矢野経済研究所
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12月19日、EUの欧州委員会はコロナ禍からの経済再建に向けて組成された「復興基金」を活用し、洋上風力発電の導入計画を前倒しすると発表した。現時点における発電能力は12ギガワット、これを2030年に60ギガワット、2050年までに300ギガワットまで増強する。300ギガワットは標準的な原発300基に相当するもので、投資総額は100兆円規模に達する。EUは2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにするとの目標に掲げており、アフターコロナの成長戦略として洋上風力の強化を急ぐ。

先月22日、日本もまたG20オンラインサミットの席上「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」と国際公約した。世界が脱炭素に向けて大きく舵を切る中、日本の洋上風力投資も加速する。政府は、「2050年までに37ギガワット」としていた計画を「2040年までに45ギガワット」と上方修正、2021年度一般会計における関連予算も当初案から30億円増の131億円へ引き上げた。
確かに欧州と比較すると出遅れ感は否めない。とは言え、日本も「再エネ海域利用法」を制定するなど事業環境の整備を進めてきた。同法のもとで選定された11の促進区域のうち、長崎県五島市沖、秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子市沖の各区域では既に事業者選定の公募が始まっている。

洋上風力は、騒音、振動、景観、自然への影響など陸上風力が抱える立地上の制約が少なく、また、一定以上の風速が安定して得られるため発電効率が高い。加えて、浮体式など技術的なイノベーションの余地も大きく、送電網の敷設や港湾整備などインフラ事業も伴うため事業規模が大きい。関連事業者の裾野も広く、したがって、脱炭素関連では水素や蓄電池などと並ぶ成長市場である。

洋上風力への期待が高まる。しかし、その一方で、12月16日、経済産業省は福島県楢葉町の沖合20㎞に設置した洋上風力発電設備を来年度中にすべて撤去すると発表した。東日本大震災の復興事業として620億円が投じられた実証実験は商用化の見通しが立たないまま、完全撤退となった。筆者は2016年の夏、福島第一原発を視察させていただいた。当時、事故対応の前線拠点となっていた楢葉町のJヴィレッジ、出発前、そのテラスで外を眺めていた時、現地のご担当者が遠く東の沖合を指さして「洋上風力は復興のシンボル」とご説明いただいたことを記憶している。撤退は残念であるが、この7年間で得た知見のすべてを公開、共有し、未来へつなげていただきたい。

今週の“ひらめき”視点 12.20 – 12.24
代表取締役社長 水越 孝