法人が活動を停止する選択肢として、「休業」と呼ばれるものがある。会社の状況次第では、休業は効果的な経営戦略となり得るため、経営者は概要をきちんと理解しておくことが重要だ。廃業との違いや手続き方法と合わせて、休業についての理解を深めていこう。

目次

  1. 法人の休業とは?
    1. 休眠の状態が続くとどうなる?「みなし解散」とは?
  2. 会社を休業するメリット・デメリット
    1. 会社を休業する5つのメリット
    2. 会社を休業する4つのデメリット
  3. 休業と廃業の違いとは?休業を選択するべき5つのケース!
    1. 会社を廃業する4つのメリット
    2. 会社を廃業する5つのデメリット
  4. 法人の休業・廃業にかかる費用のまとめ
  5. 休業届はいつ・どこに提出する?法人を休業させるときの手続き
    1. 法人がみなし解散から脱する方法は?
  6. 会社の休業は慎重に検討を!休業前に理解しておきたい3つのポイント
    1. 1.休業中も必要になる業務がある
    2. 2.手続きを専門家に依頼するとコストがかかる
    3. 3.懈怠による休業は、過料が発生する恐れも
  7. 法人の休業や廃業に関するQ&A
    1. Q1.法人は何年で休業扱いになる?
    2. Q2.会社の休止手続きは?
    3. Q3.法人の休業届はいつどこに提出する?
    4. Q4.休業と廃業の違いは?
    5. Q5.休業・廃業した会社はどうなる?
    6. Q6.法人のみなし解散とは?いつからそうなる?
    7. Q7.有限会社を放置するとどうなる?
    8. Q8.休眠会社のメリット・デメリットは?
  8. 広い視野をもって、休業・廃業をひとつの選択肢に
  9. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
休業
(画像=PIXTA)

法人の休業とは?

法人の休業とは、登記簿上の記録は残した状態で、事業活動・営業活動を一時的に停止させることだ。休業をした法人は「休眠会社」と呼ばれており、以下のいずれかのケースに該当する場合に、休眠会社として扱われることになる。

〇休眠会社として扱われるケース
・株式会社に該当し、最後に登記をした日から12年以上が経過した場合
・税務署などに対して、所定の手続きをした場合

株式会社は10年に1度のタイミングで、役員変更の登記をすることが義務づけられている。この登記を放置し、最後に登記をしてから12年以上が経過すると、自動的に休眠会社として扱われる。

また、このケースに該当しない場合であっても、株式会社は所定の手続きを行うことで、自ら休眠会社になることが可能だ。自ら休眠を選ぶ意義や手続きの内容については、後述で詳しく解説していく。

休眠の状態が続くとどうなる?「みなし解散」とは?

休眠会社となった株式会社はいくつかの工程を経て、最終的には完全に解散したものとみなされる。その工程の途中にあたる段階が、「みなし解散」と呼ばれるものだ。

この説明だけではイメージが少し湧きにくいので、実際に解散として扱われるまでの流れを以下で確認していこう。

休業

みなし解散の状態では、まだ株式会社を継続することが可能だ。所定の手続き(※後述)をすれば再び事業を続けていけるが、みなし解散の状態で3年以上が経過すると、会社継続の決議自体ができなくなる。

つまり、同じ株式会社で事業を続けることが不可能となるため、会社の存続を希望している場合は、一刻も早くみなし解散状態を解消しなければならない。

事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。

【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!

✉️経営、事業承継・M&Aの無料相談はこちらから

会社を休業するメリット・デメリット

ここまでを読んで、「休業状態は会社にとって危ない」と感じている経営者も多いだろう。しかし、実は株式会社の休業にはいくつかメリットがあり、そのメリットに魅力を感じて自ら休眠会社になることを望むケースも多く見られる。

では、具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのかについて、以下で詳しく解説をしていこう。

会社を休業する5つのメリット

会社を休業する最大のメリットは、法人税や消費税などの税金がかからない点だ。法人税などの税金は、会社の利益に対して発生するものなので、休眠状態でそもそも事業活動をしていない法人にはこれらの税金が課せられない。

では、それ以外のメリットについても、以下で簡単に確認をしていこう。

〇会社を休業する主なメリット
・法人税や消費税が発生しない
・自治体によっては法人住民税の均等割が免除される
・所定の手続きをすれば、いつでも事業を再開できる
・事業の再開時に、許認可を取りなおす必要がない
・解散や清算にかかる費用を削減できる

