1月10日、大手電力10社で構成される電気事業連合会は家庭、企業に対して暖房を除く電気機器、電気設備の節電を呼び掛けた。対象は沖縄を除く全国、背景には年初からの厳しい寒波がある。電力の供給余力を示す予備率は3%とされるが、北陸電力や東北電力では使用率が一時的に99%を超えた。電力各社は最大出力での運転を継続するとともに事業者間融通の容量を拡大、J-POWER(電源開発株式会社)では停止中の石炭火力を重油で稼働させるといった異例の措置も講じた。それでも電力不足解消の見通しは立たず、需要者に対する使用抑制の要請となった。
需給ひっ迫の直接的な原因はLNG(液化天然ガス)不足である。そして、要因の一端にはやはり新型コロナウイルスがある。昨年前半、世界的な経済活動の低迷を受け、原油価格は暴落、LNGも生産調整に入った。しかし、経済回復で先行した中国が10月以降、“爆買い”に転じる。年初向けのLNGの価格は一挙に高騰、ここに寒波による需要の急増が重なった。
しかし、より重要な問題は需要変化への対応の遅れである。大手電力各社は自社の小売部門の需要予測をもとに供給計画を立てる。大手が市場を独占してきた時代は総市場との乖離はなかった。しかし、今、600社を越える事業者が電力小売市場へ参入、電力取引市場は多様化した。一方、電力の生産市場は依然として大手電力が8割を有する。結果、総市場における急激な需要増に需要予測が追い付かず、年初向けの調達が後手に回ったということだ。
今回の電力不足については、「石炭火力からLNG火力へのシフト」、「天候に左右され易い再生エネルギーの増加」、「原子力発電所の長期停止」といった要因を指摘する声も大きい。とは言え、直接的な原因は発電設備の問題ではなく、LNGの在庫不足であり、その要因は従来の需給調整システムが機能しなかったことにある。 燃料調達の失敗をもって、電力の自由化や再生可能エネルギーへの流れを後戻りさせてはならない。ではどうすべきか。もう一段の自由化、すなわち、供給、小売の多様化を前提としたサプライチェーンの再構築が必要であろう。エネルギーの分散ネットワークを支えるオープンなホールセール・マーケットの確立、あわせて蓄電技術のイノベーションに期待したい。
今週の“ひらめき”視点 1.10 – 1.14
代表取締役社長 水越 孝