山梨大学ワイン科学研究センターの発足は戦後直後の1947年で、当時の大蔵大臣であった石橋湛山氏らが同センターの前身(山梨工業専門学校応用化学科醗酵研究所)の設立に尽力したほか、1949年に山梨大学が創設され、研究所が大学に引き継がれた際には東京大学農学部の教授陣のバックアップもあったという。さらには「酒博士」の坂口謹一郎氏も当時、教鞭をとっていた。
研究室の体制は酵母などを研究する「発酵微生物工学」、製造を研究する「機能成分学研究」、ブドウ栽培の研究を行う「果実遺伝子工学研究」、産学連携を担う「エクステンション」の4部門。 実際にワインを製造するための農場と工場も有しており、振動式選果機やジャケット付きタンク、窒素充填下での圧搾が可能な圧搾機に加えて、分析機器も多数取り揃えているが、免許は試験免許のため製造したワインを販売することはできないという。
社会人向けのコースも用意しており、ワイナリーの技術者などを対象とし年間140時間の実習と講義ののち、試験をパスすると「ワイン科学士」を名乗ることができる制度も整えている。2020年はコロナ禍のため中止しているが、今までに100名以上がワイン科学士に認定されている。それぞれのワイナリーでワイン製造に携わっており、各地で「日本ワイン」の発展を支えている。 また、国際的な交流も行っており、フランス・ボルドー大学から講師を招き、ワインの評価方法について講義が行われたほか、各国のワイン科学に注力する大学との交流会も行っている。
〈研究発表は野生酵母の安定した培養法を発表〉
山梨大学は「スケールアップ法」という野生酵母を安全に増殖させる手法を紹介。
ワインの醸造では市販の培養酵母を使うことが多いが、近年中小規模のワイナリーも増加し、野生酵母を利用した自然発酵を採用するワイナリーも増加している。
メリットはサッカロマイセス・セレビシエ(いわゆる酵母菌、以下「セレビシエ」)以外も発酵に関与するため、味わいを複雑にすることができる。加えて、その土地に存在する酵母を使用するためテロワールを表現するには適している。
一方、デメリットとしては品質の安定性を確保することが難しく、またオフフレーバーの発生や発酵の管理が困難なため品質の低下を招く恐れもある。
そこで野生酵母を使用しつつも、安定した酒質を獲得する手法を模索する中で、野生酵母を使用しながらも日本ワインコンクールで何度も金賞を獲得している丸藤葡萄酒工業(甲州市勝沼町)に醸造手法を聞いたところ、酒母立てを3段階に分けて行っているということが分かった。
最初は500mL、次に1L、最後に5Lで酒母立てを行い、最終的に200L規模の本発酵に移行するという手法で、「スケールアップ法」と命名された。
各段階での菌の分布を調べたところ、スケール初期ではセレビシエ以外の菌が多かったものの、スケールアップが進むにつれてセレビシエの割合が増加。本発酵の最終段階では900%がセレビシエになるという結果も得られた。
野生酵母を使いつつ、欠陥のない良いワインを造る有効な技術になりうると考えられる。今後の課題としては、異なる圃場やぶどう品種でのスケールアップ法の再現性の担保や、セレビシエ以外の菌の役割の解明などを挙げた。
〈酒類飲料日報2021年12月23日付〉