新入社員で年収1,000万円がもらえる!? くら寿司、三菱UFJ銀行、NECの事例を解説
(画像=琢也栂/stock.adobe.com)

年収1,000万円は会社員が長年かけて目指す1つの到達点だ。しかし今、時代が変わりつつある。能力によっては新入社員でも年収1,000万円を可能とする企業が増えているのだ。くら寿司、三菱UFJ、NECなどだ。何を背景にこうした現象が起きているのだろうか。

くら寿司や三菱UFJ銀行、NECの事例を解説

このような現象が起きている背景を探るために、くら寿司や三菱UFJ銀行、NECの各社の事例を紐解いていこう。

くら寿司:26歳以下でTOEIC800点以上の「幹部候補生」を募集

回転寿司チェーンを展開する東証1部上場企業のくら寿司は、2020年春入社の新卒採用で年収1,000万円の幹部候補生を募集したことで、大きな話題を呼んだ。比較的給与が低いとされる外食産業においては、非常に異例のことである。

くら寿司は、アメリカや台湾でも回転寿司店を展開している。くら寿司が年収1,000万円の幹部候補生を募集する狙いは、このような同社のグローバル事業で活躍できる有能な人材を集めることにある。生半可な募集要件では、有能な人物の獲得は難しいと踏んだのだろう。

当時の報道では、年収1,000万円の幹部候補生を最大で10人ほど採用するとされている。最初の2年間は店舗研修などを受け、その後は海外研修にも参加する形になるが、年収は1年目から1,000万円に設定する。

くら寿司の有価証券報告書によると、従業員の平均年収は2019年10月末時点で約444万円だ。この平均年収と比べると、年収1,000万円は突出した金額であると言えるだろう。

三菱UFJ銀行:デジタル人材を対象に能力によって最大1,000万円

入社1年目から年収1,000万円を支払う求人を出した企業は、くら寿司だけではない。最近では、三菱UFJ銀行が2022年春入社の新卒採用において、デジタル人材などを対象にした採用システムを導入した。能力によって最大年収1,000万円も可能となるという。

これまでも銀行業界では、高い専門性を有した中途採用の人材には、入社1年目から年収1,000万円以上を支払うケースはあった。しかし、新入社員の場合、話は別だ。入社時の年収は一律に設定し、そこから能力・昇格などによって給与を徐々に上げていくのが基本だった。

では、なぜ三菱UFJ銀行はこうした従来の慣例を壊してまで、新入社員であっても待遇に差をつける仕組みを導入し始めるのか。それは、これからさらに金融業で成長を維持していくためには、フィンテック分野の開拓が三菱UFJでも急務になっているからだと考えられる。

フィンテックやDX(デジタル・トランスフォーメーション)の分野において、銀行は新興のベンチャー企業などに比べて取り組みが出遅れている感がある。それも仕方がない。組織が大きい上に、既存の金融システムの刷新に時間がかかるからだ。

だからこそ今、各銀行はデジタル技術の高いスキルを持つ人材を自社で抱え、革新のスピードを加速させようとしている。フィンテックでこれ以上遅れをとっては、金融業界の頂点に立ち続けてきた銀行の存在感は薄れていくばかりだ。

NEC:研究職を対象に年収1,000万円が可能な仕組みを導入

IT・電機大手の中では、NECがこれまでに年収1,000万円を可能にする仕組みを発表し、話題になった。研究職での新卒採用を対象にこの仕組みを2019年10月から導入するというもので、従来の年功序列の制度では優秀な人材を獲得しにくいことが背景にある。

GAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)などをはじめとした米国系IT企業や日本に進出する外資系企業が、高年収を提示することで優秀な新卒人材を次々と囲い込む中、このままでは人材力で外国企業に大きく差をつけられるという危機感がNECにはあったとみられる。

優秀な人材の獲得に向け、今後もこうした傾向は国内で続く?

ここまで3社の事例を紹介してきたが、共通している点は、いずれも優秀な人材の獲得を目的としている点だ。グローバル競争が激しくなり、さらに海外企業では能力によって給与に差を付けるのが当たり前の時代において、日本企業だけが従来の給与体系に固執すれば、優秀な人材はどんどん外資系企業に流れていってしまう。

少子高齢化によって国内で若手人材が不足していることも、背景にある。新卒人材が多ければそれだけ優秀な人材の絶対数も多いが、いまの日本はそういう状況ではない。限られた優秀な人材の中から、何としてでも自社に入社してくれる人材を確保しなければならないのだ。

このような状況を考慮すると、さらに日本企業において年功序列の制度は崩壊していき、能力によって年収に差をつけることが当たり前になっていくはずだ。そして学生側からみても、入社1年目から年収1,000万円を貰えるチャンスがあることはとても夢がある話である。学生時代にスキルアップに力を注ぐ人も増えそうだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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