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日本企業をめぐる人材不足は深刻です。その状況はとくに中堅・中小企業で顕著に表れています。
本記事では、人材不足にお悩みの中堅・中小企業を対象に、人材不足に陥っている原因とその具体的な解決策について解説していきます。

日本の人手不足の現状

日本の人口は、2008年の1億2,808万人をピークに減少し続けており、この傾向は今後半世紀近く続くものと考えられています。また、日本経済を支える生産年齢人口は1995年がピークです。当然、生産年齢人口も同様に減少を続けています。
さらに、出生率の低下による少子化も加速していますが、今のところ有効な対策を政府が打ち出せていません。この傾向も同様に当面の間続くものと考えられています。

総務省のデータによると、日本の生産年齢人口は1995年の8,716万人をピークに、2020年には7,341万人(▲15.7%)まで減少していました。
また、今から9年後の2030年には、6,773万人(▲22.2%)程度まで減少する、という予測を出しています。このような生産年齢人口の減少による人手不足の影響は、特に小規模事業者に大きな影響を与えています。下図のように、小規模企業の労働者数だけが大幅に減少していることが証拠といえるでしょう。人手不足の影響は、やがて小規模企業から中規模企業へ、そして最終的には大企業へとドミノ倒しのように波及していくことが予想されています。

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出典:『2019年中小企業白書』をもとに作成

次に、企業の倒産件数を確認してみましょう。今のところ政府の打ち出す経済対策により、下図のように倒産件数そのものはかなり低く抑えられています。
その一方で、企業件数は中規模企業と小規模企業を中心に、急激に減少していることがわかります。

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出典:中小企業庁『令和元年の中小企業の動向』をもとに作成

総合的に判断すると、倒産件数そのものは今のところ増加していないものの、企業件数は減っていることがわかりました。このまま生産年齢人口の減少が続けば、今後は小・中規模の企業を中心に倒産数が増えていくでしょう。
このような現状を踏まえたうえで、次章より、人手不足の原因と業界別の対策方法について解説していきます。

日本全体が人手不足な理由

中堅・中小企業を中心に、日本中の多くの企業が人手不足に悩まされています。その背景には、日本全体の人口動態をめぐる問題があるだけでなく、求人をめぐる問題もひそんでいます。
そこでこの章では、日本全体が人手不足である背景や理由などの理解を深め、自社の人手不足を解決する糸口が見つかるきっかけを掴んでみましょう。

少子高齢化

日本全体が人手不足である1つ目の理由は、少子高齢化です。
戦後日本の出生者数は、毎年均一ではありません。第一次、第二次ベビーブームの期間に人口が大幅に増え、その後はゆるやかに推移し、近年は急激に減少していきました。また出生率は、第一次ベビーブームのときは4.32だった のに対し、2020年には1.34にまで減少しています。
戦後日本の人口のボリュームゾーンである第一次ベビーブーム世代(1947年から1949年)は、2007年に60歳を、そして2012年には65歳を迎える年です。その大半が現在では労働市場から撤退しています。現在の人手不足のきっかけは、2007年に退職を迎えた第一次ベビーブーム世代(=団塊世代)の、労働市場からの大量離脱に端を発しています。
また、少子化を加速させている要因としては、男女を問わず非婚化・晩婚化が進んでいることが挙げられるでしょう。女性の社会進出が徐々に進んだ1970年代後半より、20代女性の未婚率が急激に上昇した結果、結婚年齢は上がり晩婚化がはじまりました。

年齢別出生率は1970年に20代なかばでピークを迎えています。しかし徐々にそのピークは下降線をたどり、出産年齢が高まるにつれて出生率は低くなっています。つまり出生率の低下と晩産化が同時に進行していったのです。
一方で、医学の進歩や食生活をはじめとする生活環境の改善などにより、高齢者が増加した結果、高齢化社会も加速していきました。
人口の年齢構成に変化がないと仮定した場合の年齢調整死亡率は、男女ともに右肩下がりで下がり続けています。昭和22年(1947年)には男性23.6%女性18.3%だったものが、平成27年(2015年)には男性4.9%女性2.5%にまで下がりました。このように 少子化と高齢化が同時に進んだことによって、採用した人数よりも退職する人数のほうが多く なります。
欠員を補うだけの補てんができず、その結果、日本中のあらゆるところで人手不足の状態が起きる事態になっていきました。

