矢野経済研究所
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英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズが東芝に対して非上場化を前提とした買収提案を行ってから1週間、東芝は車谷社長の辞任と綱川会長の社長復帰を発表した。
会見では「あくまでも本人の意思による辞任」と説明されたが、“物言う株主” との対立や社内における求心力低下に業を煮やした取締役会から何らかの圧力があっただろうことは想像に難くない。また、車谷氏の “元CVC日本法人会長” という経歴が「古巣のファンドを使った資本市場からの逃避」との批判につながったことも無視できなかったはずだ。辞任は実質的な更迭と言っていいだろう。

東芝の転落は2015年の「会計不正問題」が起点となる。ここから歴代3社長の辞任、米原発子会社の巨額損失、債務超過、東証2部への降格、と迷走が続く。そして、2017年12月、債務超過を解消し上場を維持すべく6千億円の増資を実行、約60社におよぶ海外ファンドが株主に加わった。その陣頭指揮に立ったのが当時のトップ、綱川氏である。
翌2018年、経営を引き継いだ車谷氏は不採算部門からの撤退など構造改革を断行、業績回復に道筋をつける。2020年11月、こうした流れの中で氏は新たな中期計画と資本配分政策を発表、この1月には東証1部への復帰も果たした。しかし、株主還元より戦略投資に軸足を置いた新たな経営戦略が「物言う株主」との対立を先鋭化、それが今日の導火線となる。

その東芝を再び綱川氏が率いる。就任に際して氏は「ステークホルダーと良好な関係を築く」とコミュニケーション重視の姿勢を表明、社内外からの信頼回復を目指したい、と抱負を語った。とは言え、ステークホルダーの利益は一様ではない。それぞれの意向を組みとるだけではいずれの側にも不満が残る。「原子力や国防を担う東芝が外資の傘下に入っていいのか」など政治の声も聞こえてくる。改正外為法の問題もある。産業革新投資機構、日本政策投資銀行といった政府系金融も何らかの役割を担うことになるだろう。それぞれの思惑が交差する中、東芝は真に独立、自立した企業として成長戦略を描くことが出来るか。すべてのステークホルダーを納得させ、統治能力を自らの手に取り戻すにはこの1点しかない。

綱川氏は、東芝メモリの買収を巡って日米韓連合と米半導体ウエスタンデジタルが争った際、「決められないトップ」と揶揄されたことがある。件の増資の折には「東芝を外資に売った」とも評された。会見では「反省すべき点は反省し、社風も変え、次世代につなぎたい」と述べた。「経営陣も株主も同じ目線」との発言もあった。ただ、信頼回復は目標ではない。結果だ。“目線”は徹底して「東芝ファースト」であってほしい。綱川氏の覚悟に期待したい。

今週の“ひらめき”視点 4.11 – 4.15
代表取締役社長 水越 孝