丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?
小野 正誉(おの・まさとも)
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR 担当。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1 年で退社。 その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR 担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011 年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。 転職してわずか3 年で社長秘書に抜擢。 入社後8 年の間、国内外に1,700 店舗以上を展開する グローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。近著『丸亀製麺はなぜNo.1 になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)は、各メディアで取り上げられてベストセラーとなり、海外版も出版されている。他、著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)がある。1972 年奈良市生まれ。和歌山市育ち。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

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人が集まるお店には共通点がある

オープンキッチンはなぜか人を魅了します。たこ焼き、焼きそば、ラーメンや焼き鳥、スタンド割烹など、職人や料理人が手際よく作るのに見とれてしまい、つい箸が止まってしまうこともあるでしょう。

以前、家族と奈良の宝山寺に初詣でに行ったとき、参道に屋台が建ち並んでいました。たこ焼き屋さんが5軒ぐらいあったのですが、そのなかで一軒だけ行列ができていました。値段もたこ焼きの大きさも、他の店とさほど変わりません。

私も並びながら「どうして、ここだけ並んでいるんだろう?」と観察していると、その店は出来たてを出していることに気づきました。他店は、ある程度作り置きして、ライトを当てて温度を保っていました。待たずにすぐに買えますが、やはり口の中がやけどしそうになりながらハフハフ食べる、作りたてのおいしさには敵か なわないのです。

さらに、その店のおじさんは元気がよくて、大きな声で「いま焼いてるからちょっと待ってや~」と呼びかけます。待っているお客様に、「生地の中に何と何と何が入ってるんだけど、後一個は言われへんねん。企業秘密やねん」「毎年ここに出させてもらってるんで、また来年も来てよ。待ってるで」などと、話しかけています。

この距離感が心地いいのだなと感じました。そういう場所に人は自然と引き寄せられるのだと思います。

丸亀製麺は、1号店からオープンキッチンでライブ感をつくりだしています。丸亀製麺は開業して間もないころから、ショッピングモールのフードコートへの出店を積極的に進めていました。フードコートは安くておいしいお店が集まる激戦区。ハンバーガーショップやラーメン屋、どんぶり屋など、強豪店ばかりがずらりと並んでいます。そんななかで、丸亀製麺はどこでも行列ができました。

粟田社長はフードコートを見て、「ここに製麺機を持ち込んで作りたてのうどんを茹でている様子を見てもらえば、お客様が集まるに違いない」と読んだといいます。丸亀製麺に行列ができたのは、その場で麺を延ばしたり、切ったりしている様子が見られるからでしょう。立ち食いそばやうどんのように、茹で麺をお湯にくぐらせて、出来あいの汁をかけるだけではおいしそうに感じないのです。

他店では、できあがりに時間がかかるメニューは番号札やアラームを渡されて、呼ばれるので行列はあまりできません。そんななかで、丸亀製麺は番号札を渡さずにその場で注文された料理をお渡しするようにしているので、自然と行列ができます。

確かに、番号札を渡せばお客様は待たずに済むかもしれませんが、料理や商品をただ受け渡すだけでは、無味乾燥になる可能性があります。もし待っている間も楽しめたら、何倍も食事を楽しめるのではないでしょうか。

丸亀製麺は、うどんを注文したら、天ぷらやおむすびは自分で選ぶシステムになっているので、うどんができあがるまでに時間がかかってもそれほど気になりません。さらに、目の前でうどんの生地を切ったり、茹でたりする様子を見ていたら、「へえー、あんな風に麺はできるんだ!」と子供はもちろん、大人も退屈しないでしょう。

オープンキッチンは、粟田社長が焼き鳥屋をやっていたころから、ずっと貫いてきたスタイルのひとつです。

たまたま店の構造の関係上、焼き場を入り口近くに設置していたところ、焼き鳥が飛ぶように売れたのだそうです。料理は味覚だけではなく、視覚や聴覚、嗅覚など、まさに五感を使って味わうものだということでしょう。

