国内外からバッシングを受けた森前会長 実は他国でも深刻な性差別の現状
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東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が、女性蔑視発言の責任を取り辞任する意向を表明した。海外でも大きな波紋を呼んだ森会長の発言から、日本の企業経営者が組織の成長を促し、日本社会に貢献する上で、意識しなければならない性差別問題解決の糸口が見つかるかも知れない。

森前会長の女性軽視発言、海外の反応は?

ジェンダー(男女)平等が、東京オリンピックの基本的原則の一つであることも逆風となり、海外の報道は森氏の発言を厳しく批判するものが圧倒的に多い。

ニューヨークタイムズ紙は、森氏の女性軽視発言に対する謝罪を受け、「日本では謝罪するだけで大抵のことが許される」と題した記事を掲載した。即座に辞任しなかった森氏の姿勢について、「世論をほぼ無視する男性優位の古臭い権力を象徴している」と、日本社会に古くから根付くジェンダー(男女)不平等の現状を指摘した。

英BBCは「トヨタが大切にしてきた価値観とは異なっており、誠に遺憾だ」という豊田章男社長のコメントを掲載し、国外だけではなく国内でも辞任の圧力が高まっていると報じた。

森氏の失言に見る、日本の企業経営者が意識しなければならない性差別問題

国内外で批判が相次ぐ中、性差別問題について考える上で重要なポイントであるにも関わらず、「森氏自身がどこまで意識していたか?」という点を取り上げている報道は少ない。森氏本人に確認したわけではないが、これまでの報道を見る限り、「辞任に発展するような爆弾発言をしている」という意識が同氏にあったとは考え難い。

国内では「83歳の会長の冗談だった」という見方もあるように、本人には女性軽視発言という意識が希薄だった可能性がある。もちろん、「冗談だった」では到底すまされない、不適切な発言である事実は揺るがない。しかし、仮にそうであれば、同氏は東京・パラリンピック組織委員会の会長でありながら、性差別問題について正しく理解していなかったということになる。

そして、森氏に限らず誰にでも、意識や知識の希薄さが災いして、性差別につながる発言、あるいはセクハラ発言をしてしまい、それが大問題へと発展する危険性がある。

男女格差後進国の日本

近年、日本においてもグローバル化や多様化、ジェンダー平等への取り組みが実施されているが、どこか空回りしている印象は否めない。その証拠に世界経済フォーラム(WEF)が発表している「Global Gender Gap Index (世界男女格差指数)2020」では、153カ国中121位と2018年から11ランクダウンした。評価項目中、特に「経済への参加と機会(115位)」と「政治的エンパワーメント(144位)」では断トツの後進国である。またOECD(経済協力開発機構)のデータによると、日本女性の賃金は男性より平均23%低いことが明らかになっている。加盟国中、韓国に次いで男女賃金格差が大きいという現状だ。

海外メディアが指摘している通り、日本でジェンダー平等が改善されない理由の一つは、「男性優位の社会」が文化として根付いているためだと推測される。戦後の民法改正により「家制度」が廃止され、少子化や核家族化、生活様式の変化に伴い、徐々に伝統や文化も変化している。それにも関わらず、未だに「家父長的で男性優位の社会」が人々の意識に根付いている。このような背景が、「移民などのマイノリティや女性が社会で成功しにくい構造」を生み出している要因の一つではないだろうか。

日本だけではない?先進国のビジネスシーンにおける性差別の現状

しかしここで、男女格差や性差別は決して日本だけの問題ではない点についても、記述しておくべきだろう。

女性の社会進出が進んでいる欧米社会においても、男女賃金格差や女性の昇進問題が繰り返し議論されている。たとえば前述の「Global Gender Gap Index」で3位のフィンランドは、男女賃金格差は世界で4番目(18.9%)に大きい。その他、賃金格差の大きい10カ国には、米国やカナダ、英国、ドイツ、スイスなど、多数の先進国がランクインしている。

パンデミックが男女不平等に拍車をかけたとの指摘もある。米ソフトウェア企業Qualtrics (クアルトリクス)とエクゼクティブ向けオンライン人材マーケットプレイスtheBoardlist(ボードリスト)が、ロックダウン中に子どものいる共働き夫婦家庭を対象に実施した共同調査では、男性の34%がリモートワーク中に昇進したのに対し、女性は9%に留まった。昇給の割合も男性が26%、女性は13%と大差があった。自宅で仕事をしながら子どもの世話やホームスクーリングをする役割の比重が、女性にかかっていたとの報告もある。

「経営戦略」としてジェンダー平等を目指す

熊本大学法学部の鈴木桂樹法学部長が2011年に発表した報告書「女性の活躍による経済社会の活性化」の中で指摘している通り、日本においては性差別問題への取り組みを「保護」や「福利厚生」として認識する傾向が強く、厳しい競争環境を生き抜いていくための「経営戦略」としての理解が弱い。この状況は10年が経過した現在も、さほど改善されていない。

特に、少子高齢化で労働力が不足している日本のような国において、女性の労働力は重要だ。性・年齢別労働力率が改善されない場合、日本の労働力率は 2030 年に 53.7%低下するとの予想もある。企業経営者はこのような性差別の現状を把握し、解決に向けて具体的な対処法を模索する必要がある。

社内におけるジェンダー平等の意識改革の促進に向け、社員教育の一環としてジェンダー平等についての教育プログラムを組む。さらに、定期的に社内アンケートやオリエンテーションを実施して、社員の性別を問わず性差別問題に関してオープンに話し合える環境を作るなど、積極的かつ効果的な改革戦略を打ち出す。

また、「あからさまな女性軽視やセクハラだけがジェンダー不平等ではない」点も留意すべきである。「無意識のバイアス」についても教育と改革が必要だ。たとえば、断定的な態度で迅速な意思決定ができる社員がいる場合、男性ならば高く評価されるのに対し、女性は「攻撃的で早急」などとネガティブな評価を受けることもある。このような無意識のバイアスは、時として人材や組織の成長を阻む。

ジェンダー平等の実現は国連サミットで制定された、国際社会の持続可能な開発目標「Sustainable Development Goals(SDGs)」の一つでもある。サステナビリティ(持続可能性)やESG(環境・社会・ガバナンス)が企業経営で重視されている現在、経営者が長期的な成長を促すための「経営戦略」として性差別問題に取り組むことで、有益な結果を目指せるのではないだろうか。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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