上記の「法人住民税の均等割」は、赤字経営の企業に対しても課せられる税金だ。その税額は毎年約7万円とそれほど高くはないが、赤字企業には重い負担となって圧しかかる。

実は休眠会社になると、自治体によってはこの均等割の支払いが免除される。そのため、経営者の中には新たな事業が思いつくまで会社を休業し、ビジネスの土台が整ったタイミングで休業を解消するようなケースが見受けられる。

また、解散や清算にかかる費用を削減できる点も、経営者にとっては大きなメリットだろう。たとえば、会社の清算時にはすべての手続きを自力で行ったとしても、7万円~10万円ほどの諸費用がかかってくる。一方で、休眠会社の手続きには特筆すべき費用が発生しないため、コストを抑えた形で会社を休業状態にできる。

会社を休業する4つのデメリット

前述で解説した通り、休眠会社には法人税や消費税などの税金が発生しない。ただし、不動産を所有している休眠会社については、引き続き「固定資産税」が課せられるので要注意だ。
また、会社自体は存続する形となるため、税務申告は毎年行う必要がある。そのほか以下で挙げる点も、会社を休業するデメリットといえるだろう。

〇会社を休業する主なデメリット
・不動産を取得している場合は、固定資産税が発生する
・税務申告を毎年行う必要がある
・役員地位は継続するため、定期的に変更登記が必要になる
・最終登記から12年が経過すると、「みなし解散」として扱われる

休眠会社であっても、「役員地位が継続する点」には注意しておきたい。つまり、役員としての任期が満了した場合には、変更登記を済ませる必要がある。

また、前述でも詳しく解説したが、休業状態を放置すると「みなし解散」として扱われる点は、経営者が確実に理解しておきたいポイントだ。たとえば、複数の会社を経営しており、どの法人を休眠会社にしているのかを忘れてしまった場合には、「いつの間にか解散状態になっていた…」といった事態に陥りかねない。

休業と廃業の違いとは?休業を選択するべき5つのケース!

会社の営業活動・事業活動を停止させたい場合、経営者には「廃業」という選択肢もある。廃業とは、所定の手続きを行うことによって、事業主が自主的に会社をたたむことだ。
では、ここまで解説した休業と比べた場合、廃業にはどのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。

会社を廃業する4つのメリット

廃業という道を選ぶと、会社そのものが消滅をすることになるため、経営者はさまざまな業務や責任から解放される。もちろん、固定資産税をはじめとした税金は発生せず、税務申告や変更登記の必要もなくなるため、会社経営における経営者の負担は一気に軽減されるだろう。

〇会社を廃業する主なメリット
・固定資産税をはじめ、法人にかかる税金が一切発生しなくなる
・税務申告や変更登記の必要性がなくなる
・経営の負担から解放される
・無理に経営を続ける場合と比べて、多くの資産を残せる

無理に赤字経営を続ける場合と比べて、経営者個人の資産を守りやすい点も廃業のメリットだ。たとえば、休業状態を解消しても赤字経営が続くようであれば、廃業によって早めに撤退を決めたほうが、経営者はより多くの資産を残せる。

会社を廃業する5つのデメリット

会社を廃業する最大のデメリットは、これまで築き上げてきた会社を完全に失ってしまうことだ。廃業をすると経営資源や事業用資産はもちろん、取引先や人脈、従業員などをすべて失う。
ほかにも、廃業には以下のようにさまざまなデメリットがある。

〇会社を廃業する主なデメリット
・経営資源や事業用資産を失う
・取引先や従業員などが離れていく
・資産を売却する際に、低く見積もられる可能性が高まる
・休業とは違い、好きなタイミングで復帰できない
・解散や清算手続きをするための費用がかかる

廃業をする際には、所有している不動産や設備などの資産を処理しなくてはならない。基本的には売却をすることになるが、廃業となれば自由なタイミングで売却をすることが難しいため、売却価格を低く見積もられてしまう恐れがある。
また、廃業後に再び同じ事業を始める際には、許認可をすべて取りなおす必要がある点もきちんと理解しておきたいポイントだ。

休業

上の表は、ここまで解説してきたメリット・デメリットをまとめたものだ。休業と廃業を見比べてみると、どのような場合に休業を選ぶべきなのかが見えてくる。
たとえば、以下のようなケースに該当する場合は、廃業ではなく休業を積極的に検討しておきたい。

