矢野経済研究所
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トヨタは2030年までのEVの世界販売目標を200万台から350万台へ引き上げる。HVを含む電動化投資額は8兆円うち4兆円をEVへ、車載電池には別途2兆円を投じる。また、国内の市場開拓をはかるべく2025年までに全国の販売店に急速充電器を設置する。
一方、会見ではトヨタの基本戦略はあくまでもHV、FCVを含む「全方位」戦略であることを強調、「トヨタは多様な市場を相手にしている、優先順位はつけない、各国のエネルギー事情や市場動向に素早く対応することで生き残りをはかる」との考えを示した。

とは言え、上方修正は紛れもなくトヨタの “本気” を示している。欧州、中国勢に比べてEVに消極的と評されてきた日本勢であるが、ここへきて日産も2026年までに2兆円を投資、2030年までにEV比率を50%以上に拡大すると発表、ホンダも2040年までに世界で販売する全車種をEVまたはFCVにすると宣言している。12日、アブダビで開催されたF1最終戦の当日、ホンダは「Thank you MERCEDES, Thank you FERRARI、、、」とライバル達への感謝を新聞広告に掲載、“エンジン・サプライヤー” としての戦いの終わりを世界にメッセージした。

経済産業省もEV、PHV、FCVの購入補助金を42万円から80万円に引き上げる。しかしながら、閣議決定された令和3年度補正予算の要求額は、購入補助金に充電インフラ整備の費用を加えても375億円だ。GoToトラベルにはその7倍、2685億円が新たに計上されている。日本と同様、EV化に後塵を拝した米国は充電設備のネットワーク構築に75億ドルを投じる。自動車産業における競争優位の喪失は国際市場での敗退を意味する。2030年までにEV用充電スタンドを現在の5倍15万基、水素ステーションを同6倍1000基とする政府目標を達成するためにも、大胆かつ集中的な投資計画を策定いただきたい。

14日、東京都は板橋区と連携してEVバイクのバッテリーシェアリングの実証実験をスタートさせた。東京都は2035年までに都内で販売される二輪車の100%非ガソリン化を目指しているが、これはその一環である。具体的には個人と事業者向けにEVバイクを貸出、板橋区の施設やコンビニ店舗に交換スポットを設置し、バッテリーをシェアリングする。対象はバイクであり、実験の規模も限定されている。しかしながら、メーカーと行政がどんなに笛を吹いても、需要サイドが価値を共有しない限り市場の創造はない。その意味で、次世代モビリティ社会の一端を生活の中で体験することの意味は小さくない。取り組みの広がりと積み重ねに期待したい。

今週の“ひらめき”視点 12.12 – 12.16
代表取締役社長 水越 孝