大都市圏への人口集中

2つ目の理由は、都市部への人口集中です。
日本の人手不足は、少子高齢化による人口構造的なものが理由となっているだけではありません。日本の人口が大都市圏に偏在していることにより、都市部以外の人手不足をさらに加速させています。
総務省が作成したデータによると、東京・名古屋・大阪の三大都市の人口は、戦後一貫して増え続けていることがわかります。それに対し、三大都市圏以外の地域の人口は1955年の調査開始以来、一度も増えることなく減少し続けている現状です。このように、都市部に集中している人口分布は、これから先も続くことが予想されています。三大都市圏以外の地域の人口は、ますます減少していくでしょう。

このような都市部への人口集中のはじまりは、高度経済成長の時代にさかのぼります。東京をはじめとする都市部では大規模な雇用が生まれ、それにともない教育や医療、情報などが集中したことで、人口も集中しました。
また、高速道路や新幹線をはじめとする鉄道網が整備されたことにより、周辺都市との移動が簡単にできるようになった結果、都市部が周辺部の人口を吸い上げていく「ストロー現象」が発生しました。
その結果、都市部はますます人口が増加する一方で、地方では過疎化が深刻な状況を迎えています。つまり都市部に限定すれば、人口減少による人手不足は、都市部以外からの流入である程度補えます。
しかし都市部以外では、人口減少と都市部への移動により、今後の人手不足はさらに深刻化していくことでしょう。

有効求人倍率の偏り

3つ目は、企業側と求職者側のマッチングが合わないことによる、有効求人倍率の偏りです。
慢性的な人手不足で、「猫の手も借りたい」と思っている企業がある一方、働きたいものの希望職種の求職情報が見当たらないケースが多く見られます。
厚生労働省による、令和3年2月における全国の有効求人倍率調査によると、建築系の人材がまったく集まらないのに対し、事務系の仕事は求職者数が余剰しているものが多く、 人材の需要と供給が完全にミスマッチ を起こしています。

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建築躯体工業の職業は、新規求人倍率は11.96倍、有効求人倍率は8.78倍もあるのに対し、一般事務の職業は新規求人倍率が0.65倍、有効求人倍率にいたっては0.33倍しかありません。
以上のことから、建築躯体工業の職業にはいかに人が集まらないのか、また一般事務の職業にはいかに人が集まりすぎているのかがわかります。このような状況は随所に見られ、有効求人倍率の偏りが人手不足を生む3つ目の理由となっています。

人手不足が問題になっている業界

次に、人手不足が深刻になっている業界を具体的にいくつか挙げ、業界ごとの人手不足の現状や、人手不足になる理由や背景などについて解説していきます。今後の業界動向などを踏まえたうえで、自社の人手不足を解消するヒントとなるように考えてみましょう。とくに人手不足が深刻化している5つの業界について見ていきます。

建設業界

人手不足がもっとも深刻といわれているのは建設業界です。建設業界は、日本経済の基盤を支える、社会インフラ整備の貴重な担い手であるだけではありません。地域経済や雇用を支え、災害の多い日本の安全を支える守り手として、大切な役割を果たしています。
国民生活の維持・向上を目指すうえで、建設業界の持続的発展は欠かせない最重要事項の一つといえるでしょう。しかし、熟練技能者はすでに高齢化しており、建設業界の退職者は今後も増え続けていくと思われます。
一方、建築業界を目指す若年労働者の数は、求人者数を補てんするにはほど遠く、人材の需給ギャップの大きさについては前章で述べたとおりです。
老朽化した橋や、道路などのインフラ整備はもちろんのこと、災害などに対する国土強靭化計画やリニアモーターカーの開通工事など、建設業界に対する需要は変わらず続いています。しかし、他業種に比べて30歳未満の若年齢層の就業者は少なく 、求人募集や仕事の定着がうまく進んでいない業界です。

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出典:厚生労働省職業安定局作成『人手不足の現状把握について』をもとに作成

建設業界の人手不足が解決しない理由は、仕事内容の過酷さや若年層を教育するシステムが整備されていないことに加え、賃金の水準が低いことや業界のイメージがあまりよくないことなどが挙げられます。
このまま人手不足の状態が進むと、熟練作業員は退職し、数少ない経験年数の浅い若年作業員が建設業を支える中心となるでしょう。その結果、インフラ整備の遅れや技術不足からくる危険性が高まり、さらに進めば国民生活の安定が脅かされる事態となりかねません。

