17日、中国国家統計局は2021年10-12月期の国内総生産が実質ベースで前年同期比4.0%増であったと発表した。4-6月期の同7.9%増、7-9月期の同4.9%増からのもう一段の失速は中国経済の停滞をあらためて印象づけた。背景には不動産不況やIT業界への統制に象徴される “先富論” から “共同富裕” への国策の転換、急進的な環境政策に伴う電力不足、地方政府の過剰債務、米中対立などの構造問題がある。加えて、経済の大きな足かせとなっているのが、新型コロナウイルスの封じ込め政策である。
中国のコロナ対策の原則は「ゼロコロナ」政策である。人口500万人都市であれば2日内に全住民のPCR検査を完了させる体制を全土に構築済みだ。“封じ込め” は成功したかに見えた。しかし、昨年夏以降、散発的に新たな感染が確認され始め、年末には人口1300万人を擁する西安市がロックダウンされるに至った。長距離バスの運行は停止され、幹線道路が封鎖される。年が明けると人口1400万人の天津市、550万人の安陽市でも感染が拡大、当局は間髪入れずに行動規制を敷く。モノや人の流れは実質的な制限下にあり、企業活動や市民生活への影響は軽くない。
実は当社の上海現地法人の社員もこうしたコロナ対策を、身をもって体験することとなった。1月11日、彼は河北省石家庄市へ出張したが、現地に到着するとスマートフォンの健康コード※の色が緑から黄色に変わっていた。そのため、当局が指定するホテルに強制隔離、2回のPCR検査を受けることとなった。理由はその日、天津で新たな感染が確認されたためである。しかし、石家庄と天津は300㎞以上離れている。では何故? 実は、12月29日、彼は出張で天津を訪れていた。つまり、2週間前の行動履歴に遡及して隔離された、ということだ。幸いにして陰性が確認され無事上海へ戻ることが出来たが、あらためて「ゼロコロナ」の徹底ぶりに驚かされるとともに、小説「1984年」(著者:ジョージ・オーウェル)に描かれた世界を想起せざるを得ない出来事であった。
※健康コード:感染リスクを緑・黄・赤で表示するスマホアプリ。当局の身分証明システムと連携、公共施設、交通機関、オフィスビル、ホテル等への実質的な通行証として運用されている。
今、中国は北京冬季オリンピックに向けての厳戒態勢下にある。そうした中、旧正月を祝う春節の連休がはじまる。コロナ前、期間中の旅行者は延べ30億人に達していた。しかしながら、今年は移動の自粛が求められており、また、帰省先、観光地、自宅エリアが旅行中に突然封鎖されるリスクもある。春節需要は大幅な縮小が避けられない。旅行、飲食、小売、レジャー業界への打撃は小さくないだろう。それでも事前の予想では12億人が国内を移動する。感染拡大のリスクは高まる。そうなると行動制限は更に強化される。まさに “負のスパイラル” だ。20日、中国人民銀行は先月に続き2か月連続で政策金利を引き下げた。状況次第では、“共同富裕” の一時的な棚上げもあるかもしれない。とすると政治の不安定さも強まる。1-3月期、2022年の中国経済にとって正念場だ。
今週の“ひらめき”視点 1.16 – 1.20
代表取締役社長 水越 孝