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中高年スタッフが輝ける職場
丸亀製麺を訪れたことがある方は、一般的なチェーンの飲食店とはスタッフの雰囲気が違うと感じるかもしれません。それもそのはず。オープンキッチンで働くのは、つい「おっちゃん」「おばちゃん」と呼びたくなるような中高年の親しみやすいパートナーさんです。
どの飲食店もパート、アルバイトが多いという点では同じですが、丸亀製麺では40代以上の方がたくさん活躍されていて、しかも圧倒的に女性が多いという点が特徴です。
本場の讃岐の製麺所でも、おっちゃん、おばちゃんと親しまれている人が店を切り盛りしている光景を目にします。そのアットホームな雰囲気が、気軽にフラリと立ち寄れるような讃岐の製麺所の空気をつくっているのです。
とくにうどんや天ぷらは料理経験の豊富な人が作ったほうが、おいしくできます。そもそも、目じりにしわがあり白髪交じりのいぶし銀の男性がうどんを作っている姿を見ると、それだけでおいしそうだと感じませんか?
割烹着の似合う中高年のパートナーさんだからこそ、おいしさやぬくもりを感じるという効果があるのです。ですから、丸亀製麺は開業したころから意識して中高年のパートナーさんを採用してきました。
通常、チェーン店は本社の社員が店長になり、現場のスタッフを差配するという構成になっています。丸亀製麺も、社員が現場で一から経験を積んで店長まで務めるというケースもありますが、社員店長を置いていないお店も結構あります。20代・30代の、いつ異動するかわからない若手社員がお店を守るより、その地域で生活しているパートナーさんに任せたほうがいいだろう、という考えなのです。実際、社員店長がいなくても店はキチンと運営されています。
熟練のパートナーさんは、「来週あの学校の運動会があるからお客さん増えるで」とか、「お祭りあるから、たぶん今日は暇やで」など、地域情報を熟知して、それに合わせて動いてくれます。
最近は、AI(人工知能)を使って売上予測を立てるサービスの開発が進んでいます。前年度の売上や、天気や曜日のデータを入力し、そこから今日の売上を予測して商品のロスが出ないようにする。確かに、それは確度の高い予測ができるし、効率的かもしれません。
しかし、AIには人を感動させることはできません。したがって、これからも丸亀製麺ではAIが出すデータより、おっちゃん・おばちゃんの経験や勘を重視していきます。また、中高年の方のほうが、仕事に誇りを持つ傾向が高いように感じています。
私自身も、店に配属されたときに熟練のパートナーさんに調理を指導していただきました。おばさんに天ぷらの揚げ方やおにぎりの握り方を教えてもらい、おじさんには製麺のやり方を教えてもらったのです。
「見てみ、この麺。光ってるやろ」と誇らしげに言うおじさんは、まさに職人。「私が握るおむすびだからおいしいの」「俺が作るうどんやから、特別にうまいんや」といった言葉を聞くたびに、この仕事を愛し誇りをもっているのだな、と感じました。
中高年のパートナーさんは、それまでにさまざまな人生経験をされています。そういう方はビジネスマナーを一から教える必要はなく、自分が求められている役割を瞬時に理解するので、とても頼りになる存在なのです。
とくにコミュニケーション力が非常に高いおばさんたちは、お客様に「天ぷら、揚げたて取っていってよ!」とどんどん声をかけています。常連のお客様が体調を崩してかけうどんしか頼まないことに気づき、「どうしたの?」と心配するパートナーさんもいます。そのパートナーさんはお客様が他のメニューを食べられるようになったことにもいち早く気づき、「元気になったの? よかったね」と声をかけていました。
若い人が、見ず知らずの相手とそこまでのコミュニケーションを取るのはとても難しいでしょう。お客様も相手がおばさんだから、「ちょっと胃の調子が悪くて」と、ざっくばらんに話せるのではないでしょうか。
効率化を考えるのなら、券売機で券を買うシステムを導入するほうが、コスト的にも時間的にも断然メリットがあります。それでも、丸亀製麺では人がレジを打つというスタイルを変えるつもりはありません。目の前のお客様の様子から体調を気遣うようなことはAIにはできないでしょう。
人とのちょっとしたやりとりからあたたかみは生まれるものなのです。何もかも自動化、機械化されている現代だからこそ、パートナーさんとの何気ないやりとりがお客様の心に響くのではないでしょうか。
マニュアルでガチガチに縛らない
多くのチェーン店同様、丸亀製麺にもマニュアルはあります。とはいえ、他のチェーン店の方が見たら、おそらく「この程度でいいの?」と拍子抜けするぐらい、基本的なマニュアルしかありません。身だしなみや挨拶の仕方などが載っていますが、ごく当たり前のことしか定めていません。
研修の際に接客の仕方なども指導されますが、キッチンでの作業が多くて覚えることが多いので、マニュアルを叩きこむという感じではないのです。
結局のところ、マニュアルで細かく定めすぎると、「覚えた通りにすればいい」という意識になってしまいます。
丁寧に接客をしているけれども、マニュアルに従ってやっているのだろうな、と感じるお店があるでしょう。「いらっしゃいませ」と言ってから、45度頭を下げる。数分しか待たせていないのに、「大変お待たせいたしました」と頭を下げる。丁寧な対応のほうがお客様も好感を持つのは間違いありませんが、心がこもっていないと感動は生まれないのではないでしょうか。
丸亀製麺としては、マニュアルでガチガチに縛るより、目の前のお客様を見て臨機応変に対応してほしい、と考えています。
たとえば、車椅子でお越しになられたお客様には、率先してドアを開ける。お客様の代わりにお盆を持って席まで運ぶ。それはマニュアルというよりヒューマニズムの話なので、「決められているからする」ということではありません。
お客様がお盆に汁をこぼしてしまったら、この状態のまま食事を続けるのは不快だろうなと感じ、「お盆を取り換えましょうか?」とすかさず声をかける。そういう小さな気配りが、心に響くと思うのです。
「大好きな彼女に喜んでもらう」という視点で物事を考えよ、という教えを本で読んだことがあります。丸亀製麺で目指しているのはまさにそういうことだな、と感じました。大事な人が自分の店の予約を取ってくれたときに、どこの席に案内するか、どんなサービスをするか。大事な人にどのように喜んでもらうかを考えると、それはすべてのお客様が喜んでくれることになるのです。
世界を旅してみると、日本人は公共の場でのマナーや礼儀がきちんとしていますし、サービス精神はピカ一だと感じます。生まれつき、おもてなしのDNAが根付いているのかもしれません。
したがって、マニュアルでガチガチに縛らなくても、現場は自分たちの判断で接客するでしょう。現場の人を信用していればマニュアルで細かく管理する必要もないのです。
個人の判断に任せると店ごとの統一が取れなくなりますし、よく気のつく人もいれば、そうでない人もいるので、個人の力量の差も出てしまいます。現場でスタッフを指導する立場としては、細かくマニュアルで定めたほうが、サービスを一定レベルで提供できるので楽でしょう。教えるのも短時間で済みます。
しかし、それだとスタッフはいつまで経た っても自分の頭で考えて行動できるようにはなりません。人は創意工夫することに喜びを感じるので、モチベーションややりがいも感じないでしょう。
自分で考えないと「マニュアルに書いてないことはしない」という状況にもなるので、結果的に店や会社の質を落としてしまうのです。ガチガチでないマニュアルで人を育てるのは時間がかかります。それでも、自由度が高いと人の伸び代が広がると思うのです。