社会保険料は、会社にも負担する義務が課せられる。社会保険料はコストの一つなので、経営者は計算方法を把握しておくべきだろう。特にこれから適用事業所を目指す企業、人材を増やす経営者などは、しっかり理解しておこう。
目次

社会保険とは?加入義務を簡単にチェック
計算方法を解説する前に、まずは社会保険の基本的な部分を押さえておこう。社会保険とは、国民の生活を保障するために国が実施している公的制度であり、具体的には以下の5つの保険を指す。

社会保険には加入条件があり、一定の条件を満たす従業員については、法律で加入が義務づけられている。仮に未加入が発覚した場合は、過去2年間まで遡って保険料を支払う必要がある上に、懲役刑や罰金刑が科せられる。
罰則は雇用者側にも科せられるため、経営者は自社の現状や加入条件をしっかりと確認しておく必要があるだろう。
社会保険への加入は必須?
社会保険が適用される事業所は、「強制適用事業所」と「任意適用事業所」に分けられる。強制適用事業所は、事業主や従業員の意思に関係なく社会保険への加入が義務づけられている。
一般的に、法人はそのほとんどが強制適用事業所に分類されるため、基本的に社会保険への加入が必須だ。一方個人の事業所に関しては、以下のようにルールが定められている。

強制適用事業所に該当しない事業所には、任意適用事業所として社会保険に加入するか、もしくは加入しないという選択肢がある。従業員の半数以上が適用事業所になることに同意をし、申請後に厚生労働大臣の許可が下りれば、その事業所は「任意適用事業所」として社会保険の適用を受けられる。
つまり、個人事業所に限って言えば、社会保険への加入が必須ではないケースもあるということだ。ただし、将来制度が変更される可能性もあるため、加入義務がない個人事業者も社会保険に関する基礎知識は身につけておきたい。
社会保険料の負担額・負担率は?
社会保険料は、企業と従業員が約半分ずつ支払っていくのが一般的だ。負担額は従業員の給与によって異なり、介護保険を含めると給与の約16%を両者で負担することになる。
ただし、保険の種類によって負担額・負担率は異なり、中には企業側が多く負担する保険もあるため、厳密に言えば完全な折半ではない。また、雇用保険と労災保険については、業種によっても支払う保険料が変わる。
社会保険料は基本的に「給与額」と「料率」で計算されるが、年度によって料率が少し変わることがあるので注意しておこう。
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社会保険料の「標準報酬月額」とは?
社会保険料は報酬月額(給料や手当、賞与など)から個別に計算することもできるが、各自治体が公開している保険料額表を用いれば、一覧表で簡単に金額をチェックできる。ただし、保険料額表から社会保険料を把握するには、「標準報酬月額」について理解しておく必要がある。
標準報酬月額とは、社会保険料を計算しやすくするために報酬月額(給料や手当、賞与など)をいくつかの等級に分けたものだ。文章だけでは少しイメージがつかみづらいので、以下では東京都の例を紹介しよう。
○令和3年分の東京都の保険料額表(一部抜粋)

保険料額表を見る際には、まずは該当する報酬月額を探す。報酬月額が見つかったら、同じ行に標準報酬月額の「等級」と「金額」が記載されているため、こちらも合わせて確認しておこう。
あとは、該当する等級の社会保険料をチェックすれば、具体的な金額を簡単に把握できる。なお、実際の保険料額表には「全額」と「折半額(※)」の2つが記載されているため、金額を間違えないように注意しておこう。
(※)社会保険の加入者と企業で折半する金額のこと。
社会保険料の計算方法を詳しく解説
次に、社会保険料を報酬月額から計算する方法を見ていこう。内容はそれほど難しくないが、理解を深めるために、以下のモデルケースを例に解説していく。

モデルケースの各保険料にも目を通しながら、概要をしっかり理解してほしい。
1.健康保険、厚生年金保険
社会保険料は、基本的に報酬月額が増えるほど保険料も高くなる仕組みだ。健康保険と厚生年金保険は、報酬月額に応じて50の等級に分けられている。都道府県によって料率が若干変わることも覚えておきたい。以下は平成31年度(4月以降)の東京都・神奈川県の保険料額表だが、同じ等級でも保険料に違いがあることがわかる。
〇東京都の例(一部)

