経営者が身につけたい「人を活かす経営の新常識」
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第4次産業革命の波

 今後の世界の社会・経済と働く現場の変化を考える上で避けて通れないトピックである、第4次産業革命。
 内閣府の整理では、第4次産業革命とは、18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続く、大きな技術革新を示すもの。IoT(Internet of Things、物のインターネット)とビッグデータの活用、AI(人工知能)とロボティクスの飛躍的な発達などによってもたらされる、産業の革命的変化とされています。(平成30年度「年次経済財政報告」〈経済財政政策担当大臣報告〉参照)

人の仕事の半数がAIやロボットに代替される!?

 「日本では、AIやロボットで仕事の約半数にあたる49%が代替可能になる。」2015年末に、英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授らと野村総合研究所の共同研究によるショッキングな報告が公表されました。
 以降、工場の無人化や銀行の店舗縮小やロボットが働くホテルなども登場し、働く人たちは仕事を失う不安をあおられ続けています。創造性や協調性が求められる仕事は代替されにくいといわれる一方で、いまや経営者もAIで務まるのではないかという主張もあります。

 ただし、その後この研究はAIを過大評価し過ぎているとし、OECDでは9%が妥当という指摘も出てきました。とはいえ、最近では、AIなどの技術革新によって消滅する雇用より、新たに創出される雇用が上回るとの予測も出され、論議は留まるところを知りません。
 現時点で一つ言えることは、いま私たちは、業界や職種を問わず、人こそが担い続ける意味がある仕事は何か、自分だからこそ付加価値を生み出せる働き方は何かが、問い直される時代に働いているということです。

常に変化への対応が問われてきた

 しかし、産業革命の歴史をさかのぼれば明白ですが、これまでもテクノロジーの進化によって働く現場の仕事は変化し続けてきました。
 例えば、今の20代の人には想像がつかないと思いますが、平成の初めまでは駅の改札口には駅員が立ち並び、乗客が手渡す切符一枚一枚に改札鋏を入れていました。朝夕のラッシュ時の素早い仕事ぶりは、正に熟練の技でした。しかし今では自動改札機にその役割を譲り、一部のローカル駅でのスタンプ式検札が残るのみです。
 また、空港の荷物の預け入れも、かつての人手による処理から機械処理に替わってきました。人より機械が行うことで利便性や正確性が増す仕事は、常に代替されてきたのです。

 中高年層にとってみれば、確かにAIやロボットによる技術革新、DXの潮流は、自分の職業人生のなかで経験したことのないものであり、ことさら不安を覚えるのも当然です。しかし、たとえ今の自分の仕事が機械に代替されたとしても、決してキャリアが終わるわけではありません。そのためには、悲観から思考停止に陥るのではなく、新しく貢献できる仕事や役割を見出して、必要な知識や技術を一歩ずつ身に着けていくことです。

 時代の変化に背を向け、現状維持に執着していては、人生100年時代に長く働き続けることは難しいでしょう。平成の30年間の日本経済の低迷も、私たち一人ひとりが変化を拒み、新しい時代を前向きに切り拓く挑戦を怠ってきた代償と言えるかもしれません。

ジョブシーカーではなくジョブクリエイターになる

 ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の講演を聴く機会に恵まれたことがあります。ユヌス氏は、1983年にグラミン銀行を創設し、スモール起業への無担保小口融資によってバングラデシュの貧困層の自立支援に成功し、いまや世界に影響を及ぼす社会起業家の雄です。この融資事業の草創期は、猛反対を受けたそうです。最貧困層への融資に意味があるのか、資金回収ができるのか、金融の常識では考えられないとの反発です。

 しかし、そもそも金融事業とは渋沢栄一らが作った銀行が象徴するように、戦後の焼け野原で人がゼロから立ち上げた事業に融資を行い、0を1にし、さらに5や10に成長させることで社会経済を発展させる原動力であることが存在意義だったはずです。それがリスクを回避し現状維持に甘んじてきたために、現在の金融機関の危機があると言えるのではないでしょうか。

 ユヌス氏は訴えます。明日の食事にも困る暮らしのなかで、何とか前向きに生きようとしている人たちがいる。一人ひとりに信用力はなくても、数人がチームを組んで励まし合いながら小さな事業を興す。その営みに融資をすることで、最貧困から脱する成功事例が数多く生まれてきた。現状維持ではなく、今困っている目の前の課題を自分自身で工夫し解決しようとするなかから、イノベーションは生まれるのだ、と。
 「ジョブシーカー(仕事を探す人)ではなく、ジョブクリエイター(仕事を創る人)になろう」というメッセージには、深い感動すら覚えました。

社会に貢献する人材、組織であるために

 規模の大小や歴史の新旧にかかわらず、創業の目的や理念の下、経営を続け社会に貢献してきた各企業で、これまで先人が創ってきた事業や仕事は価値のあるものです。しかし、今や技術革新による変化のなかで、その見直しや刷新も求められています。その役割は、いまに働く一人ひとりが担わなければならないはずです。そして、次の世代にバトンを渡していくのです。

 AIやロボットは、これまでの仕事に余力を生み出すともいえるでしょう。その余力を顧客のため社会のためにいかに役立てていくか。人だからできる仕事、自分だから貢献できる仕事を一人ひとりが考え、創出していくことが求められているのです。この結果として、AIやロボットに代替されない人材になれるのではないでしょうか。

※本稿は前川孝雄著『人を活かす経営の新常識』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

職場のハラスメントを予防する「本物の上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)
及び『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)

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