来年50周年を迎える「モスバーガー」。日本を代表するフランチャイズチェーンは、創業から8年後の1980年に、他に先駆けて、加盟店オーナーの会「モスバーガー共栄会」を立ち上げるなど、FC本部としていくつもの先進的な取り組みを行ってきた。舵取り役を担う中村栄輔社長に、現状や今後の取り組みなどについて聞いた。
(※2021年6月号「Top Interview」より)
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早い時期からオーナー会を立ち上げるなど、常にオーナーに寄り添う形で進化してきた「モスバーガー」。一方で老舗チェーンならではの、オーナーの高齢化問題にも積極的に取り組み、若い世代の事業承継を促している。
――郊外に店舗を出しているオーナーと、都心部に出店しているオーナーとでは、売上の状況が大きく異なると思います。そうなると、出店立地によって施策を変えていく必要があるのではないでしょうか。
中村 もちろんです。最初に「本部は絶対に加盟店を守ります」というメッセージを発信した上で、営業本部が個々のオーナーの状況を全部踏まえて対応しています。店舗を複数持たれている方であれば、商業施設の店舗の売上は駄目でも、他の店舗で何とかそれをカバーすることができますが、1店舗しかない方はそういうわけにはいきません。資金繰りが大変なところには融資し、結果的に実績は上がりませんでしたが、状況が厳しい店舗については本部がいったん買い取って、それをもう一度貸し与えるということも考えていました。
――店舗を複数持たれている方はかなりおられるのですか。
中村 1300店舗に対してオーナーの数は約400人ですから、平均すると3、4店舗ということになります。ただ実際の分布はそうはなっておらず、6、7店舗の方と、1、2店舗の方が全体的に多いです。3、4店舗という方は意外と少ないですね。一応、これには理由があって、1、2店舗目までの出店に対し、3店舗目の出店を許可するかどうかについては、少し厳し目にチェックするようにしているからです。
――単純に1、2店舗目の経営がうまくいっているから、次も出店できるということではないのですね。
中村 2店舗までなら夫婦二人三脚でできますが、3店舗目となると、人のマネジメントが必要になりますし、信頼できる人がもう一人いないとやっていけません。体制が整っていない状況で新しい店舗を作っても、うまくいきませんから、3店目を許可するかどうかというのは、ものすごく大事なことなんです。
――コロナ禍を理由に退会したり、もしくは一部の店舗を閉めたオーナーはいましたか。
中村 大学内にあった店舗を2つ閉めましたが、それ以外にコロナが理由で閉店した店舗はありません。
研修会を行い120名の事業承継を支援
――来年50周年を迎えられます。業歴の長いFCではオーナーの高齢化が大きな課題となっていますが、「モスバーガー」ではこの点について、どのような取り組みをされているのでしょうか。
中村 「次世代オーナー育成研修」を実施し、次の世代にスムーズに事業を引き継ぐことができるようサポートしています。これまでに222名が受講されて、そのうち120名がすでに事業承継を終えています。研修を始めた頃はオーナーの平均年齢は60歳を超えていましたが、今は58歳くらいまで下がりました。
――研修ではどのようなことを学ぶのでしょうか。
中村 分かりやすく表現すると、MBAの簡略版のようなイメージです。最初に「モスバーガー」の理念や考え方、歴史、環境の変化にどのように対応してきたかというような、オーナーとして知っておくべき知識的な話をしてから、BS・PLの理解の仕方や会計など、経営に関することをできるだけ簡単に分かりやすく伝えるようにしています。
――かなり内容の充実した研修のように思います。
中村 3日間の研修を4回やって一通り終わったら最後に自分のビジネスプランを発表してもらいます。実はここが一番大事なポイントで、これによって事業を引き継ごうとされている方の「覚悟」を見ます。というのも、30年、40年前に事業を始めた方が、何千万円も借金して、人生をかけてやってきたのに対し、引き継ぐ方はすでにお店があるだけでなく、PLを見ればどのくらい儲かるかも分かってしまうわけです。そうすると、「モスバーガーが好きだから」と「人と会話するのが好きだから」といった理由でなく、単に儲かりそうだら事業を引き継ぐといふうになってしまう。でも、実際はそれほど甘いものではないですし、
