12月14日、異例ずくめの2020年大統領選挙は「選挙人投票」をもってすべての手続きが完了、バイデン氏の勝利が確定した。この1ヵ月間、トランプ氏は全米各州で法廷闘争を展開してきた。その中でもっとも注目されたのは、接戦4州における選挙結果の無効を連邦最高裁に求めた裁判である。連邦最高裁の判事は9名、保守派は6名、うち3名はトランプ氏が指名した判事で構成される。保守派6人目のエイミー・バレット氏の就任日は10月27日、大統領選挙を直前に控えたタイミングでの手続きにバイデン氏自身も非難声明を出したことは記憶に新しい。結果、その連邦最高裁はトランプ氏の訴えを却下、この時点で事実上勝負は決着していた。
バイデン氏は国民に向けての演説で、あらためて米国の結束と民主主義への信頼を訴えた。しかし、容易ではない。アメリカ社会の分断はこの4年間で更に深まった。選挙人投票の直後、トランプ氏は不正の存在を否定した側近、バー司法長官の辞任を発表するとともに選挙結果の有効性を再び否定した。トランプ信者たちの気勢は上がり続ける。
筆者は以前、トランプ氏の功績について「置き去りにされ、見て見ぬふりをしてきた世界の課題や矛盾を、結果の是非はさておき、座視出来ない問題として浮き彫りにしたこと」と書いた。彼にとって政策判断の基準は明快だ。ディール、この一言に尽きる。2017年、トランプ氏は習近平氏を「良い人」と評し、1つの中国を支持したうえで「友情が生まれた」とも語った。現在の習氏とトランプ氏の関係について説明は不要であろう。米中貿易協議の頓挫、そこが転換点だ。
政治学者吉田徹氏の著書から氏の言葉をお借りすれば、今、世界の民主主義は “リベラリズムなき資本主義の実践を試みる国”(「アフター・リベラル」より、講談社現代新書)からの挑戦を受けている。一方、防戦に回っている側が掲げる「自由と民主主義が繁栄を約束する」との御旗も色褪せつつある。そもそもこの約束には常に米国のダブルスタンダードが見え隠れしてきた。しかし、トランプ氏はこれを取り払った。その痛快さが大衆を惹きつける。内政、外交の両面においてバイデン氏はこれまでの政権承継とは異質の困難に直面するだろう。その際、日本もまた政治的、経済的な選択を求められる可能性がある。しかし、自由、民主主義、多国間ルールの順守を原則とし、いずれの側に対しても自立、独立したポジションを貫いて欲しい。
今週の“ひらめき”視点 12.13 – 12.17
代表取締役社長 水越 孝