西利代表取締役社長・平井誠一,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

独自製法の高級食パン~漬物からスイーツまで

東京・池袋の「西武百貨店」で開かれていた京都のおいしいものを集めた物産展「京都名匠会」。コロナもやや落ち着き、にぎわいを取り戻していた。丹後の有名店「とり松」の看板メニュー「ばらずし」や、創業266年を数える京菓子の老舗「俵屋吉富」の生菓子、さらに京都土産の定番、お麩や漬物などが色鮮やかに並ぶ。

そんな中、ひときわ長い行列ができていたのが西利の「甘麹熟成食パン」。2斤で1296円するが、独特の甘みが熱いリピーターを生んでいる。高級食パンのブームが続いているが、これはまったく違う製法で作られていると言う。

世界文化遺産・西本願寺の目の前にある下京区の西利の本店。京都観光のルートに入っており観光バスも乗りつける。客が土産として買い求めていたのが漬物だ。京都の三大漬物といえば千枚漬、しば漬、すぐき。西利はこうした京漬物の最大手なのだ。

およそ80種類の漬物を作っている西利の食パンには、漬物の発酵技術が使われている。

パンは本社の地下で作られていた。通常、パンはイースト菌で膨らますが、西利はさらに甘麹を加えている。甘麹は薄めればそのまま甘酒になる。だから甘みの強いパンになる。

この甘麹を発酵させているのがラブレ乳酸菌。1992年に京都の伝統漬物すぐきから発見された特別な乳酸菌だ。

「腸の働きを整えて肌の艶が良くなる。一番大きな特徴は、免疫の力を高めていろいろな病気に対抗する貴重な乳酸菌の1つだと考えています」(ルイ・パストゥール医学研究センター・山本研介さん)

発酵の温度管理などが難しかったが、西利はこれを克服。甘麹にラブレ乳酸菌を入れて発酵させ、通称「アマコウ」を完成させた。それを生地に練り込み焼きあげると、自然な甘みに加えて身体にやさしい食パンに。健康志向にマッチしたヒット商品となった。

西利は2020年夏、「アマコウ」を売りにしたカフェ「アマコウカフェ」もオープン。メニューには「アマコウ」の入った食パンや塩パンがあり、口コミで人気となっている。セットメニューの「サラダランチBOX」(700円)では、パンだけでなくスープやサラダのドレッシングにもラブレ乳酸菌が入っている。

さらに「アマコウ」入りのスイーツも展開。「甘麹チーズプリン」(292円)は滑らかな口当たりのチーズ風味のプリンで後味はヨーグルトという新感覚スイーツだ。「アマコウ」とフルーツをミックスしたヘルシーな「乳酸発酵甘麹ドリンク」(250円~)も、ラブレ乳酸菌入りということで女性客に人気が高い。

西利代表取締役社長・平井誠一,カンブリア宮殿
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京漬物の老舗のこだわり~発酵技術で健康食品を

西利代表取締役社長・平井誠一,カンブリア宮殿
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4代目社長・平井誠一(54)は「もっとおいしいお漬物を作りたい。世の中にない新しい漬物を作りたいんです」と言う。

西利はこれまでも新しい漬物を作ってきた。1985年に売り出したのが「京のあっさり漬」。普通の浅漬けとは違う旨味があり、いまだに大ヒットを続けている商品だ。

漬け込む時間が短い浅漬けは、どうしても淡白で深い味わいになりにくい。そこで西利は軽く塩で下味をつけてから、京料理では定番の昆布だしでもう一度、味をつけてみた。すると、あっさりしながらも旨味のある新しい漬物になった。しかも塩分は従来の半分程度。これが世の健康志向とマッチし、大ヒットを生んだ。

他の会社も後を追いかけ、昆布の風味がつけられる調味液などを発売。90年代に一大浅漬けブームを巻き起こした。今ではすっかり定着した簡単に作れる浅漬けは、西利がきっかけで生まれたのだ。

