矢野経済研究所
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24日、東芝株式の7%を保有する第2位の大株主3Dインベストメント・パートナーズが会社提案の分割案を支持しない旨、表明した。同社は「分割で課題は解決しない。小さな東芝を増やすだけ」と指摘したうえで、すべての買収候補者に企業価値評価機会を提供し、再建提案を募るよう会社側に求めた。不正会計に端を発した6年におよぶ経営の迷走を鑑みると「小さな東芝が増える」との辛辣な指摘は妙に頷ける。分割案は来春3月までに開催される臨時株主総会に諮られることになるが、賛否の行方は不透明になりつつある。

分割案は、香港の総合商社ノーブル・グルーブの元チェアマンで、KPMG時代にリーマン・ブラザーズのアジア法人の清算に手腕を発揮したポール・ブロフ氏を委員長とする戦略委員会(SRC)が策定した。SRCは「コングロマリット・ディスカウント※が解消されることで非効率な資本配分が改善、成長部門への直接的な投資が可能となる」、「短期的な株主利益を確保しつつ、事業の持続的な成長が可能となる」と説明する。また、非上場化やマイノリティ出資による再建案も「8月以降、有力ファンド数社との交渉の中で十分に検討した」という。
※コングロマリット・ディスカウント:多様な事業部門を有する複合企業体ゆえに、成長事業の単独価値よりも企業全体の企業価値が低く評価されること

分割される3社のうち1社は資産管理会社で、主力事業はインフラ会社とデバイス会社の2社が引き継ぐ。個別受注生産で長期にわたるプロジェクト契約がベースとなるインフラ関連事業を主体とする前者と、多品種・大量生産で多額の先行投資を必要とする半導体やHDD事業を所管する後者へ分割される。事業特性による会社分割には合理性がある。
ほぼ同じ時期、米ゼネラル・エレクトリックが航空、医療、電力部門の分社化を発表した。米ジョンソン・エンド・ジョンソンも消費者向け事業と医療部門を分離する。ファンドやアクティビストはこぞってこれを歓迎、合理化視点による複合企業の事業分割はこれに止まらないだろう。

しかし、そこに危うさはないか。東芝のインフラ会社は公共インフラ、再生可能エネルギー、電池、鉄道、ビル施設、量子暗号など、市場も成長性も異なる事業に更に分割できる。投資効率一辺倒の視点に立てば、明日にでももう一段の解体が要求されるかもしれない。そうなると資本、知財、人材の流出は止まらない。結果、技術は途絶える。
今、コロナ禍の先を見据え、多くの企業が事業構造改革に着手する。成長分野への新規投資は近年になく活発だ。中核事業を起点に新たな事業ポートフォリオづくりに取り組んでいただきたい。東芝はこうした事業再編を進めるうえで重要な教訓を遺してくれた。将来にわたって外部からの会社解体圧力に晒されないためには、健全な財務、強固なガバナンス、株主との対話という “当たり前” が欠かせないということだ。経営の独立性を維持するためにも長期的視点に立った、持続可能な成長戦略が望まれる。

今週の“ひらめき”視点 11.21 – 11.25
代表取締役社長 水越 孝