンブリア宮殿』」を一部編集し、転載したものです。

北の大地の絶品が大集合 ―― 繁盛店の裏にキーマンあり

福岡県・福岡市の「大丸」福岡天神店で開かれていたのは北海道物産展。客のお目当てはもちろん北の大地の魅惑の味わいだ。

列を作っていたのは札幌「汐音」のボリュームたっぷりの「プレミアムボタン海老弁当」(3,024円)。別の大行列は札幌の老舗レストラン「豊平館厨房」の北海道牛の「食べ比べステーキ弁当」(2,592円)だ。

京都府・京都市の「JR京都伊勢丹」でも北海道展の人気は圧倒的。巨大な「水タコのやわらか煮」(100g 972円)があるかと思えば、旭川で人気急上昇中の「北海道ピザgiocoso」のピザも。「北海道ボスカイオーラ」(1,480円)など、世界でも評価されるピザ職人たちが北海道の素材にこだわりぬいた贅沢な味わいだ。

北海道物産展は年間を通じて全国で膨大な数が開催される、今やデパートイベントの王様とも呼べる存在。その成功の裏にはひとりのキーマンの存在があるという。オフィス内田の内田勝規(64)だ。

例えば北海道の海産物を贅沢に合わせた「箱BAY」の「鮭とイクラの親子海なっとう」(100g 1,512円)。代表の三浦翼さんは「『粘るのが分からないから、粘るのを見せたうえでパック詰めしたほうがインパクトを与えられる』とアドバイスしてくれた。本当にありがたいです」と言う。

▽「箱BAY」の「鮭とイクラの親子海なっとう」

オフィス内田 内田勝規,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

ハムやソーセージが人気の「富良野牧場」も内田のアドバイスでヒット商品を生み出してきた。黒胡椒の「ブラックベーコン」(100g 800円)もその1つ。

「子どもではなく、大人が飲んで楽しめるような嗜好性の商品も開発するようにと言われました」(代表・長谷川恭宏さん)

「豊平館厨房」の杉山隆社長も「見せ方、売り方。顧客作り、いっぱい教えていただきました」と感謝する。

その内田が訪ねていたのは富良野市の菓子工房「フラノデリス」。遠方からも客が押し寄せる北海道屈指の人気スイーツ店だ。2004年、内田が初めて物産展に招き全国区となった。藤田美知男社長は内田とは長い付き合いだという。

「物産展に若いお客様に来てもらうにはスイーツを増やさないといけない。そのスイーツの柱にしたかったんです」(内田)

だが、最初に出店を依頼しに行った時には

「居留守を使っているのが分かった(笑)。上にいるのは分かっているけど、会ってくれない」(内田)

「顔が怪しいから(笑)」(藤田さん)

内田が目をつけたのは、地元でしか知られていなかった「ふらの牛乳プリン」(350円)。自然な製法にこだわった富良野の牛乳をふんだんに使った濃厚な味わいが自慢の逸品だ。ただ、藤田さんは内田に口説かれるまで、物産展などへの出店は全て断っていた。

「断っても数日後にまた来る。そこまで言ってくれるなら、1回出てみようかなと思った。僕らにとっては幸せでした」(藤田さん)

物産展に出店すると、「牛乳プリン」は2週間で10万本が売れ、大ブレイクした。

▽牛乳プリン

オフィス内田 内田勝規,カンブリア宮殿
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伝説のバイヤーから転進 ―― 地方から続々とヒットを生む男

オフィス内田 内田勝規,カンブリア宮殿
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内田は当時、業界では誰もが知る東武百貨店のバイヤーだった。2001年、催事の担当として初めて北海道物産展を任された。その後、爆発的に売り上げを伸ばし、わずか3年で年間13億円を稼ぐ日本一の催事に。内田は北海道物産展ブームの火付け役なのだ。

しかし12年前、内田は東武百貨店を退社。今は毎週のように全国を回っている。

この日、訪ねたのは帯広市の料理店「潮華」。地元のパクチーで作ったジェノベーゼソースをどう売っていくべきか、内田に相談していた。内田は意外な戦略を口にした。

「これは無理してたくさん作らないほうがいい。無理して作ると味が変わる可能性がある。もっとパクチーを食べたことのない人が手に取りやすい商品を作ると、パクチーがもっと引き立つ」(内田)