また、漬物離れを少しでも止めようと、西利は漬物の新しいアレンジレシピをSNSなどで提案している。例えば、シャリに漬物がのった「手まり寿司」。彩りがよく、もてなし料理にもピッタリだ。考案したのは入社3年目の営業販売促進部・松浦茉南。調理師免許とパティシエの資格を持つ創作料理のエキスパートだ。

「お漬物はそのまま食べるだけというイメージが強いのですが、いろいろな料理に合うことを知ってほしくて発信しています」(松浦)

レシピはどれも簡単。冬にピッタリ新しい味わいの鍋なら、まず浅漬けとぬか漬け、2種類の白菜漬けを用意。浅漬けは少し幅を取り、ぬか漬けは千切りにしておく。これを昆布だしを張った鍋に入れ、豚肉やプチトマト、ネギなどと一緒にグツグツ。浅漬けとぬか漬けの異なる味わいが絶妙にマッチした「あったか鍋」だ。

だが、西利が最もこだわっているのは漬物のクオリティだ。

<こだわり1・契約農家の厳選素材>

西利は基本的に市場に出回る野菜は買わず、農家と独自に契約。西利用に作ってもらった野菜だけを使っている。

契約農家の一軒、京丹後市の今井一さんは西利と30年以上の付き合いだが、ハードルは高いという。例えば大根なら「長さ32センチ以上。太さは7.5センチから8.5センチまで」(今井さん)。表面に傷があったり、曲がっている大根はNG。切った時に色が悪かったり、鬆(す)という小さな穴が開いているものもはねられる。

農家は大変だが、それに見合うメリットもある。

「(市場への出荷は)天候に左右されて収益が悪い時もありますが、安定的に買い取ってくれるので、経営の中では計算できる」(今井さん)

卸価格が大きく変動する市場と違い、西利は最初に決めた価格で買ってくれると言う。

「毎年毎年が勉強なので、難しいといえば難しいですが、誇りです。西利さんに自分が供給しているのはうれしいですね」(今井さん)

契約農家は全国におよそ100軒あり、「おいしくて安全な素材」を届けてくれる。

<こだわり2・企業秘密だらけの製造現場>

契約農家で採れた野菜は、2000坪以上ある巨大な自社工場へ。作っていたのは「聖護院かぶら」の千枚漬だ。機械でスライスした「かぶら」を均等に並べ漬け込んでいくのだが、その作業には目にも止まらぬ職人技が。鬆(す)が入ったものを一瞬で弾いていく。小さな穴を一瞬で見極めるのだ。

こうして選別されたきれいな「かぶら」だけが漬け込みの工程に回るのだが、味付けに関わる工程は企業秘密。門外不出の伝統製法を80年以上守り続けている。

<こだわり3・1億をチェック>

西利本店の4階に自前の研究室がある。その一角で女性スタッフが「お漬物にラブレ乳酸菌がどれぐらい入っているかの検査をしています」。西利では、1日に1億のラブレ乳酸菌を腸に入れる「腸活」を提案している。そこで1食分の漬物の菌の数を調べていたのだ。 ちなみに、もし菌の数が足りない場合は商品の出荷を停止してしまうという。こんな地道なやり方で、西利は客の信頼に応えてきたのだ。

「伝統的な発酵という技は世界でも通用すると思っており、世界的に健康意識が高まる中で、日本の発酵文化は、さまざまな仕事ができると思っています」(平井)

西利代表取締役社長・平井誠一,カンブリア宮殿
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「漬物以外には手を出すな」~家訓を破ってヒット商品に

西利代表取締役社長・平井誠一,カンブリア宮殿
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西利の創業は1940年。平井の祖父・太朗が丁稚奉公先から暖簾分けしてもらったのが始まりだ。小さな店を構えつつ、卸売を主体とした商売だった。それを躍進させたのが平井の父で2代目の義久と、その弟で3代目の達雄だ。

「2代目の義久は販売促進・企画に長け、3代目の達雄は製造技術に長けていた。二人三脚でした」(平井)