医療・介護業界

2番目に人手不足が深刻なのは、医療・介護業界です。高齢化社会を迎え、医療・介護業界に対する社会的ニーズは今後ますます高まっていくことは明らかでしょう。それにもかかわらず、下図のように慢性的な人手不足は深刻化しており、改善される目処は今のところ立っていません。
医学の進歩による高齢者の増加に反し、少子化により生産年齢人口は減少しています。医療・介護の分野でも、人材の需給ギャップはまったく埋められていません。

とくに介護人材の不足は深刻です。厚生労働省のシミュレーションによると、2025年に向けた介護人材の需要見込みが253万人であるのに対し、現状の増加率で推移した場合の介護人材の就業者数は215.2万人にとどまります。つまり、37.7万人もの人手不足が発生するとの予測です。

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出典:厚生労働省作成『2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について』より一部抜粋

介護業界が人手不足である理由は、急激すぎる高齢化に供給側が追い付いていない点がまず挙げられるでしょう。加えて、仕事内容の厳しさに反して賃金体系は低いため、若年層の就業者数が少ないことなども理由の一つです。

また医療業界についても、慢性的な医師不足に加え、医師の数が都市部およびその周辺に偏在していることから、地方の医師不足は深刻な状況になっています。とくに、過疎化が進んでいる地域における医師不足は、待ったなしの状況です。このまま人手不足が進めば、地域医療の維持が難しいところまで来ています。

運送業界

3番目に人手不足が深刻なのは、運送業界です。運送業界により、Amazonをはじめとするインターネット通販や、メルカリなどのフリマアプリによる個人売買を可能にしています。実店舗からインターネット通販への流れはもはや不可逆なものですが、この流れが成り立つのも運送業界があってこそ、です。
今後もますます需要が見込まれそうな運送業界ではありますが、この業界もやはり人手不足が深刻となっています。

運送業界の人手不足の原因は、今から約30年前にさかのぼります。1989年当時、規制緩和による競争の促進と、安全規制の強化による輸送の安全を目的として、貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法が施行されました。
2法の成立による規制緩和の結果、トラック運送業界への新規参入者数が一気に増えたことにより、運送会社同士の競争が激化していきます。こうして経済界の要望どおり、物流業界のコストダウンが成功しました。
運送業の利用者にとって、この競争激化によるコストダウンは拍手をもって迎えられました。対して、就業者側は長時間労働や低賃金などの過酷な労働環境です。このような労働環境により、現在の人手不足につながっていると考えられています。

また、運送業界はほかの業界と比べて所定外労働の時間が長いことが特徴です。この点も、就業者の就業意欲や労働者の定着率を下げている、大きな原因の一つといえるでしょう。
同時に、軽貨物などに参入する零細業者が増加したことにより、下請け業者が多重構造化しました。中抜きを繰り返された末端の事業者は、低賃金で仕事を受けざるを得ない状況に陥っています。
このように、過酷な労働環境と低賃金体質が続けば、運送業界の人手不足はますます悪化していくことになるでしょう。

宿泊・飲食サービス業界

4番目に人手不足が深刻なのは、宿泊・飲食サービス業界です。もともと競争が厳しく、薄利多売の利益構造ではあるものの、短期的なインバウンド需要により一旦は景気がよくなりました。しかし、昨今は新型コロナウイルスによる打撃を最前線で受けたことで、多くの事業者が青息吐息の経営状況に陥っています。

その結果、宿泊・飲食サービス業界では、女性や学生などの非正規雇用労働者を中心に、就業者数や雇用者数が大幅に落ち込んでいます。さらに労働時間の減少によって、平均賃金は大幅に減少しました。コロナが落ち着けば業界の人手不足も徐々に落ち着いていくはずですが、今のところ回復の気配が見られません。
業界のイメージ自体は決して悪くなく、飲食業界に就職する人は多いものの、パートや非正規雇用などの従業員が多いことも要因です。パートや非正規雇用になると短期間での離職者が多くなり、慢性的な人手不足を生み出しています。

上記を見ると、宿泊・飲食サービス業界は全業種のなかでもっとも入職率が高いにもかかわらず、離職率はそれ以上に高いため、慢性的な人手不足に陥っています。また、飲食サービス業界は新規参入者が後を絶たないのが特徴の一つです。その結果、過剰な競争原理が働き、従業員の低賃金化が固定されています。
したがって、宿泊・飲食サービス業界は、以下のような負のスパイラルから抜け出せない状況です。

  • 正社員の雇用が難しい
  • パートや非正規雇用者に頼るために定着率が低くなる
  • 低い定着率では職業技術を身に着けることが難しく、単価の高い仕事ができない
  • 収益が上がらないため賃金も上げられない
  • やがて離職する