トリドールの他の業態のレストランでも、オープンキッチンは基本です。

天ぷら定食の「まきの」は、入り口を全面ガラス張りにしているので、道を歩いている人が店内で天ぷらを揚げている様子を見られるようになっています。オープンキッチンをさらにオープンにしているような感じです。そして、店に入ってカウンターに座ると、スタッフが目の前で一品ずつ天ぷらを揚げてトレイに載せてくれます。まるで高級てんぷら店のようなサービスを提供しているのです。

まきのは関西地方で少しずつ店舗を増やしている状況ですが、どこの店も行列ができています。やはり、手仕事が見えライブ感を味わえる店に人は集まるのです。

また、作っているパートナーさんにとっても、お客様に見られていると思ったら手を抜けません。緊張感や張り合いが生まれますし、「おいしい」と喜んでいるお客様の表情も間近で見られるのでやりがいを感じるのです。工場見学の人気が高いのも、作っている舞台裏が見られるからでしょう。普段飲んでいるビールやよく食べているシュウマイができあがっていく様子を見るのは、やはりワクワクするものです。

舞台裏を見せるというのも、人を惹きつける最良の方法なのです。

全国のお店の味をチェックしているのはたった一人

丸亀製麺には「麺匠」と呼ばれる社員が一人だけいます。麺匠とは、全国の店舗を巡回しうどんの作り方を伝授する達人のことで、その仕事はうどん以外のメニューの指導や、パートナーさんたちの接客やマナー的な指導にも及びます。

麺匠という呼び名は、「カンブリア宮殿」(テレビ東京)に出演する際、人事部の教育研修課の次長という肩書では何をしている人なのかわかりづらいので、広報担当とともに「麺匠」という肩書を考えて、名刺を作ったのがはじまりです。

丸亀製麺の1号店の製麺担当者が初代の麺匠で、その後を継いだのは現在の麺匠、藤本智美(男性)さんです。今でも、初代の麺匠の腕組みをした写真を飾っている店もあります。

丸亀製麺の味を決めたのは、初代の麺匠と粟田社長です。いろいろな小麦粉を使って配合を変えたりしながら試作を繰り返し、粟田社長が「これやねん、このモチモチ感やねん!」と言った麺を基準に「丸亀製麺のうどん」が決まりました。

初代の麺匠は本場の讃岐でもしばらく修行をしていろいろ教えてもらったそうですが、その店の味を引き継いでいるわけではありません。

香川県には約900軒のうどん屋があると言われていますが、一軒一軒、味も特徴も違います。丸亀製麺は本場の香川県にある一軒の讃岐うどん屋のつもりで営業しています。とはいえ、本場で有名な讃岐うどん屋で食べたことがある方は、「本場の味と違う」と感じるかもしれません。有名店の味を目指しているわけではないので、今のうどんが丸亀製麺らしい「讃岐うどん」なのです。

藤本さんは、元々食品メーカーが運営する飲食店で支配人をしていました。粟田社長とはその当時から面識があり、そのご縁でトリドールに入社したそうです。丸亀製麺の4号店ができたころに転職し、最初は天ぷらの揚げ方の指導などをしていました。やがて、すべての店でメニュー全般を指導するようになったのです。

春から夏、夏から秋、秋から冬といった季節の代わり目は温度が変わって味がぶれやすいので、麺匠は全国の店に足を運んで、メニューの味や品質のチェックをします。店には抜き打ちで訪れ、うどんや天ぷら、おむすびなどを食べて確認します。その様子は、まさに麺の匠。

食べる前に、器に盛られたうどんを見ただけで「麺にばらつきがある」「洗いが弱い」と見抜きます。生のうどんは一本一本がくっつかないように打う ち粉こ を振ってあるので、一度茹でてから流水で洗ってぬめりを取ります。その洗い方が不十分だと粉っぽくなってしまうのですが、麺匠の域に達すると見ただけで判断できるようなのです。

