会社をたたむ
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

事業承継問題に注目が集まる一方、「会社をたたむ」という選択をする経営者もいる。会社をたたむためにはさまざまな手続きが必要であり、検討する経営者にとっては不安であろう。今回は、会社をたたむために必要な費用や手続き、会社をたたむ前に検討すべきことについて説明する。

目次

  1. 会社をたたむとは会社を消滅させること
  2. 会社をたたむタイミングとは
    1. 経営者の高齢化
    2. 債務超過
    3. 人材難、後継者不足
    4. M&Aの難航
  3. 会社をたたむ手続きの流れ
  4. 会社をたたむときにかかる費用
  5. 会社をたたむ前に検討したいこと
    1. 休眠会社にする
    2. 事業再生

会社をたたむとは会社を消滅させること

「会社をたたむ」とは、平たく言うと会社を廃業することだ。事業活動を停止し、従業員に退職してもらい、買掛金や借入金をすべて弁済した上で、株主総会で解散決議と清算結了を確認してその旨の登記をすることになる。

なお、会社をたたむ方法には「法的清算」と「私的整理」の2つがある。

「法的清算」は、破産法あるいは会社法に則って手続きを行う。会社法の手続きに従うにしても、債務超過ならば特別清算手続に、資産超過であれば通常清算手続きを行うことになる。

「私的整理」は、REVICの特定支援制度や特定調停スキーム(廃業支援型)による清算を指す。本稿では通常清算手続きを中心に解説を行うこととする。

会社をたたむタイミングとは

通常、経営者が会社をたたむことを考えるのは、次の4つのいずれかのタイミングである。

経営者の高齢化

会社をたたむタイミングとして最初に挙げられるのが、経営者の高齢化である。若く体力のあった経営者でも、高齢になればビジネスの現場に出ることや経営上の重要な判断を下すことが難しくなる。これから先の経営を考えた結果、会社をたたむことを考えるようになる。余裕のあるときに会社をたためば、引退後の生活資金も捻出できるからだ。

高齢化だけでなく、経営者が事故や重大な病気で経営活動が困難になることも、会社をたたむきっかけとなる。

債務超過

会社の債務超過も、会社をたたむきっかけとなる。債務超過とは、会社の負債総額が資産総額を上回る状態のことである。

一口に債務と言っても、短期の支払いを迫られる買掛金や未払金もあれば、完済までの期間が長い銀行からの借入金もあるので一概に言えないが、通常債務超過に陥ると支払いを期限内に行うことが難しくなるため、経営危機に陥りやすい。また、債務があれば銀行から新たな借り入れをすることも難しくなる。

人材難、後継者不足

経営を任せられる人材がいないことも、会社をたたむ要因となる。後継者がいれば、現経営者が引退しても事業を引き継ぐことができるが、そうでなければ会社をたたまざるを得ない。

経営者の子どもや親族が事業承継を断ったり、社内の役員や従業員に経営者としての適任者がいない場合はもちろん、適任者がいても資金的な問題で引継が難しければ、経営の中断という選択をするしかないのである。

M&Aの難航

M&Aは、新たな事業承継や会社維持の手段として脚光を浴びているが、必ずしも成功するとは限らない。会社を売り出したところで、見向きもされないこともあるのだ。また、売却金額の折り合いがつかない、事業の社長依存度が高い、本業部分の赤字の改善に時間がかかりそうといった理由でM&Aが難航することもある。

よしんば譲渡内容で折り合いがついたとしても、競業避止義務やロックアップ条項によって、譲渡後の経営者の行動が縛られることを知って、譲渡契約そのものを白紙に戻したくなることもあるだろう。M&Aに活路を見出せない場合にも、会社をたたむという選択をするほかないのである。