〇神奈川県の例(一部)

健康保険・厚生年金保険の保険料は、会社と従業員が折半して支払う。都道府県ごとに各年度の保険料額表が公開されているので、経営者の方は該当エリアの情報を確認しておこう。

2.介護保険
介護保険料は、社会保険に加入するすべての従業員が支払うわけではない。40歳以上65歳未満の「介護保険第2号被保険者」だけに支払い義務が課せられるものだ。保険料率は全国一律で1.73%であり、保険料額表では以下の例のように、健康保険料と合わせて記載されることが多い。


上記の「介護保険第2号被保険者に該当する場合の保険料」が、「健康保険料+介護保険料」にあたる。上記は総額だが、介護保険も健康保険と同じく、企業と従業員が折半する形で保険料を支払う。
3.雇用保険
雇用保険料も報酬月額によって変動するが、ここまで解説した3つの社会保険とは違い、企業と従業員が折半して支払う形式ではない。雇用保険の料率とそれぞれの負担割合は、以下のように決められている。

表のとおり、雇用保険の料率や各負担率は業種によって異なっている。こちらも年度によって料率・負担率が変わることがあるため、計算する場合はその年度の情報を確認するようにしよう。

4.労災保険
労災保険の料率は、業種ごとに非常に細かく分けられている。業種区分は数十に及ぶが、以下ではその一部を紹介しよう。

このように業種によって料率(労働保険率)に大きな差があるため、事業主は注意しておきたい。また、年度によって各業種の料率に違いがある点や、保険料のすべてを企業側が支払う点も、労災保険で押さえておきたいポイントだ。

モデルケースの社会保険料を合計すると、会社側の負担額は49,845円、従業員側の負担額は48,045円となる。給与に対する割合は、会社側が約16.6%、従業員側が約16.0%だ。
モデルケースの計算例を見てわかるとおり、会社側と従業員側の社会保険料の差は、雇用保険・労災保険によって生じる。差はわずかだが、負担する保険料に違いがあることはしっかり理解しておこう。
社会保険の猶予制度とは?
社会保険料は必ず負担しなければならないが、資金繰りによっては支払いが難しくなるタイミングもあるだろう。そのような時にぜひ覚えておきたいものが、支払い時期を延長できる社会保険の猶予制度だ。
2022年3月現在では、以下のような猶予制度が実施されている。

上記はいずれも新型コロナウイルスをきっかけに創設された制度であり、猶予を受けられる期間が細かく決められている。つまり、社会保険の猶予制度は常に実施されているものではないため、利用を検討したタイミングで最新情報を確認しておくことが重要だ。
なお、猶予制度は申請すれば利用できるものではなく、それぞれの制度に要件が設けられている。例えば、厚生年金保険料等の猶予制度は、以下のいずれかに概要する事業者しか申請できない。

また、猶予制度の利用時には申請手続きが必要になるため、早めに概要を確認して準備に取りかかることをすすめる。
社会保険の計算・負担で押さえておきたいポイント
ここまで保険料の計算方法を解説してきたが、他にも押さえておきたいポイントがいくつかある。より理解を深めるために、特に経営者の方は以下のポイントも確認しておこう。
1.ボーナス(賞与)の扱い方は?
賞与にかかる社会保険料については、1,000円未満の端数を切り捨てた「標準賞与額」をもとに、以下の計算式で算出される。
社会保険料=標準賞与額×料率
基本的な計算方法はこれまでと同じだが、ボーナス支給月には社会保険の負担額が増えるので注意したい。また、社会保険料を支払う義務がある賞与の定義は「労働の対象として支給されるもののうち、年3回以下支給されるもの」だ。
つまり、結婚祝金など労働の対価ではないものや、年4回を超えて支給される金額については、賞与と見なされない。なお、賞与に含まれないものは、標準報酬月額として扱われる。
2.端数の処理方法は?
健康保険・厚生年金保険・介護保険は、企業と従業員が折半するための計算で端数が生じることがある。この端数についても、以下のように処理方法が細かく定められている。
・従業員の負担分は、50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げで処理される
・会社側の負担分は、合計金額から1円未満の部分を切り捨てる形で処理される
もう少し理解を深めるために、以下の表で詳しく見てみよう。

