社会保険
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「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が2019年4月より本格施行され、多様な働き方が推進される昨今、働き方や雇用に中立で公平な社会保険制度が求められている。経営者として、所得保障や法定給付、社会保険制度に関する基礎的な知識は備えておきたい。

目次

  1. そもそも社会保険とは?
  2. 標準報酬月額とは?
  3. 標準賞与額とは?
  4. 社会保険料の計算方法
  5. 標準報酬月額の決定時期、方法、タイミング
  6. 社会保険料の算出方法や等級の調べ方
  7. 年度初めは業務を平準化しておき残業を極力減らす対応を

そもそも社会保険とは?

社会保険には、国民健康保険や健康保険、後期高齢者医療制度などの公的医療保険と、公的介護保険、国民年金や厚生年金保険などの公的年金などがある。なかでも法人に関係するのが、健康保険、厚生年金保険、介護保険だ。ここからは、この3つを「社会保険」と表記していきたい。

法人(適用事業所)であれば業種にかかわらず、法律上当然に社会保険に加入することが義務付けられている。個人事業主など、法人でなかった場合であっても、従業員が常時5人以上いるなど、要件によっては加入が必要だ。

社会保険に加入すると、事業主は従業員に代わって社会保険料を納めなくてはならない。保険料は従業員によって異なるため、算出方法を知っておく必要がある。社会保険料の計算に必要な「標準報酬月額」などについて解説する。

標準報酬月額とは?

社会保険に加入する人、つまり従業員のことを被保険者という。社会保険料は、被保険者の給料や報酬に対して○%、というように各保険料率を乗じて計算される。だが被保険者の給料や報酬は1人1人、1円単位まで異なることもあるだろう。

そのため、社会保険料を計算しやすくするために、例えば月給23万円以上25万円未満である場合には「24万円」というようにグルーピングされている。このグルーピングされた金額を「標準報酬月額」という。なお、グルーピングのことを「等級」という。実際は、標準報酬月額等級表という一覧があり、月当たりの給料や報酬を当てはめると標準報酬月額がわかるようになっている。

また、同じ被保険者であっても残業の多寡により、月当たりの給料や報酬は異なる場合もある。そのため、原則として4~6月までの3ヵ月間の給料や報酬をもとに1年間の標準報酬月額を決定することとなっている(定時決定)。そうすると、社会保険料も原則として1年間同じ額になるという仕組みだ。

標準報酬月額等級は健康保険と厚生年金保険とでは等級の区分が異なる。健康保険の等級は、第1級の5万8,000円(6万3,000未満)から第50級の139万円(135万5,000円以上)までの全50等級である。厚生年金保険の等級は第1級の8万8,000円から第31級の62万円までの全31等級となっている(平成29年9月分~)。

なお、標準報酬月額の計算の基礎となる報酬とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与など、被保険者が労働の対償として受け取る全てが該当する。賞与については、年4回以上支給される場合は報酬に含める。

【報酬の範囲】

報酬に含まれるもの報酬に含まれないもの
現金基本給、賞与
役付手当、勤務地手当
家族手当、通勤手当、住宅手当
残業手当など
出張旅費、解雇予告手当など
退職手当、傷病手当金など
現物通勤定期券、食事、住宅など制服、食事(個人負担が3分の2以上の場合)

標準報酬月額は、保険料の計算のほかに、傷病手当金、出産手当金や年金額などの計算にも使われるため、万が一の保障の計算のもととなる金額だと考えると重要である。

標準賞与額とは?

社会保険料には、毎月の給料や報酬だけでなく、賞与や報酬にも同じ料率を乗じて算出する総報酬制という仕組みが導入されている。社会保険では、被保険者が毎年4月1日から3月31日までの間に賞与として受け取った月が年3回以下のものを「標準賞与額」いう。

支給された賞与額に1,000円未満の端数が生じたときは、端数を切り捨てた額が標準賞与額となる。また、年4回以上の賞与については報酬として標準報酬月額に上乗せされる。具体的には、年4回以上の賞与を合計し、12で除した額を月当たりの給料や報酬にプラスする。

なお、標準賞与額には上限がある。健康保険では年間(毎年4月1日から3月31日)累計額が573万円、厚生年金保険では1ヵ月につき150万円が上限となっている。標準賞与額には、標準報酬月額のような等級はなく、標準賞与額に各保険料率を乗じて計算する。

社会保険料の計算方法

標準報酬月額や標準賞与額に各保険料率を乗じると社会保険料を計算することができる。ここで計算した社会保険料には、被保険者本人の負担分と事業主の負担分があり、折半で負担することとなっている。端数が出た場合、事業主が被保険者の給料などから控除(天引き)しているのであれば、被保険者負担分の端数が50銭以下であれば切捨て、50銭超であれば切り上げて1円となる。

また毎月の保険料額は、原則として被保険者の負担分を報酬から控除(天引き)し、保険料を納付する際に事業主が被保険者分を合わせて翌月末日までに納めることとなっている。

