小麦の高騰が止まらない。値上げにつながる要因が重なっているからだ。比例するように、小麦を原料としている食料品の価格も、今後値上がりする可能性が高そうだ。パン類の価格も跳ね上がり、いつも食べている安価なパンが「高級パン」になってしまうかもしれない。
輸入小麦の「政府売渡価格」、2桁%増に
小麦の価格の推移について知るために、輸入小麦に関する「政府売渡価格」の値動きを参照してみよう。その前に、この政府売渡価格について少し補足する。
小麦は日本人の食卓で欠かせない重要な輸入品であるため、日本政府が商社を通じて海外から買い付けを行い、製粉業者などに売り渡す制度が導入されている。その制度を「政府売渡制度」と呼ぶ。
この制度において、製粉業者などに売り渡す価格が「政府売渡価格」で、海外からの買い付け価格などをもとに6ヵ月に1度見直されている。そのため、政府売渡価格の推移を見れば、世界的な小麦の価格の推移がわかる。
以下が輸入小麦の政府売渡価格の直近の値動きだ。
2020年10月は1トンあたり5万円を切る価格だったが、その後、2021年4月に5万1,930円、2021年10月に6万1,820円、2022年4月に7万2,530円と価格上昇が止まらず、直近の2回の価格改定においてはともに前期比で2桁%増となっている。
小麦の価格が高騰している3つの理由
農林水産省は2022年3月に、前期比で17.3%増となる政府売渡価格の改訂を発表し、その際、価格が大きく上昇することにつながった要因を3点挙げている。具体的には以下だ。
1)昨年夏の高温・乾燥による米国、カナダ産小麦の不作の影響が大きく、9月以降も小麦の国際価格が高水準で推移したこと
2)米国、カナダ、豪州の日本向け産地における品質低下等により、日本が求める高品質小麦の調達価格帯が上昇したこと
3)ロシアの輸出規制、ウクライナ情勢などの供給懸念も、小麦の国際価格の上昇につながったこと
それぞれについて詳しく解説していこう。
1)米国・カナダ産小麦の不作
2021年の夏、アメリカとカナダでは高温と乾燥という天候不順が続き、結果として小麦が不作となった。以下は、2020年における国別の小麦の生産量ランキングだ。アメリカは4位、カナダは5位となっており、この上位の2ヵ国で小麦が不作となったことは大きい。
2)高品質小麦の調達価格帯が上昇
日本では世界で生産される小麦の中でも、特に高品質な小麦を多く輸入している。しかし、アメリカとカナダ、そしてオーストラリアにおける日本向け小麦の産地で品質の低下が起き、需給のバランスが崩れて日本向け小麦の価格が高騰するに至った。
3)ロシアの輸出規制とウクライナ情勢などの供給懸念
ロシアは2021年末、小麦の輸出規制の実施を発表した。さらに、ロシアがウクライナに侵攻したことで、小麦生産量で世界8位のウクライナからの小麦の供給に黄信号が灯った。このような動きも小麦の国際価格の高騰につながっている。
小麦価格の値上がりはいつまで続く?
では、このような小麦価格の値上がりはいつまで続くのか。相場の先行きを正確に予想するのは不可能であるが、ロシア・ウクライナ情勢が不透明な中で、ざっくりとした見通しすらも立てにくくなっているのが現状だ。
小麦の国際価格の高騰は、パンやうどん、パスタなどの小麦製品をよく食べる日本人の食卓を直撃する。引き続き、小麦の価格の推移に注視していきたい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)