(本記事は、岡田 康子氏の著書『自分で決める、自分で選ぶ―これからのキャリアデザイン―』=東峰書房、2016年1月13日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
起業家的発想から学ぶ「仕事を楽しむ術」
●自分自身にわがままに、そして、貪欲に
私は、ベンチャーを立ち上げた人や新事業担当者など事業を起こしてきた多くの人に接してきましたが、彼らの仕事観や人生観には大いに学ぶことがあります。ここではそれらの起業家精神を少し紹介しましょう。
まず一つ目は、「自分自身にわがままに、貪欲に」です。
企業で働いていると、どうしても会社の論理や周りの価値観に合わせてしまっている自分がいます。そうした枠を壊さないと、良いアイデアは浮かびません。
特に女性の場合は、周りに迷惑をかけないように……、あまり目立たないように……、言われたことをきちんとこなそう……と考える傾向が強いので、なおさらです。本来は男性とは違った体験をし、違う感覚を持っているのですから、それを活かさないのはもったいないことです。
「自分が不満なことは何か」「自分だったらこうする」「こんなものが欲しい」という問題意識、欲求こそがアイデアの源泉になります。
ただその不満だけを訴えても、クレーマーと言われるだけです。不満を起点にして「それを改善するためにはどうすればいいか」「それを得るために何をしたらいいか」を考えることが大事です。
つまり、借り物ではなく自らの困りごと、問題意識を起点とした“自分主体”の考え方をしていくことで、地に足がついた提案となっていくのです。
例えば、私たちDIW塾に参加したメンバーがつくり上げた事業提案(第五章参照)は、子育て中のお母さんらしく、《保育園で夕食のお惣菜を受け取れるサービス事業》でした。切実なニーズを理解し、自分なりのこだわりがあるからこそ、ブレずに根気よく取り組むことができたのでしょう。
わがままだからできる独自の発想、わがままを通すための工夫が必要なのです。わがままな人とは「できないこと」の責任を誰かに転嫁する人ではなく、自分自身の責任で「やりたいこと」を主張していく主体的な生き方をしている人のことをいうのではないでしょうか。
●自分自身の思いがビジネスになる
今ではインターネットや物流網の普及で市場は広くなっていますから、これまでなら店を構えても採算が合わなかったようなニッチビジネスでも、ネットで販売すれば、日本全国(世界)中の同じニーズ(あるいは不満)を持った消費者たちの琴線に触れるため、事業が成り立ちます。
「トレンドだから……」と市場予測データに基づいて企画する、あるいは「儲かりそうだから」と安易に考えたビジネスは誰もが参入するので、差異化はできません。人の心を動かすのは「私が欲しかったから!」、「私が不便だから解決策を考えた!」――というリアルな熱い思いです。
同じような商品が次から次へ発売される今、商品そのものだけでなく商品開発にまつわるストーリーも、売れるための重要な要素となってきています。新事業(商品)を検討するときに大切なのは、まずは儲かるかより、粗削りでも斬新な魅力があるかどうかです。魅力あるコンセプトがつくり上げられたら、そこから儲けの仕組み、実現性を考えればいいのです。
また、事業を進めていけば、必ずといってもいいほど壁に突き当たります。そんなとき、自分の思いを込めたビジネスならどんな障害があっても、あきらめずにその解決を考え、柔軟に対応できるものです。だから「思い」をもっと高め、前面に押し出していきましょう。
●おっちょこちょいな人が貴重な時代
これまで企業では、おっちょこちょいな人はあまり優遇されませんでした。需要が供給を上回る時代は、規格品をたくさんつくることが儲けの源泉であり、そのような大量生産大量販売の時代では、指示通りに真面目に黙々と仕事をする人が求められていました。
しかし、今は顧客ニーズも多様化し、少量多品種生産の時代です。そうした時代では大がかりなマーケティグングをするよりも、まずは試しにつくってみる、試しに売ってみることが必要になっています。新事業の評価も、詳細な事業提案より、その事業コンセプトを検証したかどうかに重きを置くようになっています。
