矢野経済研究所
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対露制裁の反動が世界で顕在化しつつある。資源高による物価の急騰は、経済はもとより社会全体を揺さぶる。フランス大統領選挙では「EUと距離を置くべき」、「自由貿易より国内産業を」、「移民が国民を貧しくしている」と訴え、身近な物価対策を前面に掲げる右派のルペン氏が現職の中道派マクロン氏を猛追、24日の決選投票の行方はまったく分からなくなった。現実の問題として家計を圧迫された人々はより内向きに、そして、自国主義に傾く。ロシアの軍事侵攻は国際社会のみならず、その内側の分断も加速させつつある。

パキスタンでも首相のカーン氏に対する不信任案が可決した。資源のないパキスタンにとってエネルギー価格急騰のダメージは深刻であり、これが反首相派を勢いづかせた。失職したカーン氏は支援者に対して抵抗を呼び掛けており、中国寄りで米国批判を繰り返してきたカーン氏の今後の動向次第ではインド、アフガニスタン、中国などを巻き込んで地域全体の不安定さを助長する恐れもある。

加えて中国経済の停滞も懸念材料だ。ゼロコロナ政策に伴うリスクは年初の本稿でも指摘したが、人口2500万人を擁する上海でそれが現実のものとなった。上海は3月28日からロックダウン、当初期限の4月5日には延長を発表、外出禁止を呼びかけながら無人の市内を走り回る犬型ロボットの姿はまさに近未来のディストピアさながらだ。
今週に入ってようやく一部地域で封鎖が解かれたとのことであるが、完全な収束には時間を要すると思われ、社会活動の正常化はまだ先になろう。長期化が心配される。

11日、日銀は「地域経済報告-さくらレポート」を発表、全国9地域のうち8地域の景気判断を引き下げた。急激な円安、資材の高騰、サプライチェーンの混乱など、要因は複合的である。加えて新型コロナウイルスだ。政府、医師会は「第7波」に警鐘を鳴らす。しかし、重症化率の高い高齢者の85.3%が3回目の接種を終えている。ウイルスも当初のものとは異なる。一体いつまでこれを続けるのか。ウイルスはもちろんリスクだ。しかし、不安と不満の根源は施策への不信にある。この2年間、多くの犠牲を払って獲得してきた知見があるはずだ。一刻も早く明確な “出口” 戦略を提示していただきたい。今の戦い方では情勢の急激な変化を勝ち抜くことは出来ない。

今週の“ひらめき”視点 4.10 – 4.14
代表取締役社長 水越 孝