実際の経営において「融資」とはどのように付き合えばよいのでしょうか?融資は受けるほうがよいのでしょうか?受けないほうが良いのでしょうか?融資金額はどのくらいで止めておくのが良いのでしょうか?
この答えは「業種」や「会社の成長段階」や「社長の性格」によりばらばらです。
一律な答えは存在しません。
ですが、税理士として多くの会社の経営を見てきて、融資を受ける前にどうしても知っておいていただきたいことが3つあります。
①「その融資は必要なものか、不必要なものか」を考える ②融資を受けるメリット・受けたことによって生じるデメリットを知る ③融資の上限金額を知る |
この3点のことを知っていただき、自分の会社に当てはめてもらえれば融資とは上手く付き合えます。
では順番に見ていきましょう。
①その融資は必要なものか、不必要なものか」を考える
融資は「麻薬」と言われます。
一度受けるとドンドン依存してしまい、なかなか融資体質の経営から脱却できなくなるからです。はじめて融資を受けるときはみなさん不安と緊張の中、申し込まれます。
自分の会社に融資は出るのだろうか、キチンと返していけるのだろうか、と。
しかし、一度融資が出ると「資金繰りが苦しいから追加で借りよう」とか「まだ借りても毎月の返済額は余裕がある」と考えてしまい、ドンドン融資残高が増えてしまう方が多くいらっしゃいます。
さらに、お金の使い方も変わります。融資を受けるまでは利益から生まれるキャッシュだったので使い方も慎重ですが、融資を受けたお金はなぜか簡単に使ってしまう。
「投資」という名目でドンドン使ってしまう。そしてドンドン融資残高が増えてしまうのです。
銀行は適正額でストップを掛けてはくれません。銀行マンは融資貸し出し残高のノルマがあるからです。
だから銀行マンは「会社にとって適正な必要額」ではなく「銀行にとって貸し出せる額」を貸してくれます。
そして多くのケースでは「必要額」<「貸出額」なのです。
「でも世の中貸し渋りで必要額を貸してもらえないのが社会問題になっているのでは?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
確認していただきたいのは、この必要額というのは「適正な必要額」のことです。銀行に返すために資金が苦しくなって追加融資を受けるのは「適正」ではありません。
必要額以上に貸してくれるために、毎月の返済額が苦しくなるのです。
だからこそ、融資を受ける前にその融資が本当に必要な融資なのか、そうでないのかは慎重に判断してもらいたいのです。
これこそが当たり前のようですが、融資と付き合う一番のポイントです。この当たり前なことを続けていれば融資は怖くありません。
では「必要」「不必要」のラインはどこなのでしょうか。
融資の上限金額については「③融資の上限金額を知る」で考えますので、ここでは「借りる理由」という視点から考えたいと思います。
融資を借りる理由が「時間的な要因」による場合は必要な融資と考えてもいいでしょう。
たとえば、売上の入金が遅いなどの時間的な原因からその間の運転資金を借りる場合。システム開発や建設業では案件によっては入金が遅れてしまうことがあります。
このようなケースではどうしても「つなぎ融資」が必要になります。こういった原因で借りる融資は時間がくれば返せます。
返済のメドが立っていると言えるでしょう。他には会社の成長スピードが早く、キャッシュの回収よりも先に支払いが来る場合も「時間的な要因」による融資です。
大きな売上が上がったことで、外注先に先に支払うキャッシュが必要な場合などが該当します。
こういった要因のときは融資を上手く活用することで飛躍的な成長が可能なケースもあり、融資を利用しても良いでしょう。
次は「仕入れ代金のための融資」についてです。
ネット通販や小売業の方はこの理由による融資が多いかと思います。
商売をしていれば「これは絶対にいける!」というチャンスがあります。でも、その仕入代金が手元資金では不足しているとすれば、なんとも残念ですね。特に時期が限定されるものや、利益率の大きい商品であれば諦め切れないものです。
また仕入はロットが大きければ1個当たりの仕入金額が安くなることもよくあります。
そこで「融資」という選択肢を選ぶことになります。この「仕入代金のための融資」はリスクが伴います。忘れがちなのが「在庫リスク」です。売れるまでの間、商品は在庫になっている時間が発生します。
しかし、融資の返済が始まれば「在庫」のままではお金が返せません。
結局安売りをしてでも在庫をお金に変えないと廻らなくなることもよくあるのです。また大きな在庫は税金面でも非常にマイナス要因です。
なぜなら在庫の金額は「仕入」という経費から除いて利益を計算しますので、お金はすでに支払っているのに経費にならず、その分利益が増えて税金がかかってくるのです。
さらに、近年の人気商品は売れる時期が短くなっています。結局そのまま売れ残って在庫の山だけが残ってしまうなんてことも考えられます。
在庫リスクや税金のリスク、売れ残りリスクなどを計算に入れて、それでも勝負する意味があるのであれば融資は受けても良いでしょう。
次は「出店や機械設備、本社家屋等の固定資産を買うための融資」についてです。
小売業の方であれば出店や店舗改装をしなければ商売ができません。また、製造業の方であれば機械設備への投資は必要不可欠なものでしょう。
しかし「なければ商売にならない」と「融資を利用する」は別問題です。
「お金がなくて商売ができなかったが、借金もない」状態と、「借りてしばらくは商売ができたが、その後商売が傾いて借金だけが残った」状態、どちらを選びますか?