会社をたたむ手続きの流れ

会社をたたむときは、法律上、次のような手続きを踏むことになる。

  1. 会社解散の準備
  2. 株主総会での解散決議・清算人選任決議
  3. 解散・清算人の選任を登記
  4. 会社解散の届出
  5. 会社解散の公告
  6. 解散時の決算書類作成・確定申告
  7. 決算報告書の作成・株主総会での承認

会社をたたむ流れについて、順を追って解説していこう。

1.会社解散の準備

会社をたたむための法的な手続きを開始する前に、会社の事業終了に伴う準備を行う。具体的には次のような作業だ。

  • 従業員や取引先、金融機関への事業終了の説明
  • 買掛金・未払金・借入金・従業員への給料の支払い
  • 会社が加入していた生命保険・損害保険の解約
  • 売掛金・未収金・貸付金等の回収
  • 各種契約の解約

事業終了という形で実質的に会社をたたんでも、会社の解散・清算という法律上の手続き完了までには時間がかかる。営業終了日は余裕をもって決め、その日までに解散準備を進めるようにするのが大事だ。

2.株主総会での解散決議・清算人選任決議

会社設立や役員報酬決定、決算報告のように会社にとって重要な決定・承認を行う際、必ず株主総会での決議が必要となる。会社をたたむ際も、同様に株主総会での解散決議が必要となる。

会社解散は「会社事業を停止する」ことを指し、この時点ではまだ会社の存在そのものが消滅したことにはならない。発行済株式の過半数以上の株主が出席し、3分の2以上の賛成が得られれば会社解散が決議されたことになる。

また、株主総会では、実際に会社をたたむ手続きを行う清算人の選任も行う。解散後の会社(清算会社)は、もっぱら清算を行う目的でのみ存続することになるため、取締役は解散と同時に退任し、清算人が会社の清算の事務に携わることになる。清算人は、従前の取締役になることが多いが、定款によって顧問弁護士が指定されているケースもある。

3.解散・清算人の選任を登記

株主総会で決議された会社の解散と清算人の選任について登記する。これは、株主総会での決議から2週間以内に、会社の住所地を管轄する法務局にて行わなくてはならない。「解散及び清算人選任登記」として同時に登記するのが一般的だ。

4.会社解散の届出

登記を行うことで、会社の解散自体は法律上成立したことになるが、この他に、税務・労務で会社をたたむ手続きを行わなくてはならない。具体的には次のような手続きになる。

  • 税務署に「異動届出書(法人税)」「事業廃止届出書(消費税)」「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(源泉所得税)」「青色申告の取りやめの届出書」などを提出
  • 都税事務所や県税事務所など、法人の住民税・事業税を管轄している行政機関に「異動届出書」を提出
  • 年金事務所に「健康保険・厚生年金保険適用事業書」「被保険者資格喪失届」などを提出
  • ハローワークに「雇用保険適用事業所廃止届」「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」などを提出
  • 労働基準監督署に「確定保険料申告書」「労働保険料還付請求書」などを提出

なお、社会保険は解散登記から5日以内に、雇用保険は事業を廃止した日や退職日から10日以内に、労災保険は事業廃止から50日以内に提出することが義務付けられている。なるべく早く手続きを済ませることが肝要だ。

5.会社解散の公告

会社をたたむ旨を、国が発行する官報に掲載して公告する。ここで、債権者に対して債権を申し出ることを呼び掛けることになる。なお、2ヵ月以上は債権の申し出の期間を設けなければならない。

6.解散時の決算書類作成・確定申告

会社の財産を把握して分配・納税を行うべく、財産目録と貸借対照表を作成しなくてはならない。なお、財産の評価は解散日の時価で行う。これらの決算書類を作成した後、株主総会での承認を得て次の手続きに取り掛かることになる。

(1)会社解散・清算の確定申告

解散事業年度及び清算事業年度の各末日の翌日から2ヵ月以内に、解散に関する確定申告を行わなくてはならない。なお、この確定申告の提出については特例的に延長することもできる。

