経営者が身につけたい「人を活かす経営の新常識」
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少子高齢化・労働力人口の減少が背景

時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得促進、同一労働同一賃金などを進めるための働き方改革関連法が、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行され、働く現場では対応に追われてきました。なぜ今、この政府主導の改革に至ったのか。
一般的には、少子高齢化による労働力人口減少を補うべく、育児や介護や病気を抱える人や体力が減退するシニアなど制約ある人材にも働いてもらうためだと考えられています。

日本企業の組織モデルや働き方の原型は、昭和の高度経済成長期に形成されたものです。若年人口が増加し続けることを前提に、働き盛りの男性は職場で長時間モーレツに働き、辞令一枚で国内外どこへでも出張や転勤を厭わずに働きました。
その一方で、女性は学卒後すぐに結婚したり、就職しても結婚時に退職する「寿退社」が一般的で、家事・育児を一手に担いました。この役割分業による専業主婦世帯が典型的な家族モデルでもありました。

しかし、平成に入り、男女共同参画推進や女性活躍推進の動きを経て、今や男女ともに子育てや介護を抱えながらも働き続けられる環境整備が必然となりました。また、「人生100年時代」となり、60代や70代のシニア層が継続して働ける環境づくりも進んでいます。このように、労働力確保のため多様な働き手が参加できる改革への舵が切られたのです。

しかし、私はこの労働力確保はあくまで前提条件であり、働き方改革は経営改革であり、真の目的は諸外国と比較して低いと指摘される生産性の向上を目指すことだと考えています。モーレツに働く男性の働き方にも関わらず、成果に繋がっていない状況を、女性やシニアなどこれまでと違う視点から変革することが真の働き方改革なのです。

働き方改革の功績と課題

さて。働き方改革に多くの企業が取り組み始めたメリット=「功」としては、まず育児期に離職せず働き続けられる女性が着実に増えてきていることです。また、介護と仕事の両立支援の法整備によって介護休暇取得が進んでいることや、病気を患った方が治療をしながら仕事を続けることも特別ではなくなりつつあります。
このように、様々な制約があっても長く働き続けられる環境が整いつつある点は、働き方改革の成果だと言えます。

しかし、一方で課題=「罪」の側面も見えてきました。「会社を辞めずに働き続けていること=活躍ではない」からです。働き方改革の真の目的は生産性向上です。ただ単に会社に出勤し在席していれば良いものではありません。

しかし実際には、働きやすい環境整備が先行したために、従来の働き方のまま単に残業や労働時間を減らそうとし、管理職に負荷がかかるのみであったり、隠れ残業が増えたりして、生産性向上には一向に結びつかない例も出ています。

また、ムダな会議などを減らしているつもりが、メンバー間のコミュニケーションの機会が失われ、人間は感情の生き物ですから職場がギスギスする懸念も出ています。また残業規制等に気を取られ過ぎ、若手社員に挑戦的な仕事を任せ育てることも回避されがちです。若手では時間がかかる難易度の高い仕事は上司が巻き取ってしまうからです。

真の改革を果たすために

生産性向上が経営の目的とはいえ、労働時間を強引に減らし成果だけを追わせる「働かせ型改革」を標榜する企業は、時代錯誤です。従業員の支持は得られず、衰退していくのみでしょう。働き方改革が目指すべき姿とは何でしょうか。それは多様な従業員が職場と仕事に愛着と誇りをもち、働きがいを感じながら仕事に取り組み、仕事を通した成長と自律的なキャリア形成をすることです。それによって生産性が高まることです。

このあるべき姿に留意せず短絡的な改革だけを進めていけば、労働時間は減ったものの、業績は上がらず、職場はバラバラになり、個人は成長の機会が削がれる結果に陥りかねません。
社会・経済の大きな変動期にあって、企業のあり方自体に変革が求められる中、真の働き方改革を積極的に進め、多様な「人が育つ現場」を創っていくことが期待されているのです。

※本稿は前川孝雄著『人を活かす経営の新常識』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

職場のハラスメントを予防する「本物の上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。最新刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月発行)

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