矢野経済研究所
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東京証券取引所によると3月期決算会社の株主総会集中日は6月29日とのことである。とは言え、集中率は26.9%と過去最低、かつては9割が特定日に集中していたことを思うとまさに様変わりである。運営形式も変わった。招集通知の早期web開示、ネットでの議決権行使も一般化した。コロナ禍を背景にバーチャル総会へのシフトも進む。この17日に施行されたバーチャルオンリー型株主総会の開催を認める「改正産業競争力強化法」がこうした流れを後押しする。

運営形式だけでない。東京証券取引所の市場再編を前に、機関投資家の議決権行使基準の厳格化も進む。例えば、取締役会における独立社外取締役の比率は1/3以上、在任期間は12年未満、政策保有株式は対純資産比10%未満、といった具合だ。買収防衛策、気候変動対策、役員報酬はもちろん、バーチャル株主総会に対しても厳しい目が向けられる。バーチャルオンリー型への定款変更を提案した企業に対して、「公平な質問機会の喪失」「議事運営の透明性の低下」が懸念されるとして反対推奨を表明した助言会社もある。

上場会社と投資家はせめぎ合いながらもガバナンスの向上と対話による信頼関係づくりに取り組んできた。しかしながら、公正、透明であるはずの資本市場への信頼を揺るがしかねない事態が発覚した。10日、東芝は株主選任の弁護士による株主総会運営に関する調査報告書を発表した。中身は衝撃的だ。東芝は人事案を巡って対立した海外ファンド対応への支援を経済産業省に要請、経済産業省は改正外為法の発動をちらつかせて株主提案の取り下げを求めるとともに、別の海外投資家に対して議決権の行使を控えるよう働きかけたという。

株式会社制度の根幹を軽視する一連の行動にはあきれるばかりであるが、一方、「防衛や原子力に関わる企業への国の介入はやむを得ない」とする向きもある。しかし、そもそも「上場」維持を目的に海外投資家に出資を要請したのは東芝自身であり、株主が有する正当な権利を、権力の威を借りて封じようとする行為は資本市場への裏切りと言っていいだろう。法の支配を前提とする資本市場からの信任の喪失もまた日本の安全保障にとって重大な損失であると認識すべきた。
当時の官房長官として報告書に名前が登場する菅氏は「まったく承知していない」と言う。現職の経済産業大臣も「本件は東芝のガバナンスの問題」などと突き放す。しかしながら、これは国内の政治問題ではなく、ゆえに政権への忖度などあり得ない。資本市場に対して速やかに事実を公表するとともに、信任回復に向けての意思と具体策を早急に表明する必要があろう。

今週の“ひらめき”視点 6.13 – 6.17
代表取締役社長 水越 孝