ほとんどの人は「お金がなくて商売ができなかったが、借金もない」を選ぶはずです。
ですが、リスクをとらないと商売ができないのも事実。結局は「成功する可能性」と「借入金」を天秤にかけるしかありません。
つまりどれだけ将来を計画的に考えているかが重要ということです。世間では成功者の本などを読むと「とりあえず行動してみることが成功の秘密」という内容の話がよく出ています。
これはある意味事実ですが、成功者の「とりあえず」は成功しない人の「とりあえず」とは全く別物です。
成功者が考える「とりあえず」は非常に精密に計算しきった上で、まだ「数パーセントのリスクは残っているが90%以上は成功するだろう」という状態です。
ところが失敗してしまう人を見ると希望的な観測だけで事業計画を作り、融資を使っていることがあまりに多いのです。
特に異業種へ転向して融資を利用する人によく見られます。
本の表面的な内容や成功美談を信じて、安易に勝負をすると大火傷することになります。
「成功する可能性」と「融資」の天秤の判断は、社長のセンスにかかってくるとしか言えません。考えられうるリスクを全て考えつくした上で判断してください。
知り合いに、業界の先輩に、税理士に聞いてください。特に失敗した話を聞いてください。
そして不安要因が多いのであれば、ブレーキを踏むのも重要な経営判断です。
次は「慢性的な資金繰りの苦しさから逃げる融資」についてです。
言わずとしてこの原因で借りる融資は「借りてはいけない融資」です。
ですがほとんどの融資はこれが借りる理由になっていると思います。
売上が落ちてきたから借りる、毎月の返済が苦しいから借りる。なかには税金の支払いや賞与の支払いのために借りるということも珍しくありません。ですが冷静になってください。
今苦しい経営状況をそのままにして一時的にお金を借りて、本当に経営がよくなるのですか?
社会の景気のせいにして、融資で急場を凌いだとしても本当に返すことができるのですか?
答えは「NO」のはずです。
そして多くの社長はこのことも頭ではわかっています。
しかし、自社の姿が「見えていない」、もしくは「見たくない」ことがこういった事態を引き起こします。「融資は麻薬」と先程言いましたが、融資はこういった経営の苦しさから一時的に解放してくれるのです。
本質的な解決には何も良くなっていません。逆に将来返済額が増えて、また融資を受けざるを得ないという「麻薬中毒」に陥ってしまうのです。
そして行き着く先は「倒産」や「破産」が待っているだけです。それでも会社を守らなければいけないのが社長の仕事。借りるなとは言いません。
借りることで作った「時間」を、死に物狂いで改革に充ててください。ここで改革をせずに「ほっ」と一息ついて安心してしまっては全てが終わります。
「最後の切り札を使ったのだ」ということを強烈に意識して、全力で改革をしてください。
場合によっては人員整理もしなければいけないでしょう。事業の撤退や縮小も必要かもしれません。
そういった選択肢も視野にいれて、自分に厳しい判断もしてください。この危機的な状況を打開するためには、どれだけ早く改革できるか、が復活の唯一のカギなのです。
最後は「付き合いのための融資・将来に備えるための融資」についてです。
借りる必要はないけれど、銀行と付き合いを始めるために借りておくという社長がいらっしゃいます。こういった融資はどうでしょうか?