宿泊・飲食サービス業界の人手不足は、業界内の構造的な問題に起因している部分が大きいので、抜本的に改革を行わない限り、慢性的な人手不足を解消することは難しいでしょう。

情報サービス業

5番目に人材不足が深刻なのは、情報サービス業です。IT業界を中心とする情報サービス業は、これからの社会を牽引していく大切な業界の一つです。今後のマーケットとしても、有望であるのは間違いありません。しかし、人材が東京などの都市部を中心に偏在しており、地方は常に人材不足です。その結果、デジタル化社会に向けた都市部と地方の格差は開く一方となっています。
報酬体系は、年功序列ではなくスキルに応じた高い報酬水準を設定している企業も多く、技術力さえあれば、高い報酬を手にするチャンスが多くあります。そのため、入職者にとって魅力的な業界といっていいでしょう。

ただし、このような報酬体系は大手元請企業などの場合の話です。IT業界は多重下請け構造のため、商流が下がれば下がるほど報酬や労働環境の条件は厳しくなる傾向にあります。
またほかの業種とは異なり、情報サービス業の場合は一定年齢以上の人材が集まることはまれです。比較的新しい業界なので、経験豊富なベテランの数が少ないためです。その点がかえって不安をあおり、人手不足を加速させている可能性があります。長く働き続けられる点をアピールすることも、人手不足を解消するための有効な手段の一つでしょう。

企業が人手不足を解消するための7つの解決策

前章で紹介したように、人手不足が起こりやすい業界は、人手不足が起こりやすい構造的な問題をそれぞれに抱えています。一方でそのように厳しい環境でありながら、人手不足を解消して、さらに売り上げを伸ばしている企業もあります。

そこで、人手不足を乗り越えた企業が行ったさまざまな方法のなかから、とくに効果的とされる解決策を7つ紹介しましょう。

①社員の待遇を改善する

中小企業が人手不足を改善するためには、まず社員の待遇を改善することを行うべきでしょう。労働条件が悪いと、どれだけ求人をしても敬遠されてしまいます。また、仮に入社したとしても高いモチベーションを維持できず、生産性は落ちていきます。その結果、長続きすることはなく、離職率が高くなってしまうでしょう。
もし、自社と照らし合わせたときに、先述した状況と似たような部分がある場合は要注意です。このような状況だと、どれだけリクルーティングに力を入れたとしても、同じことを繰り返すだけでしょう。
「社員の待遇を改善する」というと、給料やボーナスなどの金額的な条件面だけに注目しがちです。しかし、雇用される側は金銭面と同じように、福利厚生の充実や有給休暇の取りやすさ、リモートワークへの取り組みや副業の許可の有無なども重視しています。

管理職側が現代の価値基準にアップデートされていない感覚のままで、社員の待遇をどれだけ考えても、ピントのずれたものしか頭に浮かびません。労働基準法に抵触しないように福利厚生を充実させていることをアピールしても、現代では当然のことなので、労働者にはひびかないでしょう。「自分たちの頃はこうだった」という考えは捨て、「今は何が求められているのか?」を常に考え、働き方改革に積極的に取り組む柔軟さをもつように心がけましょう。

②職場環境を改善する

人手不足に苦しむ中小企業にありがちなのが、職場環境に対する意識の低さです。そもそも、心地よく仕事ができる環境を提供できなければ、従業員のポテンシャルを最大限に引き出せません。この状態では、生産性は低く離職率だけが高い会社になってしまいます。
旧態依然とした職人体質や、行き過ぎた上下関係などは、社内全体のコミュニケーションを悪化させ、ノウハウやさまざまな情報の共有を阻害してしまいます。入社希望者が職場見学に来た際に、従業員が楽しそうに生き生きと働いている職場でなければ、ここで働きたいとは思わないでしょう。
社内の雰囲気や社員同士のコミュニケーションの有無、服装や照明の明るさや職場の清潔さなども含め、見た人にネガティブな印象を与えないように常に気を配りましょう。

③人材育成を試みる

人手不足を感じる原因の一つとして、社員の業務能力に問題がある場合があります。社員一人ひとりの業務能力がアップすれば生産性が高くなり、人手不足を感じなくなるはずです。
そのためには、社員を教育する環境を充実させ、人材教育に力を入れてみましょう。一人ひとりが数パーセント能力をアップするだけでも、場合によっては社員数人分の戦力に相当します。
また、評価制度を見直して、スキルアップに取り組む従業員のモチベーションを持続させる仕組み作りを行うことも効果的です。「勉強に取り組む」「成果を出す」「賃金が上がる」というサイクルをうまく回すことで、人手不足を乗り切ることが可能になるだけでなく、自社のステージを何段も上に押し上げられます。
そのほかにも、業務が一部の人材に集中していないかどうかも確認しておきましょう。業務の負担を全社員に平準化しただけで、人手不足が改善される場合もあります。