従業員の負担分は、保険料の半額から端数を処理(50銭未満は切り捨て、50銭超えは切り上げ)して計算される。企業側の負担分は、厚生年金保険料の合計金額から1円未満の部分を切り捨て(納入告知額)、「納入告知額-従業員の負担分の合計金額」で計算される。
基本的には切り捨てる処理が多いものの、すべての端数を切り捨てるわけではないことを覚えておこう。
3.休職期間はどう扱う?
従業員が休職をした場合も、基本的に社会保険の支払い義務は課せられる。社会保険料は「標準報酬月額」をベースに算出されるため、仮に従業員の給料が減ったとしても、標準報酬月額に変化がなければ負担額も休職前と変わらない。
ただし、産休や育休によって従業員が休職をする場合は、「産前産後休業保険料免除制度」の適用を受けられる。この制度は、「産前42日・産後65日」のうち休職した期間について、企業側・従業員側ともに健康保険と厚生年金保険の保険料が免除されるものだ。
この制度を利用するには、従業員からの申し出を受けた企業側が、「産前産後休業取得者申出書」を日本年金機構へ提出する必要がある。事業主本人にも適用される制度なので、産休・育休の予定がある方は概要を確認しておこう。
4.従業員が副業をしていた場合の負担額は?雇用保険や労災保険はどうなる?
従業員が副業をしていた場合、本人が支払う社会保険料はもちろん増加する。では、本業の企業が支払う保険料も、同じように変動してしまうのだろうか?
結論から言えば、答えはノーだ。従業員が副業をする場合は、以下のような流れで社会保険料が支払われる。

つまり、社会保険料は勤務先ごとに計算されるため、従業員が副業をしていても、企業側の負担額が増えることはない。
また、雇用保険は本業の会社でのみ加入するが、労災保険は勤務先ごとに加入できることも覚えておきたいポイントだ。従業員が各勤務先で労災保険に加入していれば、どの勤務先で労災が発生しても給付を受けられる。
5.雇用形態は影響する?
雇用形態がアルバイトやパート、派遣社員、契約社員であっても、社会保険料の計算方法は変わらない。社会保険の加入条件を満たしている従業員は、雇用形態に関わらず同じ方法で社会保険料が計算されている。
正社員以外の雇用形態でも、給与が高いほど社会保険料も増えることを理解しておこう。
6.従業員の年齢が変わったタイミングは要注意
社会保険は年齢によって適用されるもの(※控除も含む)が異なるため、従業員の年齢が変わったタイミングでは新たな手続きが発生することもある。ケースによって多少異なるが、一般的に必要になる手続きは以下の通りだ。

なお、適用される保険や控除が変わると、社会保険料の計算方法も変わるため注意しておきたい。
7.昇給・降給時の扱いはどうなる?
昇給や降給によって報酬月額が変わった場合は、社会保険料の計算も当然変わってくることになる。また、標準報酬月額が2等級以上変わるケースでは、年金事務所などで所定の手続き(月額変更届の提出)も行わなくてはならない。
ちなみに昇給・降給には「手当」も含まれており、一時的に祝休日や深夜の出勤が増えた従業員はこのケースに該当しやすい。残業手当や住宅手当なども昇給・降給の対象に含まれるため、従業員の給与関係に大きな変化があった場合は、標準報酬月額も合わせて確認しておこう。
社会保険の仕組みやポイントを理解し、慎重に計算をしよう
社会保険料は標準月額報酬をもとに計算されるが、保険ごとに計算方法が少し異なる。業種によっても料率が変わるため、具体的な金額を出すには細かい計算が必要だ。もし概算金額を把握したいなら、「報酬月額×16%(介護保険を含む場合)」と計算すればいい。この計算式は、覚えておくと便利だ。
一方、1円単位で金額を把握したい場合には、賞与や休職期間の扱いにも注意しなければならない。ここで解説した内容を参考にしながら、慎重に保険料を計算してほしい。
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