この手の融資はいろいろな意見がありますが、個人的には「借りても良い」と思っています。
「銀行は晴れたときに傘を貸して、雨が降ると傘を貸さない」と言われます。
「お金が必要でない時には貸してくれるのに、必要な時に貸してくれない」という意味です。
銀行も商売ですから景気が悪い会社に貸さないのはある意味当然です。会社の経営に浮き沈みがあることは避けられません。
そういった意味で、将来のことを考えて融資を受けておき利息をつけて返していくのは「リスク回避」という点では意味があるでしょう。
利息も元本が大きくなければそれほど多額にはなりません。また銀行は事故なく毎月キチンと返済してくれるという信用も重視します。
特に日本政策金融公庫は昔からの付き合いを見てきます。そういった意味でも「利息」くらいは費用と割り切ってもいいのではないかと思っています。ただし、使うときは考えてください。今までお伝えしてきたどの理由で、融資のお金に手を付けたのかを。
ここまでは融資を借りる理由という視点から融資が必要か否かについて書いてきました。
よくある融資の理由についてはこれでカバーできたと思います。
しかし、融資の理由はこれ以外にもたくさんあるでしょう。そのときに考える視点は常に「返済可能性」です。返すことができる確率や逆に返せなくなるリスクと融資を天秤に掛けて判断するようにしてください。
②融資を受けるメリット・受けたことによって生じるデメリットを知る
では、次は融資のメリット・デメリットについて考えてみましょう。
融資のメリットは言うまでもなく、大きなキャッシュが手に入るということです。
本来、キャッシュは利益からしか手に入らないものです。何年間もかかったはずの利益に相当するキャッシュを一瞬にして手に入れることができるのです。
有効に使えれば会社の成長スピードを格段に早めることができます。
またもう一つメリットがあります。それは「自己資産の投入を後回しにできた」というメリットです。
どういうことかと言うと、「もし銀行から借りなかったら会社に入れていたであろう社長の個人のお金を入れずに済んだ」ということです。
会社経営で本当に状況が厳しくなって銀行の融資が受けられなくなったとき、急に大きなお金が必要になって銀行から借りる時間的な余裕がないとき、そんなときは社長が会社にお金を入れるしかありません。
こんなときに、手元にお金がないとどうしようもありません。
このように考えようによっては銀行からの融資は「使えるキャッシュの総量」を増やすという効果もあるのです。逆に「デメリット」は何でしょうか?
毎月返済がある、というのは当然です。ですがこの「毎月の返済」というものはもう少し掘り下げて考える必要があります。
それは利益との関係です。毎月の返済の原資は何でしょうか?
「利益」です。
もうかった利益から返済をしていくのです。
当然ですよね。
ですが「利益」には約40%の法人税が課されます。
ということは「1ヶ月の利益=1ヶ月の銀行への返済」ではお金が廻らなくなるのです。
つまり「税引後利益」からしか返済のお金は出ないのです。
電話代などは経費になるので税引前の利益から支払うと考えて問題ありません。
ですが融資の元本部分の返済は経費にならないことから、このような考え方が必要になるのです。
この点については重要ですので、後ほど③の融資の上限を考えるところでも詳しく見ていきたいと思います。
もう一つ忘れがちなデメリットをお伝えしておきます。
それは「銀行返済を意識した経営になる」ということです。
たとえば売上高重視から利益率重視の経営に転換を図ろうとするとき。
売上高が一時的に減っても長期的な視点でみれば利益率を重視したほうが良いという経営判断は、マンパワーの業種では必要な視点です。
ですが毎月の銀行への返済があればどうでしょうか?
返済を滞らさないために、利益率が悪くてもお金が入る仕事をせずにいられません。
他には事業の撤退など事業形態を大きく変化させようとするとき。
こういったときも銀行融資の返済が足かせとなり、自由な経営ができなくなります。
最後にもう一つ、一番大きなデメリットがあります。
それは「お金に対する考え方が変わる」ということです。
どういうことかと言うと、社長がお金を簡単に使ってしまうようになるということです。
「そんなことないよ、銀行からの融資はいつも以上に慎重に使うよ」と思っておられる方がいらっしゃるでしょう。
ですが税理士の経験的に、なぜか融資のお金は簡単に使ってしまう方が多いのです。
お金に色は付いていません。
銀行から借りた1万円も、汗水流して稼いだ1万円も同じ1万円です。
ですが、なぜか銀行から借りた1万円は「軽い」。
そして融資を使って失敗してしまうことが多くなるのです。
今「自分は大丈夫」と思って読んでおられる方は、ご注意ください。
そして今の気持ちをずっと忘れずに持っていてください。
融資の1万円も、稼いだ1万円も同じ1万円なのです。
さて次は、融資はいくらまでならば問題ないのかという、融資の上限について考えてみましょう。
融資のメリットは言うまでもなく、大きなキャッシュが手に入るということです。
本来、キャッシュは利益からしか手に入らないものです。
何年間もかかったはずの利益に相当するキャッシュを一瞬にして手に入れることができるのです。
有効に使えれば会社の成長スピードを格段に早めることができます。
またもう一つメリットがあります。
それは「自己資産の投入を後回しにできた」というメリットです。
どういうことかと言うと、「もし銀行から借りなかったら会社に入れていたであろう社長の個人のお金を入れずに済んだ」ということです。
会社経営で本当に状況が厳しくなって銀行の融資が受けられなくなったとき、急に大きなお金が必要になって銀行から借りる時間的な余裕がないとき、そんなときは社長が会社にお金を入れるしかありません。
こんなときに、手元にお金がないとどうしようもありません。
このように考えようによっては銀行からの融資は「使えるキャッシュの総量」を増やすという効果もあるのです。
逆に「デメリット」は何でしょうか?