④企業ブランディングを強化する

すばらしい取り組みを行う魅力ある企業であったとしても、うまく企業ブランディングができていなければ人材が集まらず、人手不足に陥ってしまう場合があります。このようなケースを避けるために、積極的に企業ブランディングを行いましょう。
企業ブランディングとは、他社と差別化し、独自の魅力や立場を確立することで、企業そのものの価値を高めることです。「携帯といえばこのメーカー」「ここの製品なら安心して使える」など、企業の信頼性や価値が消費者に浸透している状態を作ることが、企業ブランディングだといえるでしょう。具体的には、ホームページの制作やSNSを使った情報発信を定期的に行い、企業文化や企業の業務内容、社長や社員の人柄などを社外へアピールすることで、企業ブランディングを強化していきます。自社に対して親しみやすさや信頼性をもってもらうことにより、人材も集めやすくなるでしょう。

⑤採用する人材の幅を広げる

少し視野を広げ、今まで採用してこなかった人材を採用することも、人手不足を解消する有効な手段です。未経験者はもちろんのこと、女性や高齢者、在留外国人などを積極的に採用することで、人手不足が解消できる場合があります。
また、今まで採用してこなかった人材を社内に増やすことにより、社内の雰囲気が変わってシナジー効果の発生を期待できるかもしれません。
社内の風通しをよくし、積極的にさまざまな人材を登用すれば、企業イメージを大幅に変えられます。日本の少子高齢化はこれから先も長い間続くわけですから、今のうちからさまざまな人材を社内に取り入れるシステムを組み立てておきましょう。将来の人手不足に対応するための、有効な手段の一つになるはずです。

⑥業務の効率化を図る

実は業務の効率が悪いために、人手不足に陥ってしまう場合があります。このような企業は、業務の効率化を図ることにより、人手不足が解消できるかもしれません。
はじめに、全業務のフローを徹底的に洗い出し、どの部分で何がどのようにロスしているのかをチェックしていきましょう。属人化している業務はマニュアルを作って仕組み化し、特定の人物がいなければできない仕事をできるだけ作らないようにします。同時に、承認作業などはできるだけ簡略化し、仕事が途中でストップしてしまう事態を避けるように工夫することも大切です。
最後に、ITの積極的な導入も検討してみましょう。大企業よりも人材の少ない中小企業が業務の効率化を進めるためには、大企業以上にITの力を借りる必要があります。人手不足を解消するためには、あらゆる場所で最新のシステムを導入し、業務の効率化を徹底していきましょう。

➆アウトソーシングを活用する

繁忙期と閑散期に人材需要の差が大きい企業は、アウトソーシングを活用することによって人材不足の解消が見込めます。また、人材の定着率が低く、常に求人にコストをかけている企業の場合も、アウトソーシングの活用が問題を解決してくれる可能性があります。
人材派遣などに頼るのは、一見するとコストアップするように思えるかもしれません。しかし、さまざまなコストを考慮したうえで1年間をトータルで見ると、雇用するよりも確実で、安く済む場合があります。
大企業はすでに、コールセンターや経理業務の一部などをはじめ、さまざまな業務をアウトソーシングすることで経営効率をアップしています。すべての業務を自社内で行おうとせず、アウトソーシングできるものはアウトソーシングすることで、問題が解決することもあるでしょう。
このように、繁忙期と閑散期の人件費に差が大きい企業の場合は、アウトソーシングを検討してみることも有効な手段となりえます。

人手不足を解決するためにはM&A活用も検討しよう

人手不足が慢性化している場合は、自社で求人して人材を集めるのとは別に、M&Aを検討してみてはいかがでしょうか。
前章で述べたように、人手不足を解消するためには多くの費用と時間が必要です。また、集めた人材に対してスキルアップのための継続的な社内教育もしなければなりません。さらに、費用と時間をかけて育て上げた社員が辞めてしまわないように、離職率を下げる努力を継続することが大切です。
そのような費用と時間が用意できない場合は、質の高い熟練技術者を多く抱えた会社を、M&Aによって自社グループの傘下に入れてしまったほうが、圧倒的に短時間かつ低コストで人手不足を解消できます。