〇休業を選択するべき主なケース
・体調不良などが原因で、一時的に会社を経営できないとき
・赤字経営を解消する目的で、新たなビジネスを考えているとき
・事業承継をしたいものの、後継者がなかなか見つからないとき
・取り組む事業が増減する過程で、特定の会社を経営する必要がなくなったとき
・一時的に「経営から離れたい」と感じているとき など

新たな会社を設立する際には、登記費用などのコストが新たに発生してしまうため、一時的に営業活動・事業活動を停止させたい場合は「休業」を考えたいところだ。その一方で、新たな気持ちで事業にチャレンジをしたい場合には、精神的にもスッキリする「廃業」のほうが適している可能性がある。

法人の休業・廃業にかかる費用のまとめ

法人の休業・廃業では、以下のような費用が発生する。

休業

上記のほか、手続きを税理士や司法書士に依頼する場合は、数万円~数十万円の費用が発生する。士業への依頼費用については、顧問契約を結んでいるかどうかや依頼先によって変わるため、事前にしっかりと情報収集をすることが重要だ。

なお、廃業時にはさまざまな費用が発生するものの、維持・管理コストは一切かからなくなる。この点は大きなメリットになるため、休業と廃業のどちらが得になるかは慎重に見極めたい。

休業届はいつ・どこに提出する?法人を休業させるときの手続き

数ある法人手続きの中でも、会社を休業させるための手続きは比較的シンプルだ。期限は特に決められておらず、休業を決めたタイミングで以下の書類を提出すれば手続きは完了する。

〇法人を休業させるときの手続き

休業

また、休眠会社を再開させる際にも、手続きの内容は基本的に同じだ。異動届出書に「休眠解除の旨」を記載し、関連の役所に対して必要書類を提出する。

〇休眠会社を再開させるときの手続き

休業

法人がみなし解散から脱する方法は?

みなし解散として扱われている法人が事業を再開させるには、以下の工程が必要になる。

休業

上記を見てわかる通り、休眠会社を再開させる手続きよりも複雑であり、さらに約8万円の登記費用が発生する。つまり、将来的に再開する予定の法人がみなし解散として扱われると、時間とコストを大きく無駄にしてしまう恐れがあるため要注意だ。

会社の休業は慎重に検討を!休業前に理解しておきたい3つのポイント

法人の休業に関しては、ここまで解説した以外にも理解しておきたいポイントがある。休眠会社になることを考えている経営者は、以下の点もチェックしたうえで検討を進めてほしい。

1.休業中も必要になる業務がある

これは前述でも解説した内容だが、法人を休業させたからと言ってすべての業務から解放されるわけではない。中でも必ず行う必要がある「税務申告」と「役員変更登記」の2つは、常に意識しておきたい業務だ。

また、休業が長期間に及ぶ場合は、みなし解散とならないように管理をする必要性も生じてくる。これらの業務から完全に解放されたい場合は、「廃業」を検討する必要があるだろう。

2.手続きを専門家に依頼するとコストがかかる

上記で解説した「法人を休業させるときの手続き」「休眠会社を再開させるときの手続き」には、基本的にコストは発生しない。ただし、これらの手続きを司法書士などの専門家に依頼するとなれば、話は変わってくる。

専門家への依頼コストを抑えたいのであれば、休業手続き・再開手続きは自分で行わなくてはならない。提出書類はそれほど多くないが、書類の準備や提出にはある程度の手間がかかるため、忙しい経営者は念のためスケジュールを確認しておこう。

3.懈怠による休業は、過料が発生する恐れも

懈怠(けたい)とは、ある義務が課せられているにも関わらず、それを何らかの事情で怠ることだ。休眠会社の中には「登記懈怠」や「役員選任懈怠」が原因で、自動的に休業状態になる企業も存在する。

自動的に休眠会社として扱われるのであれば、「手続きをする必要はないのでは?」と感じる方もいるだろう。しかし、これらの懈怠に対しては、ペナルティとして「100万円以下の過料」が発生する恐れがあるので細心の注意が必要だ。

実際に過料が科せられるかどうかはケースバイケースだが、手続きを怠って不要なリスクを抱え込む必要はない。そもそも、登記や役員選任は株式会社の義務であるため、将来的に休業を予定している場合であっても、きちんと取り組むようにしよう。

法人の休業や廃業に関するQ&A

経営状況が変化しやすい中小企業は、常にさまざまな選択肢を考えておく必要がある。ここからは、休業や廃業に関する基礎知識を分かりやすくまとめたので、経営戦略の幅を広げるためにしっかりと確認していこう。

Q1.法人は何年で休業扱いになる?