毎月返済がある、というのは当然です。
ですがこの「毎月の返済」というものはもう少し掘り下げて考える必要があります。
それは利益との関係です。
毎月の返済の原資は何でしょうか?
「利益」です。
もうかった利益から返済をしていくのです。
当然ですよね。
ですが「利益」には約40%の法人税が課されます。
ということは「1ヶ月の利益=1ヶ月の銀行への返済」ではお金が廻らなくなるのです。
つまり「税引後利益」からしか返済のお金は出ないのです。
電話代などは経費になるので税引前の利益から支払うと考えて問題ありません。
ですが融資の元本部分の返済は経費にならないことから、このような考え方が必要になるのです。
この点については重要ですので、後ほど③の融資の上限を考えるところでも詳しく見ていきたいと思います。
もう一つ忘れがちなデメリットをお伝えしておきます。
それは「銀行返済を意識した経営になる」ということです。
たとえば売上高重視から利益率重視の経営に転換を図ろうとするとき。
売上高が一時的に減っても長期的な視点でみれば利益率を重視したほうが良いという経営判断は、マンパワーの業種では必要な視点です。
ですが毎月の銀行への返済があればどうでしょうか?
返済を滞らさないために、利益率が悪くてもお金が入る仕事をせずにいられません。
他には事業の撤退など事業形態を大きく変化させようとするとき。
こういったときも銀行融資の返済が足かせとなり、自由な経営ができなくなります。
最後にもう一つ、一番大きなデメリットがあります。
それは「お金に対する考え方が変わる」ということです。
どういうことかと言うと、社長がお金を簡単に使ってしまうようになるということです。
「そんなことないよ、銀行からの融資はいつも以上に慎重に使うよ」と思っておられる方がいらっしゃるでしょう。
ですが税理士の経験的に、なぜか融資のお金は簡単に使ってしまう方が多いのです。
お金に色は付いていません。
銀行から借りた1万円も、汗水流して稼いだ1万円も同じ1万円です。
ですが、なぜか銀行から借りた1万円は「軽い」。
そして融資を使って失敗してしまうことが多くなるのです。
今「自分は大丈夫」と思って読んでおられる方は、ご注意ください。
そして今の気持ちをずっと忘れずに持っていてください。
融資の1万円も、稼いだ1万円も同じ1万円なのです。
さて次は、融資はいくらまでならば問題ないのかという、融資の上限について考えてみましょう。
③融資の上限金額を知る
月々の返済額として適正な金額はどれくらいと考えればよいでしょうか?
これを考えることで、自然と「融資の上限」がわかります。
「融資の上限」についてはいろいろな考え方があります。
銀行さんはよく「月商の2~3ヶ月分」が運転資金の目安と言われます。
それはそれで正しいと思うのですが、私は税理士としてこの考え方よりも、もっと適正な融資の上限金額の考え方として2つの考え方をご提案したいと思います。
それは
(1)「月々の返済可能額から考える方法」 (2)「会社を清算したとして返済できる額として考える方法」 |
の2つです。
この2つの考え方も元はといえば銀行の指標です。
ですがこの指標で考えると融資の上限金額が厳しくなるからか、あまり使われていないように思われます。
税理士として会計的な視点から考えれば、やはりこの2つの考え方が健全な経営に繋がると思っています。
では一つずつ見ていきましょう。
(1)月々の返済可能額から考える
まずは「月々の返済可能額から考える」方法です。
毎月いくらまでならば返済できるか、については次の計算式で試算することができます。
(税引き後利益+減価償却費)÷12 借入金の返済は当然経費になりませんから、税金を支払ったあとに残った利益から返済するものです。
しかし、減価償却費は経費と言え、キャッシュアウトを伴わない経費ですので、返済の原資になりえます。
なので、1ヶ月あたりの返済できる金額は(税引き後利益+減価償却費)を12ヶ月で割ったものが目安になります。
(2)会社を精算したとして返済できる額として考える方法
次は「会社を精算したとして返済できる額として考える方法」についてです。
この場合に目安となる金額は次のような計算式で考えます。
(現預金+売掛金+受取手形+在庫+差入保証金+その他のお金になる資産)-(買掛金+支払手形+未払金)
これは「もし今会社をやめたときに全額借入金を返済できるか」という視点に立って考えています。
つまり「キャッシュとキャッシュに変わるもの」の合計額が「現預金+売掛金+受取手形+在庫+差入保証金+その他のお金になる資産」で計算されます。
これに対して「借入金以外で支払わなければいけない金額」が「買掛金+支払手形+未払金」になります。
融資残高がこの差額までであれば、万が一会社を閉めても債務を残すことがないのです。
そういった意味から借入金の上限金額とお考えください。(提供:ベンチャーサポート税理士法人)