来年50周年を迎える「モスバーガー」。日本を代表するフランチャイズチェーンは、創業から8年後の1980年に、他に先駆けて、加盟店オーナーの会「モスバーガー共栄会」を立ち上げるなど、FC本部としていくつもの先進的な取り組みを行ってきた。舵取り役を担う中村栄輔社長に、現状や今後の取り組みなどについて聞いた。

(※2021年6月号「Top Interview」より)

中村 栄輔 社長(62)
(画像=中村 栄輔 社長(62))
中村 栄輔 社長(62)
中村 栄輔 社長(62)
なかむら・えいすけ
1958年生まれ。福岡県出身。中央大学法学部卒業。88年、モスフードサービスに入社。2005年に執行役員に昇格し、10年に取締役、14年常務取締役。16年から代表取締役社長。

新型コロナウイルスの感染拡大で、厳しい状況が続く外食産業。だが、その中にあって「モスバーガー」の業績は好調だ。2020年度の全店平均売上高は前年対比約107%と、テイクアウトやデリバリーなどの需要をうまく取り込み、上々の成果を挙げた。

コロナ前からテイクアウトとデリバリーを強化

――コロナ禍で多くの外食チェーンが苦戦を強いられる中、「モスバーガー」の2020年度の全店平均売上高は前年度を上回りました。この状況下で、かなり健闘したという印象を受けます。

中村 私どもの場合、新型コロナウイルスが流行する前から、世の中の変化に対応するためにさまざまなことに取り組んできました。コロナでスピードアップした部分はありますが、基本的には以前からやっていた取り組みの成果が、業績に反映されたのだと考えています。

――コロナ禍前から行った施策で、特に業績に効果のあったものを具体的に教えて下さい。

中村 テイクアウトに関する取り組みですね。私どもは以前から、喫食事品質といって、買ってすぐでなくても美味しく感じてもらえるように、商品にさまざまな改良を加えてきました。小さなことなんですが、例えばバンズを変えたり、テイクアウト用の箱に小さな穴を開けてバーガーが蒸れにくくしたりといったことです。これは、2019年の10月に、消費税の軽減税率が導入された際に、テイクアウト需要が伸びることを見越して行ったことです。それがたまたま今回のコロナでも活きました。

▲コロナ禍でも、業績は好調に推移
(画像=▲コロナ禍でも、業績は好調に推移)

――デリバリーに対する取り組みについてはいかがでしょうか。

中村 世の中には「子どもが小さい」「外出できない」など、さまざまな事情で「モスバーガー」に行きたくても行けない方がたくさんいらっしゃいます。そうした方々の要望に何とかお応えしようということで2006年から取り組んでいます。最初は各店で宅配するという形でスタートし、一気に200店舗近くまで増えたのですが、準備に手間がかかったり、交通事故のリスクがあったり、あと人手不足も重なり、一度そこで頭打ちになってしまいました。それでどうしたものかとなったときに、ちょうどUber Eatsが出てきたので、切り替えることにしました。確か2017年の7月くらいから実験を始めて、翌年の4月には本格導入しました。Uber Eatsの対応エリアが広がったこともあり、今では約430店舗で対応しています。

さらに言えば、「モスバーガー」は都心部にもあれば地方にもありますし、立地についてもビルイン、フードコート、ドライブスルーと、多様性に富んでいます。立地的に売上が

厳しい店舗があっても、それを他でカバーすることができます。これも、チェーン全体として売上が好調な要因の一つです。ただし、数値はあくまでも平均値ですので、細かく見ていけば、売上が良かった店舗もあれば、そうでなかった店舗もあります。極端な話をすると、去年の4月、5月辺りは、大きな商業施設はほとんど閉めていましたから、フードコートにある店舗はほとんど売上が上がらなかったというのが実情です。

――出店立地のバランスはどうなっているのでしょうか。

中村 郊外型のドライブスルーが約600店舗、ビルインが約500店舗、フードコートが約200店舗、フリースタンディングが約100店舗といったところです。

さまざまな立地に出店し 適合型を試行錯誤

――これまではまんべんなく、いろいろな立地に店舗を出してきていた印象ですが、コロナ禍を踏まえて戦略上、見直す部分はありますか。

中村 今までは、あえて単一型のパッケージという言い方をしますが、同じ仕組みと看板、商品、サービスでやってきたわけですが、これからは立地適合型の形にして、もう少し柔軟に商品やサービスを組み直していくことも必要なのではないかと考えています。それこそ高度成長期のときは、単一型のパッケージで大量消費していくのが良いと言われていましたが、今はそういう状況ではないですからね。ただ、これには難しいところもあって、多様化させればさせるほど、単一型だからこそできるコストダウンや教育のしやすさといった部分を否定することになる。その辺りのことも踏まえて、どこでバランスを取るのが良いのかきちんと検証する必要があります。いずれにせよ、こうしたことをやり始めたところでコロナが来たので、今はいったんストップしている状態です。

▲テイクアウト増加を見越し喫食事品質を追求
(画像=▲テイクアウト増加を見越し喫食事品質を追求)

――本社と同じビルの2階にある「MOS&CAFE(モスアンドカフェ)」は、まさにそうした実例に当たるとのではないでしょうか。

中村 そうですね。「MOS&CAFE」は、カフェの需要を取り込むために2年前に始めたもので、現在、28店舗あります。将来的にFC化することも念頭に置きながら、いろいろと試行錯誤してやっている段階でした。今後どうするかは、コロナの状況次第ですね。

今後の取り組みについては
後編に続く