矢野経済研究所
(画像=Vladimir Sazonov/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスによって失速した経済活動は一部業種を除き回復途上にある。牽引役は外需、とりわけ、中国経済である。中国国内の自動車生産台数は9月にトヨタが前年比1.5倍、ホンダが1.3倍、日産も前期並みを確保した。中国向け工作機械受注は6月に前年比増に転換、7月以降150%以上の高水準が続く。10月の貿易統計(速報)によると中国向け輸出は10.2%増、4ヵ月連続で拡大、輸出全体の前年割れは前月の▲4.9%から▲0.2%まで縮小した。

第3波による感染拡大が懸念される中、中国のバイイングパワーが日本経済を支える。1月-3月期、日本経済は部材や製品など供給網における中国リスクに直面した。しかし、今、買い手としての彼らの存在感が増す。調達先であることと顧客であることの意味は質的に異なる。14億人の市場を代替する “チャイナプラスワン” を見つけることは至難の業であって、その意味で中国依存度はかつてないレベルに拡大する可能性がある。

12月1日、フランシスコ教皇の著書が発売される。教皇は著書の中で新彊ウイグル自治区の人権の状況についてはじめて懸念を表明するという。バチカン(ローマ教皇庁)と中国は1951年に断絶、バチカンは台湾との国交を維持する。以降、両国は中国国内における司教の任命権問題で対立してきたが、2018年に期限付きで暫定案に合意、先月ようやくその延長にこぎつけた。教皇が人権問題への言及を避けてきたのはこの交渉を有利に進めるための政治的配慮があったと言われる。

一方、中国にとってバチカンとの関係を正常化することの狙いは、バチカンに “1つの中国の原則” を認めさせることにある。それだけに中国側の反発は必至であり、暫定合意破棄の可能性もあるだろう。バチカンがどこまで対中リスクを取るか分からない。それでも教皇が人権問題に踏み込んだのは、それを看過し続けることは宗教者としてもはや許されなかったと言うことである。

24日、中国の王毅外相が来日、経済、気候変動、新型コロナ対策における連携強化があらためて確認された。一方、領土や人権については双方がそれぞれの立場を表明するに留まった。もちろん、目の前の利益を優先すべきとの “大人” の立場もある。しかし、原則を “棚上げ” にしたままの友好の不健全さはいずれ自身にとってのリスクとなる。我々はもう一度自身の原則と立ち位置を確認しておくべきである。

今週の“ひらめき”視点 11.22 – 11.26
代表取締役社長 水越 孝