味の素冷凍食品が3月末日に、自社の国内7工場すべてのフリーザーの冷凍機冷媒について自然冷媒への転換を完了する。同社では2000年に脱フロン化の取り組みを開始し、業界に先駆けてフリーザーの脱フロン化を完遂することになる。特定フロン総保有量約70トンの削減、CO2排出量換算で4万2,000世帯分の年間排出量に相当する、地球温暖化の低減につながる。
フロン類はオゾン層破壊や温室効果といった、地球環境への影響が大きいことから、ウィーン条約のモントリオール議定書で国際的に削減目標が定められている。日本も1988年に批准しオゾン層保護法を制定している。特定フロンのCFCは1996年までに生産中止となり、同じくHCFCは2020年に生産中止となった。現在は、オゾン層に影響しない代替フロンHFCも温室効果が大きいことから、先進国では2036年までに85%削減することが求められている。
フロン冷媒機器の使用自体は禁止されていないが、業界団体の日本冷凍食品協会では2015年策定の環境自主行動計画で、2030年までにHCFC全廃の目標を設定している。冷食メーカーにおいてはフロン使用量が多いフリーザーの対策が主要課題。味の素冷凍食品は2000年時点で、フロン保有量73トンのうち、フリーザーが70トンと全体の96%を占めていたという。
味の素冷凍食品は脱フロン化の計画当初から代替フロンではなく、自然冷媒への転換を目指し、2006年には2020年までにフリーザー冷凍機のフロン全廃を宣言した。計画は需給のひっ迫なども影響し、一時足踏みもあったが、当初計画通り完了することとなった。
味の素冷凍食品は国内に、関東工場(群馬)、埼玉工場、千葉工場、中部工場(岐阜)、大阪工場、四国工場(香川)、九州工場(佐賀)――の7工場を有する。脱フロン化はこの7工場が対象だ。なお同社製品の生産委託工場に対して、脱フロン化を求める考えはないとしている。
脱フロンを進めるにあたっての主な課題は 〈1〉脱フロン化に伴う高額な投資 〈2〉冷媒漏洩による環境リスク 〈3〉製品の安定供給の維持 ――の3点だった。
2000年に保有する国内9工場・冷凍機47基を、すべて自然冷媒に切り替えるには約140億円の投資が見込まれた。これを工場の建て替えや製造ラインの再編、設備能力向上による時間当たり生産能力の増強、シフト増による1日当たり生産能力の増強――で拠点を7工場に集約、フリーザーを20削減し27基にした。
工場集約と生産性向上による投資削減効果で約49億円、政府補助金事業8基分で約3億円を活用し、総投資額は約90億円に縮小した。
冷媒漏洩リスクはアンモニア漏洩による地域環境や作業員の安全が問題となる。漏洩検知器や作業員の安全のため警報器を設置し、施設内で漏洩した場合の浄化放出の仕組みを備えた。
安定供給の維持に向けて、同一商品を複数工場で生産できるようにしたほか、施工ラインにおいて隣接ラインのフリーザーを共用したり、既存フリーザー横に新規フリーザーの設置場所を確保するなどして、生産を継続させながら工期短縮を図った。通常工期3カ月のところ2カ月に短縮したという。
脱フロン化によって、約25%の電力削減効果を得た。ランニングコストとして年間1億円の削減となる。冷凍機のマルチユニット化技術、すなわち1台のフリーザーに対し複数の冷凍機を組み合わせ、負荷に応じて設備稼働を変動させる仕組みや、高効率モーター(5〜10%効率アップ)を採用した省エネ型冷凍機の積極導入、冷凍機とフリーザーの配管距離の短縮による冷却効率を向上、米飯フリーザーの庫内温度を段階的に下げることで負荷変動抑制による省エネ(電力25%削減)――を実現した。
自然冷媒の使用方法も当初のアンモニア単独使用から、アンモニアと二酸化炭素の併用に転換することでアンモニア保有量を削減、2018年には空気冷媒を併用してアンモニア使用を抑えつつ25%の省エネ技術の開発も行ったという。
今後、同社の環境方針として冷凍倉庫で使用する代替フロン(HFC冷媒)を2030年までに全廃し、自然冷媒へ転換する。なお空調機器用の自然冷媒はまだ開発されていない。
海外の生産拠点としては中国、タイなどではすでに脱フロン化を実現しているという。北米などそのほかの工場では今後10年計画で進める見込みだ。
3月2日に開いたオンライン会見で黒崎正吉社長は「脱フロンの取り組みも結果として、ブランド価値を高めるものと認識している」と話した。
〈冷食日報2021年3月3日付〉