急速な技術の進歩や消費者ニーズの多様化などにより、企業を取り巻く経営環境は従来とは比較にならないほど厳しくなった。過去の成功体験や感覚ではなく、戦略的な企業経営が求められる。今回は、ビジネスの戦略に関して立案プロセスやフレームワークなどをわかりやすく解説していく。
ビジネスの戦略とは
ビジネスの戦略とは何かを説明するとともにメリットも説明する。
戦略と戦術の違い
戦略と似た用語に戦術という用語がある。似ているが両者はまったく異なる概念だ。
戦略とは、戦争に勝つための総合的かつ長期的な方策をさす。戦術とは、戦略の実現に向けた具体的な施策を意味する。
戦略が抽象的な概念である一方で、戦術は具体的な施策や方法を意味する点に違いがある。
つまりビジネスの戦略とは、ビジネスで競合他社に勝つために策定する長期的な戦い方や、企業経営を将来にわたって続けるために策定する指針などを意味する。会社経営に直結する戦略であることから経営戦略とも呼ばれる傾向だ。
ビジネスでは、両者を明確に切り分けて考えるのが重要だ。
ビジネスの戦略を策定するメリット
ビジネスの戦略を策定する最大のメリットは、失敗のリスクを軽減できる点だ。感覚や成功体験に頼った場合、それが間違っていると致命的な失敗に陥る可能性がある。
戦略を立てれば、自社の経営資源や競争環境に適した経営を進められる。戦略を策定しないケースと比べて致命的なリスクを軽減できるだろう。
ビジネス戦略の全体像
ビジネスの戦略は、範囲や対象によって企業戦略、事業戦略、機能戦略に大別される。
企業戦略
企業戦略とは、企業全体(すべての事業分野)で推進していくビジネスの戦略である。現時点および将来の経営環境下で会社が勝ち残る方法を考える。企業戦略として決めるべき内容は、主に以下の通りだ。
・事業ポートフォリオ(事業の組み合わせ)
・各事業に対する経営資源の配分
・事業間のシナジー効果を発揮する方法
事業戦略
事業戦略とは、各事業部門に策定するビジネスの戦略である。事業単体で市場を勝ち抜く方法について考える。事業戦略の策定で考慮すべき点は、主に以下の通りだ。
・ビジネスモデル
・競争優位性
・事業内の各業務に対する経営資源の配分
・顧客や市場への対応
機能戦略
機能戦略とは、営業や人事などの各機能に策定するビジネスの戦略である。事業戦略や企業戦略を達成するために各部門で求められる行動を考える。機能戦略の策定で考える内容は主に期限やアプローチ、成果などだ。
ビジネス戦略を立案するうえで重要なポイント3つ
ビジネスの戦略を立案するにあたって、利益や将来につながる戦略を策定しなければならない。結果を出すために重視すべきポイントを3つ解説する。
ポイント1.強みと機会を活かす
ビジネスの戦略を立案するうえで最も重要なのは強みと機会を活かすことだ。
強みとは、自社の保有する経営資源(人材や技術など)の中でも特に競合他社よりも優れている価値を意味する。
例えば、他社にない特許技術を持つ企業は、技術力を有する人材が強みだといえるだろう。
機会とは、自社のビジネスに有利な外部の環境(チャンス)を意味する。例えば、外国人観光客向けの旅館にとって訪日観光客の増加は機会だといえるだろう。
強みを活かして機会をつかめるビジネス戦略の策定は、失敗の軽減と利益の増加につながりやすく、事業を成功させるうえでは欠かせない。
ポイント2.戦略に一貫性を持たせる
企業戦略、事業戦略、機能戦略に一貫性を持たせることもビジネスでは重要だ。なぜなら戦略間に一貫性がないとそれぞれの戦略がうまく機能しなくなるからである。
例えば、「特許技術に競争優位性がある商品を業者向けに販売する」という事業戦略を立てたと仮定しよう。
このときの機能戦略では、特許技術を活かせる人材の育成や製品開発への注力、展示会への出展などによる見込み客の獲得などが重要となる。
しかし、見込み客の獲得にほとんどつながらないSNS運営に注力したり、製品開発に十分な資金を投入したりしなければ、事業戦略はもちろん上位の企業戦略も達成できなくなる。
3つのビジネス戦略に一貫性があってはじめて、それぞれの戦略が結果に結びつく点は意識しておこう。
ポイント3.長期的な戦略から逆算して中期・短期の戦略を立てる
ビジネス戦略の策定は将来的に市場で生き残り、勝ち抜くことが目的だ。そのため、まずは達成したい目標(ゴール)を定め、達成に向けた戦略を策定するのが最優先だ。
また、長期間を視野に入れて中期(2~5年)・短期(1年未満)の戦略を立てることが好ましい。