(2)債権回収・債務弁済

不動産や有価証券などといった会社資産を売却し、債権回収を行う。さらに、回収した資金と会社に残っている現預金で会社の債権者に弁済を行っていく。

ここですべての債務を弁済しきれないときは、通常清算から倒産手続きに切り替えることになる。

(3)残余財産の確定・分配

債務弁済後に残った財産株主に分配する。

7.決算報告書の作成・株主総会での承認

清算人は「清算結了決算報告」を作成し、再び株主総会を開催して承認を得なければならない。承認を経て後に次の作業を行うと、地上から会社の法人格が消滅することになる。

(1)精算結了登記

上記の決算報告書が承認されてから2週間以内に、管轄の法務局で精算結了登記を行う。これが受領されて初めて、会社の登記簿が閉鎖されることになる。

(2)残余財産の確定申告

残余財産が確定した日の翌日から1ヵ月以内に、残余財産確定事業年度の確定申告を行わなくてはならない。ただ、この1ヵ月間に残余財産の最後の分配が行われるのならば、分配実施日の前日が期限となる。なお、残余財産の確定申告には期限延長の特例といった制度はない。

(3)清算結了届

清算結了登記後の謄本を添付した「清算結了届」を、管轄の税務署に提出しなくてはならない。精算結了届の提出によって法律上の廃業が認められ、会社をたたむための全てのプロセスが完結したことになる。

会社をたたむときにかかる費用

なお、会社をたたむときには次のような費用がかかる。

  • 解散登記:3万円
  • 清算人選任登記:9,000円
  • 清算結了登記:2,000円
  • 官報公告の掲載費用:10行分で約3万5,000円

この他、弁護士や司法書士、税理士に会社をたたむための手続きを依頼するならば、別途料金がかかる。事務所によって課金体形は異なるが、手続きを全て依頼するとなると、ざっと30~50万円ほどのコストになるのが一般的だ。

会社をたたむ前に検討したいこと

以上が「会社をたたむ」という作業の実態だ。経営者はさまざまな事情を抱えているため、時間をかけて検討した結果、会社をたたむという決断をせざるを得ないこともあるだろう。

しかし、いったん会社をたたんでしまうと、収入が断たれるだけでなく、自社で築き上げたブランドや人材、スキルやノウハウを失ってしまうことになる。廃業が頭をよぎったとしても、次に説明する廃業を回避するための可能性についても再考してほしい。

休眠会社にする

会社をたたむ前に考慮して欲しいのが、休眠会社にするという選択肢だ。事故や病気、資金繰りの事情で経営から離れざるを得ない状況に追い込まれても、安定した取引を行う顧客が待ってくれそうだったり、少し休めばまた復帰が見込めるのならば、会社を休眠させるという選択肢もある。次の記事を参考にして検討してみてほしい。

「法人が休業をするメリット・デメリットとは?廃業との違いや、休業届を提出する手続きを解説」

事業再生

事業再生という方法も、廃業を回避する選択肢の一つとなる。事業再生には自らの経営努力のみで再建を目指す「自主再建」と、第三者から資金等の支援を受けて再建を目指す「スポンサー支援による再建」の2つがある。

中小企業だと株式の大半を経営者が保有しているため、通常は自主再建を第一に考える。この場合、遊休資産の処分や債務免除、弁済のリスケジュールを通じて経営を立て直していくこととなる。

しかし、自力での再建が困難ならば、スポンサー支援による再建を選ぶことが望ましい。M&Aのように、スポンサー企業に事業の一部や株式を譲渡して支援を受ける場合もあれば、企業再生ファンドによる支援のように、資金援助だけは受けて経営は従前の経営者が担う方法もある。

いずれにせよ、会社をたたむには、手続きに時間とお金がかかるだけでなく、周囲との関係にも気を配らなくてはならない。廃業は最後の選択肢として残しておき、会社を存続させるための手段を模索して欲しい。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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