やはり好きという気持ちがないと、絶対にうまくいきませんし、お客様に「美味しかった」と言ってもらったら、素直に嬉しいと思える価値観がないと続かないですよ。私どもとしても、人生を失敗させるわけにはいきませんので、それでどれほどの覚悟をもって事業を承継しようとしているのかを見ているわけです。
――フランチャイズシステムである以上、価値観を共有できる方とでないと、一緒にやっていくことはできないということですね。
中村 もちろん、考え方において、本部とオーナーとで違う部分はあります。例えば、本部はチェーン全体のことを3年とか5年のスパンで考えますが、オーナーは短期的に自分のお店を良くすることを考えます。視点や期間が違うわけですね。でも、価値観を共有できているので、手法が多少違っても問題はありませんし、「モスバーガー共栄会」というオーナー会の役員になると、全体のことを見るようになるので、自然と本部の考え方も理解してもらえるようになります。
本部とオーナーの代表者が集まり 会の存在意義を再確認
――「モスバーガー共栄会」は、モスバーガーというチェーンを象徴する組織だと思いますが、最近はどんな活動をされているのでしょうか。
中村 今はコロナで直(じか)に集まることはなかなかできませんが、その代わりZOOMを使って頻繁に支部会などを行っています。私も支部長会には必ず出席するようにしていますし、支部単位の集まりも声がかかれば参加しています。
――オーナー会を発足することには、「反抗的な組織になっては困る」ということで、当時はいろいろな意見があったと聞いています。
中村 それが今もこうして存在し続けているのですから、つくって本当に良かったと思っています。ただし、実は少し前に、共栄会の存在意義について改めて検討し直したことがあります。というのも、私が営業本部長として会議に参加していた際に、「みんなに喜ばれるモスバーガーをつくる」という本来の目的が薄れているように感じたからです。ただできていないことばかりを指摘するだけになっていました。それで会の役員5名と、本部から私を含めた6名が集まって、河口湖で合宿を行いました。約50項目の論点についていろいろと話し合い、最後に「共栄会は良いお店を作るためにある」という結論を出しました。ただ、これだけだと〝良い店〞の定義が人によって違ってしまうので、創業者の櫻田慧が定めた「モスバーガー基本方針」を実践している店が良い店だと定義し、それをみんなで目指そうということにしました。原点に立ち返ったということです。
社員独立制度などを整備し 加盟開発を強化
――今後の出店計画についてはどのように考えているのでしょうか。
中村 具体的な数字については開示していないのですが、最近では少しずつ社員独立も増えていますし、4月以降には、弊社の子会社で勤務して店舗運営のノウハウを学んでもらってから独立してもらう「サンライズシステム」を利用したオーナーが2名誕生する見込みです。いずれにせよ、出店の余地はまだまだあると考えています。
――「サンライズシステム」は給料をもらいながらノウハウを学べて、さらに独立時にはお祝い金ももらえるということで、かなり手厚い制度だという印象を受けます。今後、加盟を検討する個人が利用するケースが増えそうです。ところで「マザーリーフ」「マザーリーフティースタイル」といった飲食業態は、今後どのような展開を考えておられるのでしょうか。
中村 もともとは収益構造をきちんと整えた上で、可能であればFC展開もしたいと考えていたのですが、おそらくコロナが終息しても客足が100%戻ることはないと思うので、いったん待ったをかけました。他に「モスバーガー」のテイクアウト専門店というのも出していますが、こちらについては、コロナが終わった後も事業的に成り立つものなのかを、よくよく検討する必要があると思っています。可能性があれば、もう少し出店するかもしれませんが、どこまでやるかは状況次第です。
――かねてから海外展開にも力を入れておられました。
中村 海外はもともと、テイクアウトや宅配を前提にしてやっているので、数字的にはコロナの影響はほとんどありません。現在、421店ありますが、比較的どこも順調ですし、今のところ、計画を見直すことは考えていません。今後については国内・海外ともに、コロナの状況を見極めながら慎重に判断をしていく必要があるでしょうね。