間近の戦略をその都度立てると定期的に方向性がブレてしまい、長期の目標達成に最短ルートで近づきにくくなるからだ。
ビジネス戦略の立案プロセス
実のあるビジネス戦略を立案するには、手順が重要である。一般的には以下の手順でビジネス戦略を立案するのが好ましい。
手順1.経営環境を分析・整理する
ビジネスの戦略を立てるには、外部の成功要因や失敗要素を知っておく必要がある。
また、目標を達成するうえで強みや弱みも把握しておかなくてはならない。そこで、自社を取り巻く経営環境を分析・整理する必要がある。
経営環境の分析では、以下の項目を用紙やメモに整理するのがおすすめだ。
・自社の強み
・自社の成功を妨げる弱み
・マクロな外部環境(政治的動向や景気など)
・ミクロな外部環境(競合他社の動向や顧客のニーズなど)
手順2.経営環境を基に事業ドメインを決定する
経営環境を整理した後は、その内容を基に事業ドメイン(事業を行う分野)を決定しよう。事業ドメインを決めるにあたっては、自社の強みを活かせる分野や機会に恵まれやすい成長中の市場にある分野を選ぶのがベストである。
また、致命的な脅威(市場の衰退や代替品の台頭など)がなく、弱みが妨げとなりにくい分野を選ぶのも重要だ。
手順3.強みを活かし機会をつかめる戦略を模索する
事業ドメインの決定後は、強みを活かして機会をつかめる戦略を策定する。例えば、優秀なエンジニアが強みならばテレワークの需要増加などの機会を活かし、テレワークに関連したサービスを展開する戦略が浮かぶ。
緻密に戦略を立てる必要はあるが、強みと機会を活かすという視点を持っておけば、大きな失敗は避けられるだろう。
手順4.戦略の実行と修正
ビジネスの戦略を策定したら、あとは実行するだけだ。ただし、実践しても望んだ結果を得られない場合がある。その場合、1~3年といった周期で定期的に修正するとよい。
ビジネス戦略の立案に役立つフレームワーク3つ
ビジネスの戦略は抽象的かつ大局的な概念であるため、明確な戦略を立案することは難しい。
ビジネス戦略の立案に迷いがあるならフレームワークの活用がおすすめだ。型が定まっているので、比較的容易にビジネス戦略を立案できる。
参考として特に有名で役立つフレームワークを3種類紹介していく。
フレームワーク1.SWOT分析
SWOT分析とは強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)という4つの観点からビジネスの戦略を策定するフレームワークである。
自社の外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)の視点により、合理的な戦略を策定できる点がメリットだ。
SWOT分析の活用方法については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしていただきたい。
参考:3c分析やSWOT分析を戦略立案に活かすには?効果を上げるための注意点も解説
フレームワーク2.ファイブフォース分析
ファイブフォース分析とは市場に関する5つの力関係を分析するフレームワークである。具体的な力は以下の通りだ。
・売り手の交渉力
・買い手の交渉力
・既存業者の脅威
・新規参入業者の脅威
・代替品の脅威
力関係を分析することで市場における事業の難易度を把握することが可能だ。SWOT分析と併用すれば、より合理的で失敗リスクの少ないビジネス戦略を策定できるだろう。
参考:マーケティングの基本的な7つの手法 3つのケース別に活用方法を解説
フレームワーク3.VRIO分析
VRIO分析とは価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)という4つの観点から自社の経営資源が持つ競争優位性を分析するフレームワークである。
自社の経営資源に関する競争優位性を理解することで、強みを活かしたビジネス戦略の策定が可能になる。
参考:新規事業の立ち上げプロセスとは?成功率を高める考え方と5つのフレームワーク
戦略的経営はより重要になる
戦略をしっかり定めたうえでビジネスを進めれば、感覚や過去の成功体験に固執する場合と比べて失敗するリスクを軽減できる。
特に厳しい経営環境下では、戦略的経営がより一層重視されるだろう。経営が思うようにいかないときは、ビジネス戦略を見つめる機会が訪れているのかもしれない。
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)