10月14日、習近平氏は深圳経済特区成立40周年の記念式典で、「世界の産業変革を主導し、より高いレベルでの自力発展を実現する」と演説、先端IT産業の振興と社会のデジタル化を推進する方針を示した。実際、深圳ではその前日、市民5万人に1人当たり200元のデジタル人民元を配布、大規模な実証実験をスタートさせている。中国社会のデジタル化は世界の最先端にあると言え、習氏の発言は決して非現実的でものではないだろう。
しかし、それゆえに国際社会、とりわけ欧米日からの懸念が強まる。中国は既に全てのモバイル決済を一元管理する「網聯(ワンリェン)」システムを導入済だ。加えてデジタル人民元への転換が実現すれば国内の通貨取引は完全に捕捉できる。また、デジタル通貨の社会実装を世界に先駆けて実現出来れば技術や運用規定における国際標準を主導することも可能性となる。結果的に国際基軸通貨としてのドルの優位が脅かされるということだ。
深圳での実験が始まった日、G7は国際決済システムへのデジタル通貨の導入には透明性と法の支配が不可欠である旨の共同宣言を発した。“法令の恣意的な解釈変更”、“責任の所在が曖昧な意思決定プロセス”、“場当たり的で不透明な運用ルール” は、従来から指摘されてきた中国ビジネスにおけるリスクであるが、それが金融を介して国外へ拡張されることへの警戒が高まる。
6月、国連人権理事会は中国が香港に適用した「国家安全維持法」に対する賛否を問うた。反対は27ヶ国、賛成は53ヵ国、自由と民主主義を掲げる反対勢は中国を支持する側に数で圧倒された。賛成派はキューバ、北朝鮮、カンボジア、イラン、ミャンマー、サウジアラビアなど、実質的に主権が為政者に占有された国や社会的に不安定な新興国である。COVID-19をいち早く克服し、経済を回復軌道に乗せた中国はこれまで以上にそうした国々への経済的な影響力を高めるだろう。従来の色分けを越えた新たな分断が世界に拡散する可能性がある。
深圳でデジタル通貨の実験が始まった同じ13日、国連人権理事会は47理事国のうち15ヶ国の改選選挙を実施した。アジア太平洋枠で理事国に選任されたのは、香港に対する統制強化の是非が問われたその中国である。選挙結果を受けてポンペイオ米国務長官は、国連の機能不全を指摘したうえで、米国は国連以外の場で人権の普遍的価値を訴え続ける、と表明した。
翻って、日本はどうか。6月の賛否では、もちろん香港の人権、言論、自由、民主主義に対する統制に「反対」する側に立った。しかし、今、自国にあって、国による統制に対する社会的コンセンサスに内側からの綻びが生じていないか。将来にあっても、堂々と「反対」の側にあり続けるために私たち自身に問いかけたい。
今週の“ひらめき”視点 10.11 – 10.15
代表取締役社長 水越 孝