協会けんぽでは、健康保険の計算に使用する保険料率は都道府県によって異なり、一定の範囲内で協会が決定している。2019年度の全国平均は10%であった。どの都道府県の保険料率を適用するかは、原則として本社の所在地によって決まるが、保険料率は年度ごとに変更される可能性がある。

また、40歳以上64歳までの人は介護保険の第2号被保険者として介護保険料を納める必要がある。40歳になる被保険者がいる場合、忘れずに健康保険に加えて介護保険料も計算し、報酬から控除(天引き)しなければならない。協会けんぽの場合、介護保険料の保険料率は全国一律で、2019年3月からの1年間は1.73%であった。介護保険料の保険料率も、健康保険料と同様に変更される可能性がある。

厚生年金保険の保険料率は、2017年9月以降18.300%に固定され、現時点では今後変更されることはない(第4号厚生年金被保険者である私立学校教職員共済制度の加入者を除く)。標準報酬月額に18.300%を乗じた額が厚生年金保険料となる。

各保険料率の詳細は、協会けんぽのホームページや日本年金機構のホームページで確認できる。実際に各保険料を計算するときは、以下の式に当てはめて計算する。

・健康保険:標準報酬月額×健康保険料率
※被保険者が40歳以上である場合
健康保険+介護保険:標準報酬月額×(健康保険料率+介護保険料率)
・厚生年金保険:標準報酬月額×18.300%

なお、被保険者と事業主負担は折半となるため、計算結果を2で割った額を被保険者の報酬等から控除(天引き)し、残額は事業主が負担する。

また、賞与にかかる保険料額は、賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた額(標準賞与額)に各保険料率を乗じた額となる。賞与に関しても、被保険者と事業主負担は折半となるため、計算結果を2で割った額を被保険者の報酬等から控除(天引き)し、残額は事業主が負担する。

・健康保険:標準賞与額×健康保険料率  ※被保険者が40歳以上である場合
健康保険+介護保険:標準賞与額×(健康保険料率+介護保険料率)
・厚生年金保険:標準賞与額×18.300%

なお、事業主が毎月の保険料を翌月末日までに納めるときに忘れがちなのが、事業主のみが負担する必要のある「子ども・子育て拠出金」だ。「子ども・子育て拠出金」は児童手当の支給に要する費用などの一部に当てられるための拠出金である。

子ども・子育て拠出金は、被保険者の家族構成などに関係なく、厚生年金に加入している被保険者がいる全事業主が負担する。子ども・子育て拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額および標準賞与額に、拠出金率(0.34%)を乗じて得た額の総額だ(2019年4月より)。

標準報酬月額の決定時期、方法、タイミング

標準報酬月額の決定の時期にはいくつかのタイミングがある。メインとなる時期は入社して社会保険加入の資格を得る(資格取得時決定)4月や、定時決定時の7月だ。社会保険に加入している事業所(適用事業所)であれば、必ず算出や手続きが必要となる時期だ。そのほかにも標準報酬月額が変更されるタイミングもある。

・資格取得時決定(新たに被保険者資格を取得)
適用事業所に採用され、一定の要件を満たすと被保険者となる。例えば4月に入社した新入社員は、新たに被保険者となって資格取得した際の報酬に基づいて報酬月額を決定する。これを資格取得時決定という。新採用、中途採用問わず、その事業所において新たに標準報酬月額を決定することである。

・定時決定(年1回)
標準報酬月額は毎年1回、見直しをする。これを定時決定という。実際の報酬額と標準報酬月額に大きな差が生じないようにするためである。事業主は原則7月1日現在に働いている全被保険者の3ヵ月分(4月から6月)の報酬をもとに新たな標準報酬月額を決定する。

なお、業務の性質上、年度初めに業務が集中して多額の残業代が発生したり、昇級の差額分を一括して支給したりすると、定時決定と、1年間に受けた報酬の平均を比べると大きく差が出ることもある。この差が標準報酬月額の等級が2等級以上となった場合、「保険者決定」という方法で計算することもできる。

【定時決定】

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なお、4~6月の3ヵ月の中に、報酬等の計算の対象となる労働日数(支払基礎日数)が17日(短時間労働者は11日)以上ある月の報酬のみを合計し、その月数で除した額が報酬月額となる。定時決定により算定した標準報酬月額は、大きな変動がなければ、翌年の定時決定まで1年間変わらない。

・随時改定(報酬額が大幅に変動した際に行われる)
昇級や降級などにより固定的報酬が大幅に変動した際、次の7月の定時決定を待たずに標準報酬月額を改定する。これを随時改定という。随時改定は報酬が変動した月以後の継続した3ヵ月を平均して月額を計算し、その翌月から変更(改定月)となる。継続した3ヵ月はすべて報酬等の支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日)以上なければならない。

【随時改定】

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・産前産後休業終了時改定
産前産後休業の終了後に職場復帰をした際、産前産後休業の対象となった子どもを養育している被保険者が申し出ると改定される。報酬等の支払基礎日数が随時改定に該当しない場合であっても標準報酬月額の改定ができる。これを産前産後休業終了時改定という。