一般的な株式会社は、最後の登記から12年が経過すると休眠会社として扱われる。ただし以下の法人については、最後の登記から5年が経過した時点で休眠扱い(休眠一般会社)となるため要注意だ。

・一般社団法人
・一般財団法人
・公益財団法人
・公益社団法人

なお、登記事項証明書等の交付を受けていたとしても、最後の登記から一定期間が過ぎると休眠扱いになる。

Q2.会社の休止手続きは?

会社を休業させる手続きは、以下の流れで行う。

【1】事業を停止する
【2】休業届を作成し提出する
【3】休業届が受理される

都道府県税事務所などに休業届が受理されると、その会社は休眠状態として扱われる。最後の登記から12年が経過すると、自動的に「みなし解散」とされる恐れがあるため、休業前には事業再開のタイミングを考えておく必要がある。

Q3.法人の休業届はいつどこに提出する?

法人の休業届(異動届出書)は、その事実があった日から2ヶ月以内に税務署へ提出する。事業廃止や解散、設立、設置などに関しても、原則として提出期限は同様である。

なお、上記は国税に関する手続きなので、同様の手続きを都道府県税事務所または市区町村役場でも行わなくてはならない。

Q4.休業と廃業の違いは?

廃業とは、法人や個人事業主が自主的に事業を停止させる手続きである。廃業では法人格や屋号が消滅するため、事業の再開時には新たに登記や許認可取得をしなければならない。

一方、休業は経営を一時的に休眠させる手続きであり、法人格等を残したまま事業を停止できる。所定の手続きだけで事業を再開できるため、登記や許認可取得の手間を省きたい場合は、基本的に休業を選ぶことが望ましい。

Q5.休業・廃業した会社はどうなる?

休業した会社は、法人格や屋号を残したまま事業を停止できる。基本的には課税もストップするものの、法人住民税の均等割(年間約7万円)については毎年負担をしなければならない。

一方、廃業した会社は法人格等を失うため、法人住民税を含むすべての税金から解放される。ただし、登記や許認可取得をしない限りは同じ事業を始められないため、事業を再開させる場合は余計なコストや手間がかかってしまう。

Q6.法人のみなし解散とは?いつからそうなる?

最後の登記から12年を経過した株式会社(※)は、法務大臣による公告が行われる。この公告から2ヶ月が経過すると、その翌日から「みなし解散」として扱われる。

みなし解散になっても法人格は存続するが、その状態のまま営業活動をすることは認められていない。営業活動を再開するには、会社継続の手続きを行う必要がある。

Q7.有限会社を放置するとどうなる?

有限会社は休眠整理の対象ではないため、12年以上放置してもみなし解散にはならない。所定の手続きをしない限りは法人格が残り、通常と同じ課税をされることになる。

休眠会社として放置することも可能だが、休眠中でも税務申告や登記変更の義務は課される。また、法人住民税の均等割も発生するため、事業再開の可能性がない場合は、廃業や精算によって法人格を消滅させることが望ましい。

Q8.休眠会社のメリット・デメリットは?

休眠会社のメリット・デメリットは以下の通りである。

休業

休眠会社は法人格が残るため、税務申告や登記変更、一部の納税義務は課されることになる。ただし、経営資源や許認可等は残すことができるので、事業再開の可能性がある場合は有効な選択肢になり得る。

広い視野をもって、休業・廃業をひとつの選択肢に

「休業」や「廃業」と聞くと、多くの方はマイナスイメージを持つかもしれない。しかし、会社の現状や今後の計画によっては、休業・廃業によって一時的に活動を停止したほうが、メリットが大きい場合もある。

特に休業に関しては、本記事で紹介したようにさまざまなシーンで活用できる制度だ。計画的に休業と再開を繰り返せば、コストを抑えた形で赤字経営から脱却できる可能性もあるだろう。「休業や廃業は逃げの手段」と悪いように考えず、広い視野をもってさまざまな選択肢を検討してもらいたい。

事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。

【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!

✉️経営、事業承継・M&Aの無料相談はこちらから

文・THE OWNER編集部

無料会員登録はこちら