パクチーソースを売るために、もうひとつ客を呼ぶきっかけになる商品を作れというのだ。

「こんな売り方もあるんだ、こういう商品だったら売れるんだと、考えもしなかったアイデアがポンポン出てくる。すごく元気づけられました」(オーナーシェフ・早坂信美さん)

そしてその足で向かったのは地元の帯広信用金庫。内田はここで無料相談コーナーをもっているという(月2回)。

この日は、地元のダイコン農家・道下隆宏さんが「緊急事態宣言でダイコンが行き場を失っている」という悩みを相談に来ていた。すると内田は即座にこんなアイデアを伝えた。

「福岡に『てら岡』という日本料理店があって、ブリ大根をレトルトのパックで売っていて、これが売れているんです」

福岡の有名料亭の名物で、甘辛く煮たブリ大根をレトルトにした商品が、コロナ禍で売れに売れているという。

「ブリではなく北海道の魚でできないか、試すのはどうでしょう」(内田)

内田は地域の商品作りを自らの豊富なノウハウでサポートしている。そんな内田のおかげで危機から救われた人も少なくない。北海道・清水町にある「コスモスファーム」の安藤智孝さんもそのひとりだ。

「会社を立て直す方法はないと思っていました。感謝しています。内田さんがいなかったら今の会社はないです」(安藤さん)

ピンチを救ったのはブラウンスイス牛のコンビーフ。物産展で大ヒットし、牧場を危機から救った。

「一日30万円売れました。2014年の開発から売れ続けています」(安藤さん)

内田は百貨店を辞めてまで地方と関わり始めた理由を次のように語る。

「物産展では出店した人だけが豊かになる。それ以外にもっといい商品はあるけど、なかなか出られない。出店している100社のために仕事を続けるのはちょっと違うと思ったのが辞めるきっかけになった気がします」

その内田がユニークな商品開発に挑んでいた。中標津にあるラーメン店に作ってもらったのは牛乳をたっぷり使った「牛乳ラーメン」だ。

「札幌に味噌ラーメン、旭川に醤油ラーメン、函館に塩ラーメンがあるので、中標津ラーメンを作ろうと。牛乳が余っているのでなんとかしたい(内田)

いま酪農家を悩ませるのは、「コロナでバターやチーズ、生クリームが売れなくなり、食卓に並ぶ前に捨てないといけない」(希望農場代表・佐々木大輔さん)という厳しい現実。内田は、牛乳を大量に使う商品を作れないかと開発を思いついた。

目立った商品がなく困っていたラーメン店にとっても大きな魅力となる。開発から4カ月、「あら陣」では「牛乳ラーメン」(1,280円)の客への提供も始め、好評だという。

「メインの商品の人気に匹敵するぐらい。うれしい限りです」(代表・新谷賢司さん)

▽「あら陣」の「牛乳ラーメン」

オフィス内田 内田勝規,カンブリア宮殿
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薩摩と会津が異色コラボ ―― 歴史を変える?絶品ロース

内田にまた難しい相談が舞い込んでいた。「ハーベス」というメーカーの「赤字が続いている」(前田知憲社長)という商品についてだ。

福島県・会津地方金山町の山あいでこんこんと湧き出る日本では珍しい天然の炭酸水。明治時代に一部の上流階級が楽しんだといわれるこのまろやかな炭酸水を瓶詰めして販売しているのだが、なかなか結果が出ず、内田に相談が持ち込まれた。

この商品を売るため、内田が乗り込んだのは会津と歴史的因縁のある薩摩だった。そのターゲットは鹿児島県・南さつま市で肉の加工品を作る「山野井」。内田は、この手作業にこだわったロースハムに目をつけていた。

その豚肉を、会津のまろやかな炭酸水に漬け込むことで、柔らかい豊かな味わいを作ろうというのだ。「味を浸透させるにはクリアな水ほどいい」という。

また会津の炭酸水とのコラボには、「会津と薩摩が手を組むなんてあり得ない。長年の和解ができるかと思って」という内田の願いもあった。

▽味を浸透させるにはクリアな水ほどいい

オフィス内田 内田勝規,カンブリア宮殿
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今、内田が力を入れるのは、そんな地方同士を結びつけるビジネス。

