2020年、主要国で唯一プラス成長(+2.3%)を達成した中国は、2021年の成長目標を「6%を上回る水準」に設定した。はたして中国経済は当局の発表どおり回復しているのか。実態はどうなのか。当社上海現地法人から最新の報告が届いた。報告書は「個々の産業や企業活動において相違はある」「当社現地法人のネットワークの範囲内での見解」としつつも、「中国経済は確実にV字回復している」と結論づけた。以下にその一部を紹介させていただく。
・2020年、素材関連企業の出荷量は前年水準を回復、出荷金額は前年比30~40%増
・大型工作機械や生産ラインの自動化など生産部門における投資が活発化、日系の現地法人の中には受注が満杯で納期遅延を余儀なくされるところも出てきた。
・船便、コンテナ輸送の需給がひっ迫、海上輸送費は2019年比200~250%へ高騰
・輸出型のローカルアパレルの業績は低迷、一方、百貨店も苦戦、ECへのシフトが加速している。
・国民の一人当たり可処分所得は名目32,189元、前年比104.7%(実質102.1%)。一方、一人当たり消費支出額は名目21,210元、前年比98.4%(実質96.0%)
・物価は衣料品を除き軒並み上昇、この2月は新型コロナウイルス拡大前の2019年2月比で、食材150~170%、タクシー代110~115%、光熱費110~120%
・上海市内の日常生活はほぼ正常化したが、会食や旅行の自粛は続いている。しかし、5月連休には需要は大幅に戻るものと予測する。
・感染対策は依然として強力。ある団地で感染者が発生すると団地全体を2週間ロックアウト(封鎖)し、政府費用で住民全員にPCR検査を受診させる。封鎖期間中は食料品など生活必需品に対して補助金を出すなど一定の補償策を講じることで隔離の徹底をはかっている。
・上海では3月25日から高齢者向けのワクチン接種がスタート、4月1日からは上海在住の外国人向け接種もはじまる予定。上海市の区体育所には突如テントが設置され、わずか1日でワクチン接種会場に早変わりした。
新型コロナウイルスはグローバル・サプライチェーンのリスクを露呈させた。チャイナプラスワンの流れは加速するだろう。一方、“市場” としての中国への投資は今年に入ってからも旺盛だ。武田薬品工業は2031年までに中国を含む新興国売上を現在の2倍、1兆円に引き上げると表明した。既に海外売上高の5割を中国に依存する大王製紙は新たに生理用品市場へ参入する。高級品市場への「選択と集中」を発表した資生堂の戦略市場は中国である。ファナックは260億円を投じて中国国内向け産業用ロボットの生産強化をはかる。トヨタもまた中国におけるEVの生産能力の増強を発表、更にFCVの基幹システムの現地生産も視野に入れる。
米EV大手、テスラも中国に積極投資してきた一社だ。市場での人気は高く、購入予約は常に満杯状態である。2020年には世界の販売台数の3割を中国市場が占め、同社初の黒字化に貢献した。中国側も用地取得や融資などを通じてテスラを優遇してきた。しかし、19日、米中が真っ向から対立したアンカレッジでの米中外相会談の直後、中国当局は「軍人と政府職員のテスラ車利用を禁止、制限する」と発表した。理由は軍事機密、国家機密の流出懸念である。ただ、一般消費者はこれを冷静に受けて止めており、現時点では市場の動きに変化はない。
22日、米、英、カナダ、EUは中国によるウイグル族への人権侵害を理由に、新疆ウイグル自治区当局者に対する制裁措置を発表した。中国は直ちに反発、報復を表明した。米バイデン政権は「同盟国との連携」を対中政策の基本とする。今、G7で態度を留保しているのは日本だけである。一方、中国も「中日関係の破壊」に対する懸念を表明するなど名指しで日本を牽制する。早晩、日本は決断を迫られるだろう。その時、日系企業は新たなリスクに向き合うこととなる。
今週の“ひらめき”視点 3.21 – 3.25
代表取締役社長 水越 孝