M&Aコラム
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出典:中小企業庁作成『事業承継ガイドライン』をもとに作成

中小企業庁が作成した事業承継ガイドラインによると、60 歳以上の経営者の約半数(個人事業主に限っていえば 約 7 割)が、後継者不在などを理由に廃業を予定していると回答しています。このように廃業を予定している企業のなかには、熟練した技術者などを多く抱えている会社もたくさんあるでしょう。しかし会社が廃業してしまったら、そこに勤めている従業員たちは退職をせざるをえません。
事業承継がうまくできていない会社は、現在増加の一途をたどっています。そのような会社をM&Aで自社の傘下に入れることにより、人手不足も解消されるでしょう。さらに、後継者不在で廃業を余儀なくされている経営者も、そしてそこで働く従業員も、すべての人たちにとってメリットを最大化できます。
中小企業がM&Aを行う場合、主に用いられる方法は、譲渡企業が発行している株式を買い取ることで会社を丸ごと子会社化する方法(株式譲渡)と、譲渡企業の1部門だけを切り取って買い取る方法(事業譲渡)の2つです。
株式譲渡であれば、従業員とあらためて雇用契約を結びなおす必要なく、子会社の社員にできます。一方事業譲渡であれば、従業員とあらためて雇用契約を結びなおさなければなりませんが、必要な部分だけをピンポイントで補強することが可能です。
いずれにしても、自社の状況に合った方法でM&Aを行えば、人手不足を解消して事業規模を大きくするチャンスが得られます。思うように人手不足が解消できないようであれば、M&Aを選択肢の一つとして考えるのはいかがでしょうか。
また、M&Aで大手資本の傘下に入ることにより、人手不足を解消する方法もあります。大手のグループ企業になることで、人材不足による先細りに悩まされることはなくなり、新規顧客の獲得や利益率の向上にも目処が立ちやすくなるでしょう。

そのほかにも、M&Aで大手資本の傘下に入ることによって、以下のようなメリットを得られます。

  • 事業承継問題の解決
  • 従業員の雇用の継続
  • 事業の整理や経営資源の集中化
  • 創業者利益の獲得

事業承継問題の解決

上述のように、多くの企業経営者は後継者問題を解決できないまま、平均引退年齢を迎えています。後継者が決まらないままで時間ばかりが過ぎてしまっては、最終的に廃業を選ばざるをえません。しかし、M&Aで大手資本の傘下に入ることにより、事業承継に悩む必要はなくなります。

従業員の雇用の継続

経営者にとって、苦楽をともにしながら会社を続けてくれた従業員は、家族同然でしょう。しかし、事業承継がうまくいかずに廃業してしまっては、従業員やその家族を路頭に迷わせてしまうことになってしまいます。大手資本の傘下に入ることで、従業員の雇用も今まで同様に守ることが可能です。

事業の整理や経営資源の集中化

事業譲渡により事業の一部を売却した場合、その対価を現金で得られます。また、多角化していた経営が事業譲渡によって整理統合されるため、分散していた人材や資金などの経営資源を集中化することが可能です。その結果、既存の事業を強化し、よりいっそう飛躍できるようになるでしょう。

創業者利益の獲得

人材不足で利益が先細り、後継者が決まらないまま時間が経ってしまうと、廃業を選ばざるをえません。M&Aを活用して大企業の傘下に入ることにより、その時点で対価として相応しい金額を手にすることも可能です。老後の生活に金銭的な不安を抱える必要はなく、ハッピーリタイアも十分にできます。
ただし、売却代金の最大化を考える場合は、できるだけ早めに考えることをおすすめします。人手不足で会社の収益が減り続け、どうにも立ちいかなくなってしまってから売却を考えていては、思い描くほどの創業者利益を獲得するのは難しくなってしまうでしょう。

終わりに

日本中の多くの企業が、人手不足に悩んでいます。とくに、地方の中小企業の人材不足は深刻です。人材不足は日本の人口構造上の問題であり、かつ少子化による問題でもあるので、数年のうちに解決するようなものではありません。
企業収益の源泉は、間違いなく「人」です。人手不足が続けば、やがて企業の収益は低下し、最終的には事業の継続ができなくなってしまうでしょう。このような事態を避けるためには、あらゆる選択肢を視野に入れ、人手不足を解消するための努力をしなければなりません。
本記事で紹介した、人手不足を解消するための解決策や、場合によってはM&Aも人材不足解消に役立つ手段となるはずです。

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