麺はズズッとすするときに箸で麺を引っ張りながら食べています。これは、コシの強さを確認するため。箸で引っ張ったときに切れてしまったり、弾力がなかったりすると、丸亀製麺のおいしい麺だとは言えません。

麺は何度も何度も嚙むことで、粘りが出てモチモチしてくるのだとか。大体、一杯につき20本ぐらいの麺が入りますが、そのうちの一本だけ出来の悪い麺があっても、麺匠は見逃しません。おいしい麺は表面がツルツルして光っていますが、ゆでる前に乾燥してしまった麺は表面がざらついています。その一本を見つけて、「19本はツルツルした麺でも、一本だけざらついていたら、おいしいうどんとは言えない」とパートナーさんたちにアドバイスするのです。

もちろん、出汁の味や温度などもチェックします。やはり人が実際に食べて味を確認しないと、味が変わったときに気づかないものなのです。この麺匠の仕事は年間に400軒、多いときは一日に10軒ぐらいの店を回ることもあります。

藤本さんは味覚を鈍らせないため、禁煙は言うまでもなく、家で食べるものも薄味にして味覚を敏感にしておくそうです。さらに、お店に行く前に舌を水やお茶で洗って、味がわかるようにしているのだとか。試食が続くときは、アイスクリームなどの甘いものを食べて感覚を戻すなど、努力の限りを尽くして丸亀製麺の味を保っているのです。

麺匠の仕事は、丸亀製麺の非効率の最たる例だといえます。

効率を考えるなら、麺匠をもっと増やして、各エリアに一人いるぐらいにしたほうが、効率よく店舗での指導をできます。しかし、人の味覚はどうしても違います。麺匠は、丸亀製麺にとっての「正解の味覚」を持っています。もし5人麺匠がいたら、それぞれの「正解の味覚」は異なるでしょう。

「俺はもっとコシが強いほうが好きだ」「私はもっとカツオのきいた出汁が好き」と、自分なりの味覚に正解の味を寄せてしまうと、丸亀製麺の味はバラバラになります。

したがって、どんなに非効率でも麺匠は一人だけ。それが味を守るということなのです。

最近では、新たに「麺職人制度」という制度が設けられました。麺職人とは、厳しい試験をパスした製麺担当者にのみ与えられる称号です。彼らは藤本さんのように全国の店舗を巡回し指導をするということはありませんが、勤務する店舗のうどんの味と品質を守る担い手として重要な役割を果たしています。

麺匠は一人ですが、これから麺職人のいる店舗を増やすことでさらにクオリティの向上を目指していきたいと考えています。

さて話を戻して、ここで、藤本さんがお店でチェックしている項目を、今回初めて公開します。皆さんも丸亀製麺に足を運んで、ぜひ確かめてみてください。

麺:
・ エッジは効いているか(麺は真四角ではなく、四方がくびれていると弾力が出て、出汁と絡みやすくなります。これを丸亀製麺では「エッジが効いている」と表現しています)
・麺の太さはそろっているか
・麺は乾燥する前に茹でているか
・太さの基準が守られているか
・太さに差が出た場合、太さに応じた温度のお湯で茹でているか
・ツルツル・モチモチの弾力のある麺になっているか

出汁:
・出汁が濁っていないか
・出汁が出ているか、香りはするか
・カツオ節が生きているか
・うどんになったときの麺と出汁のバランスはちょうどいいか
・出汁の温度は的確か

おむすび:
・ご飯の炊き上がり方はちょうどいいか
・硬すぎず、やわらかすぎず、ふわっとした食感になるよう握れているか

天ぷら:
・具材の切り方は適正か
・具材の水分は抜けているか
・天ぷらの形状はキチンとしているか
・衣がサクサクしているか