例えばこの日、鹿児島銀行本店では、北海道の大根農家と桜島大根の葉で商品を作ろうとしている鹿児島のメーカーを引き合わせていた。

「桜島大根は鹿児島だけのもの、という時代ではない気がする。地域を超えたコラボはもっと増えると思います」(内田)

会津の炭酸水とコラボした、薩摩のロースハムが完成した。

「今までの『山野井』の商品とは違う初めての味。優しい味」(内田)

地方と地方を結びつけることで無限の可能性があると、内田は考えている。

「例えば、高知県の柑橘系の果物を一番喜んで買うのは北海道だったりする。ものの価値が分かってくれるところに売るのがこれからのビジネスだとしたら、地方同士のチャーシューが会津で受けるかもしれない。そういう売り方もありだと思います」(内田)

地方の生産者と深く付き合うことを信条とする内田の原点は、最初に任された新潟の物産展にある。その頃、幻と言われた新潟の銘酒「八海山」をなんとか出品してもらいたいと、当時の南雲和雄会長と交渉した時の経験だ。

会長と信頼関係を作るため、内田は必死で新潟に通った。そしてついに出品を承諾してもらうと、内田はそのお礼として、物産展のポスターに一升瓶の八海山を大きくあしらった。当時のことを、内田はスタジオでこう振り返っている。

「僕もいろいろなつてを使いましたが、どんなつてよりも人間関係をちゃんとしなければいけないと教えてくれたのが会長でした。売る側は、どれだけ密になって作り手の気持ちを表現してあげられるか。それしかできないんです」

伝説の男が挑む新コラボ ―― お笑い芸人×百貨店

内田は吉本興業の物販を手がける子会社「よしもとセールスプロモーション」にも席を置いている。

この日は東京都新宿区の吉本興業東京本部で、三重県鈴鹿市のチーム「すずか新商品創造プロジェクト塾」と商品会議を行っていた。やはり、地方の人たちの商品作りをサポートしている。

吉本が地域を元気にするために47都道府県に住まわせている「住みます芸人」。この芸人たちの力を使い、地方のさまざまな商品を販売していくのだという。

「楽しませることを芸人さんはよくわかっている。地域に根付いたものとコラボするのは、すごくありだと思います」(内田)

そしてその芸人による販売の舞台に選んだのが内田の古巣の業界、百貨店。東京都・千代田区の「大丸」東京店で準備するのは、百貨店の売り場で吉本芸人が、ライブ配信で商品を売るイベントだ。

VTRで若手芸人が紹介するのは栃木県のパン屋が作るラスク。芸人たちのパワーで、百貨店を地域の商品を売る新たな舞台に変えようというのだ。

「百貨店は商品がふんだんにあって、今回この商品を扱わせていただくことで、もっと広がりが出てくる気がします」(内田)

コロナの打撃もあり先行きに悩む百貨店も、若い客層にもアピールできる吉本とのコラボに期待を寄せていた。

「初めての経験なので、お客様からどんな反応をもらえるか楽しみです。ふだん百貨店に来ない層にファンが多いタレントさんですので、新しいお客様に知っていただけるのを楽しみにしています」(和洋菓子担当・杉山陽子さん)

果たして、芸人と百貨店のコラボは地方を元気にできるのか。

~ 村上龍の編集後記 ~

オフィス内田 内田勝規,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

シャイな人だった。態度がシャイなだけではなく、生き方がシャイだった。

昔、味噌ラーメンを煮込んで牛乳を入れて食べたことがあり、おいしかったらしい。でも牛乳が余ってしょうがない会社に、ラーメンはどうかという提案は、さりげなく言う。偉そうには決して言わない。

辞めてから、百貨店の凋落ぶりが目立った。寂しそうだった。もっと規模を小さく、店舗数も少なめに、ということをやはりさりげなく言った。百貨店への愛がある。物産展が育んだ、本物の愛情だ。

<出演者略歴>
内田 勝規(うちだ かつのり)
1957年、東京都生まれ。1981年、中央大学卒業後、東武百貨店入社。2001年、販売促進部催事企画担当マネージャーに。2010年、東武百貨店退職、オフィス内田設立。

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