1981年には「横浜高島屋」に出店。京漬物の会社として勝負をかけ、全国展開に打って出た。今では関東にもすっかり根付いている。 3代の経営者たちによって全国区の人気を獲得した西利だが、日本人の食生活が変わりご飯離れが進むと、漬物を食べる機会も減っていく。漬物の生産量は1991年をピークに減り続け、漬物ひと筋の西利の売り上げも落ち込んでいった。

そんな会社の立て直しを託され、2013年、平井は社長に就任した。まず着手したのが不採算店の整理。当時65店舗あったうち20店を閉店、人員も整理した。再就職の面倒まで見たが「心が痛かったです。(従業員から)『私たちの力不足』という言葉をたくさんいただいた。そういう思いをさせたのは申し訳なかったという気持ちがあります」。

残った従業員を守っていくためにも、平井は「漬物以外には手を出すな」という先祖代々の家訓を破る。

「もっと大勢の方々に健康的な食生活を提案したいので『漬物以外も売ります』という話をすると、(先代社長は)『時代の流れだし、ええんちゃうか』と」(平井)

まず作ってみたのがサラダ。ラブレ乳酸菌入りのヘルシーなサラダで、若者好みの洋風な味付けにしたのだが、売り場に来たお客さんの反応はつれなかった。

「『いや、漬物を買いに来たので、サラダを買いに来ているのではない』と。これはあかんなと思いました」(平井)

漬物売り場で一緒にサラダを売ってもダメ。別の売り場が必要だ。そこで平井は漬物以外を売る新たな店舗を設け、「発酵生活」というブランドを立ち上げた。商品の幅を広げ、乳酸発酵のスープやドレッシングなども製造。しかし、売り上げは伸びなかった。

「ずっと悩んでました。やってもやってもうまくいかないので、今やっている戦略が西利にとって必要で正しいのかどうか、すごく悩む時期があったんです」(平井)

求められる発酵食品はないのか。平井は自由な発想を求め、全社員からアイデアを募集した。すると当時、企画開発部にいた小山美代志があるものを提案してきた。

「生クリームの代わりに『アマコウ』を使ってレアチーズケーキを作ってみました」(小山)

漬物会社ということで野菜にこだわってきた西利にとって、斬新な提案だった。

「普段レアチーズケーキは食べられないと言っていた社員もこれは食べられたので、もしかしたらいけるんじゃないかという話になりました」(小山)

レアチーズケーキを商品化すると、漬物以外の商品がようやく人気を呼ぶ。チーズプリンやチョコレートなどスイーツの分野への進出のきっかけとなり、それが高級食パンの成功へと繋がっていった。

漬物離れが進む若い世代をターゲットに西利が作ったのは、牛乳のパックのようなパッケージの「ラブレ乳酸菌入り漬物7日間セット」(1155円)。中には小分けした20グラムの漬物がちょうど1週間分、7つ入っている。これ1個でラブレ乳酸菌1億が取れる。ガチャガチャと同じで、何の漬物が出るかは取り出した時のお楽しみ。常温での保存がきくのでお弁当や旅行にも重宝されている。SNSには「イラストもかわいい。今日は何から食べようかな」といった声が上がっている。

※価格は放送時の金額です。

西利代表取締役社長・平井誠一,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

~村上龍の編集後記~

西利のパンを食べた。京都にしか出せない味だなと思った。甘いのだが、絶対に甘すぎない。「旬、おいしく、やさしく」が理念で、客との約束なので変わらず守り続ける。「旬、おいしく」までは常識だが、「やさしく」が京都にしかない哲学だ。第3の創業として漬物屋の殻を破ろうとしたときも「やさしく」を大切にした。平井さんは、どこか超然として、必死さを感じなかった。必死なのだが、それを感じさせないゆとりがある。京都だけが持つゆとりだ。

<出演者略歴>
平井誠一(ひらい・せいいち):1967年、京都府生まれ。1991年、大阪学院大学卒業後、山本海苔店にて修業。1993年、西利入社。2013年、代表取締役社長に就任。

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