矢野経済研究所
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3月8日、経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会は、新たな産業政策として「災害に強いレジリエンス社会の実現」を提案した。具体的には、「2010年から2019年に発生した気象関連災害による経済損失の総額は1.6兆ドル、発展途上国の潜在市場は2050年時点で年間2800-5000億ドルと推定される(国連環境計画)。したがって、災害対策をコストとしてではなくグローバルな事業創出の機会と捉え、官による投資から防災・減災の市場化・民による投資への流れを産業政策として検討すべき」と提言している。

会議では気象観測、防災情報システム、水質浄化、土壌対策などの分野で世界に貢献する大手企業やスタートアップの事例が紹介された。実際、自然災害が絶えない日本ならではの知見に裏付けされた技術のレベルは高く、世界市場における日系企業のポテンシャルは大きい。
民間資金を活用して社会課題の解決を目指すソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の実績は2021年時点で200件、総額431百万ドル、まだまだ十分とは言えないが民間資金を活用した事業機会も徐々に増えつつある。SDGs、ESG投資への流れも追い風である。この分野における日系企業の貢献に期待したい。

さて、明日は3月11日、東日本大震災から11年が経った。防潮堤の整備や交通インフラの復旧などハード面における事業は “原発” を除けばほぼ完了した。一方、未だに3万8千人を越える避難者がいる。風評被害も残る。補償を巡る分断も深刻だ。災害関連死も後を絶たない。地域コミュニティの再建も十分ではない。心のケアも課題だ。つまり、ソフト面においては依然として膨大な課題が積み残されている。ただ、それゆえに、こうした問題に対する取り組みのプロセスと成果は新たな知見になり得る。被災地そして被災者が抱えてきた課題を丁寧に記録し、解決策を議論し、世界と共有すること、これこそがレジリエンス、すなわち世界の復元と回復に対する最大の貢献となる。

政府主催の追悼式典は「10年目」の昨年で終わった。社会全体で共有してきた「記憶」の風化は否応なく進む。しかし、それを継承することこそが最大の防災対策であることは言うまでもない。
過去の自然災害被害を伝える “自然災害伝承碑” は全国に1299基もある。国土地理院は382市区町村の伝承碑をホームページで公開している。是非一度見ていただきたい。リスクはどこにでもあり、それはいつでも起こり得るということが実感できる。災害を自分事として考え続けること、その記憶を未来へつなぐこと、それが3.11の時代を生きる私たち世代の責任である。

今週の“ひらめき”視点 3.6 – 3.10
代表取締役社長 水越 孝