また、事業の立ち上げスピードも速くなっています。ですから、じっくりと考え、資料を集めて、詳細な投資計画をつくるなどしていては、商機を逸してしまうことすらあるのです。常識的な人、優秀な人、真面目な人ほど事業を起こしにくいと言われていますが、それは情報や常識に縛られてしまうからではないでしょうか。自分自身が考えたアイデアでさえ「できっこない」とか「もう、あるさ」と頭の中で潰してしまうのです。
でも、考えていても何も始まりません。陳腐なアイデアでも人に語ってみる、お客様に聞いてみる、そういう行動をすぐに起こすことが重要なのです。動くことでアイデアが磨かれ、今までにない素晴らしいものへと変化させることが可能なのです。
新規事業だけでなく、既存のビジネスでも顧客のニーズの多様化、競争の激化は起きています。そんな中ですぐ動く、すぐやるという、ちょっと「おっちょこちょいな姿勢」は、どんな仕事でも大切なことなのではないでしょうか。
●混乱を楽しむ
日本人は他国の人に比べて不安遺伝子を持つ人が多く、不安定な状況を嫌うそうです。会社員として働いている人は、実業家に比べてその傾向が強いかもしれませんが、できれば混乱している状況を楽しみましょう。
実は、少し不安でどきどきすることと、期待でわくわくすることは、似たような感覚があります。
できないことを「できません」と言い切ってしまえば、混乱や葛藤はなく気持ちは楽になるかもしれません。でも、「やってみよう」と思うと、不安だけれど少しわくわくする複雑な気持ちになります。
そんな小さなことから始めてください。そして、この不安や混乱を楽しんでみると新しい世界が開けます。
世の中に新しいもの、新しいサービスを提供していくということは、《できないことをできるようにしていく》ことなのです。その過程では、すっきりと割り切れた気持ちではいられないことでしょう。しかし、その不安定感を楽しんでしまうことが大事なのです。
殻を破るような新しいアイデアや決断は、今までの秩序や延長上にはなく、得てして混乱、混沌の中から生まれます。
●恥をかいて成長しよう
恥をかきたくないという心理は、何処から生まれてくるのでしょう。否定されたくないという心理なのではないでしょうか。
最近は、素晴らしいことをして褒められる賞賛欲求より、人から否定されないようにする拒否回避欲求を持つ人の割合が多くなっているそうです。確かに恥をかくのは嫌なもので、まさに穴があったら入りたいというくらい落ち込むこともあります。私もそんなことが時々ありますが、人間はよくできたもので三日もすれば忘れます。それに実は周りの人はそれほどあなたに関心があるわけではないと思ってもいいのではないでしょうか。
たとえ考えや行動は否定されたとしても、存在自体が否定されているわけではないのです。否定されるようなことがないとしたら、それはチャレンジをしていないということ。失敗したっていいのです。恥をかいた分だけ何かが身に付きます。
初めてのこと、慣れないことにチャレンジすれば、失敗したり、上手くできなくて当たり前です。そこで「恥をかいた」と思わず、「得難い経験をした」と考えちゃいましょう。
最近「入社以来ずっと同じ業務を担当している女性社員が後輩にパワハラをしているのだが……」というような相談をよく受けます。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
同じ仕事を長年していれば当然その業務のエキスパートになります。ほぼ失敗はなくなるでしょう。恥もかかなくなります。しかし、その人は、やがて恥をかくことができなくなってしまうのではないでしょうか。そして他人には必要以上に厳しくなってパワハラをしてしまうのです。人は知らないことが多い、新しい場に身を置けば謙虚にならざるを得ません。
同じ職場で同じ仕事をしていれば「できないことのもどかしさ」「情けなさ」など心の痛みを感じることが少なくなります。しかし同じ業務でも新しいことに挑戦すれば、自分は知らないことが多くなります。人に教えてもらわざるを得ません。そういう姿勢が大事だと思います。そしてそのような経験が自分を成長させるのです。