・育児休業等終了時改定
育児休業等の終了後に職場復帰をした際、3歳に満たない子どもを養育している被保険者が申し出ることと改定される。報酬等の支払基礎日数が随時改定に該当しない場合であっても標準報酬月額の改定ができる。これを育児休業等終了時改定という。

産前産後休業や育児休業等を終了し、職場復帰した際、短時間勤務にするなどの理由により、報酬が低くなることがある。定時決定を待たずに標準報酬月額を改定することで、保険料の負担を軽減することができる。

【標準報酬月額の決定月からの適用期間】

資格取得・改定時期等適用期間
資格取得時決定1月1日から5月31日までその年の8月まで
6月1日から12月31日まで翌年の8月まで
定時決定7月1日現在その年の9月から翌年の8月まで
随時改定改定月が1月から6月までその年の8月まで
改定月が7月から12月まで翌年の8月まで
産前産後休業終了時改定改定月が1月から6月までその年の8月まで
改定月が7月から12月まで翌年の8月まで
育児休業等終了時改定改定月が1月から6月までその年の8月まで
改定月が7月から12月まで翌年の8月まで

社会保険料の算出方法や等級の調べ方

社会保険料は、原則的に4~6月の報酬に基づいて7月に定時決定した標準報酬月額と標準賞与額に保険料率を乗じて計算する。東京都の事業所で働くAさん(45歳)を例に実際に計算してみる。

【毎月の社会保険料 ※報酬月額265,000円】
協会けんぽのホームページより、当該年度の都道府県毎の保険料額表を参照すると、Aさんの標準報酬月額は26万円だとわかる。標準報酬月額26万円のAさんの等級は、健康保険では第20等級、厚生年金保険では第17等級となる。実際Aさんが負担する保険料を計算する。

Aさんは45歳であるため、介護保険料も負担する。計算式は「標準報酬月額×(健康保険料率+介護保険料率)÷2」を使って計算する。なお、東京都の健康保険料率(2019年度)は9.90%である。
健康保険料(介護保険料を含む):260,000円×(9.90%+1.73%)÷2=15,119円

厚生年金保険は計算式「標準報酬月額×18.300%÷2」を使って計算する。
厚生年金保険料:260,000円×18.300%÷2=23,790円

Aさんが負担する社会保険料は15,119円+23,790円=38,909円となる。事業主も同額を負担することになる。

【賞与額における社会保険料※賞与額1,660,500円】
賞与も毎月の社会保険料と同様に各保険料率を乗じて計算する。計算式は「標準賞与額×(健康保険料率+介護保険料率)÷2」を使って計算する。

健康保険料(介護保険料を含む):1,660,000円×(9.90%+1.73%)÷2=96,529円
※標準賞与額は1,000円未満切り捨て、賞与の合計が年間累計額573万円(毎年度4月1日から3月31日)を超えないものとする

厚生年金保険は計算式「標準賞与額×18.300%÷2」を使って計算する。
厚生年金保険料:1,500,000円×18.300%÷2=137,250円
※準賞与額は1,000円未満切り捨て、1ヵ月につき150万円が上限

【参考】東京都の健康保険・厚生年金保険の保険料額表 平成31年度

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出典:協会けんぽHPより

年度初めは業務を平準化しておき残業を極力減らす対応を

社会保険料の計算の基礎となる標準報酬月額は原則的に4~6月に実際に支払った報酬に基づいて決定される。新入社員の資格取得時決定や昇給、年次有給休暇の付与など、年度初めは給与計算に関わる変更が多い。なるべく業務を平準化し、残業を極力減らす対応をおすすめしたい。なぜなら1年間の各保険料を抑えることができるからだ。

働き方改革の推進により、働く人(被保険者)にとって多様な働き方を選べるようになってきた。同時に適用拡大により、非正規雇用や短時間労働者も一定の要件を満たすことで、社会保険に加入できるようになっている。

例えば、2016年10月からは厚生年金保険の被保険者数が常時 501 人以上の適用事業所において短時間労働者が社会保険に加入できるようになった。今後、2022年に101人以上、2024年に51人以上と適用拡大することが予定されている。

社会保険の適用拡大は、被用者個々の働き方を考えるきっかけにつながるのも確かだが、保険料は労使折半であるため、適用拡大により事業主にとって社会保険料の負担が重くなるのも確かだ。しかし、万が一の保障などを考えると、保険料の負担増より得るものもある。

事業主は出費を減らすことばかり考えるべきではないだろう。多様な働き方ができるようになれば、今まで就業を抑えてきた人が働くことを検討するように、結果として事業にプラスになる可能性も大きいからだ。そう考えると、人材確保に悩んでいる事業主にはとっては契機とも捉えられるのではないだろうか。だからこそ社会保険制度を理解しつつ、業務の見直しなども踏まえて今後の対応を検討したいものだ。

文・THE OWNER編集部

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