「恥をかきなさい」とは言いましたが、実は新しいこと、不慣れなことに真剣にチャレンジしている人を見て嘲笑する人はいないでしょう。むしろ、ベテランの人が学んでいる姿は「かっこいい」とすら感じるのですが……。ということで、私も恥をかき続けています。
●他人の力を借りちゃおう
成功した人は大抵、自分自身の偉業を話さず「周囲の人に恵まれた。運が良かった」と言います。自分一人の力でできる仕事は限られています。大きな仕事をする人ほど他人の協力なしにはそれを成し遂げることはできないでしょう。何かやりたいことをやりたかったら、上司や同僚をうまく巻き込んでしまいましょう。事業を立ち上げる人はお客様をも巻き込んでいます。
組織の中で力を持つのは「お客様がそれを望んでます」「お客様はこうおっしゃっています」という発言です。お客様のお困りごとを聞かせてもらい、それに対して解決策を共に考えていく――。その行為がビジネスを成功に導きます。
そのときに大切なのは、小さくてもいいから「うまくいったときのイメージ」を持つことです。そんな具体的なイメージを持っていれば、他人に伝わりやすく、他人から力を借りることができます。人は〝思い〟や〝夢〟に共感して集まってくるからです。
ある会社でおこなった「女性のためのキャリア開発の研修会」に参加した女性の話です。
彼女は工場の総務担当でしたが、研修で「みんなが生き生きと働ける職場をつくりたい」というビジョンを掲げました。しかし「よくよく考えてみると自分は会社のことを何も知らないし、仲間がどんな気持ちで働いているかも知らない」ということに気づきます。そこでまず最初に始めたことは、自分自身が会社の製品のことを知るために技術部の先輩にお願いして勉強会を始めることでした。せっかくの機会なので周囲の人も誘うようにしました。
技術者が交代で指導してくれたこともあって、その勉強会は徐々に大きくなり、やがて工場全体の勉強会へと発展していきました。今ではその勉強会の名称に、冠として彼女の名前が付いているというのです。上手に人の力を借りることで成功した事例です。
●日常生活で直観力を磨こう
つい最近まで、ビジネスの世界では、分析力が重視されてきました。システム思考と言われるような、論理的に統計を駆使することが大事とされてきたのです。
しかし最近は、それだけでなくデザインを重視しようという考え方が多くなっています。それは感覚的で感情的、直観的なアプローチです。システム思考からデザイン思考になっているのです。ですからビジネスでも、感性、直観を磨くことがとても大事になっています。
第一印象というのは、会った直後の数秒間で決まってしまうそうですが、人間が何かの判断をくだす場合、いつも深くじっくり考えているわけではなく、その場その場の直観で決めている場合がほとんどです。
それでも結果として正しいことが多いのは、実は、直観というのは、脳が過去に得た経験や情報をもとにものすごいスピードで分析し、答えを導き出しているものだからでしょう。
例えば、本や映画などのタイトルやポスターを見て、面白そうだと思ったので見たら本当に面白かった――。食事をしようと向かったレストランの外観を見て、何か嫌な感じがしたので入ろうかどうか迷ったが、お腹が空いていたので入ってみたらやっぱり失敗だった――。
こんな経験は誰にでもあると思います。
もちろん、結果として外れることも多いのですが、直観力は、経験と訓練によって磨くことができます。
特別難しいことは必要ありません。一人で、日常のちょっとした場面でできることです。
例えば、道を歩いていて、どのルートが目的地に早く着くことができるかを直観で決める。エレベーターや駅の券売機を使うときにどの列が一番早く順番が来るかを直観で判断する――といったことを意識してやってみるのです。
料理のオーダーを決めたり、土産物を買うなどの、もし判断を誤ったとしても、大きな実害のない場面では、とにかく即決する習慣を付けるのもお勧めです。
日頃から直観を磨いておくと、観察力や洞察力が鍛えられます。
そのため、コミュニケーション能力だけでなく、世の中のニーズや問題を解決するためのアイデアを発見する際にも役に立つのです。
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