飲食店
(画像=@ Alexander.Shelegov/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスによる外出自粛の影響で飲食店の経営には大きな打撃を受けており、飲食店の廃業を考えている人も増えていると思われる。今回は、飲食店を廃業する場合、決断する際に大切な考え方と、実際に廃業する際にやるべきことを整理した。

目次

  1. 飲食店の廃業を決断するときに考えること
    1. 1. どんなときに廃業を考えるべきか
    2. 2. 廃業の決断する際に忘れてはいけないこと
  2. 廃業をするときにやるべきこと
    1. 1. 店舗関係
    2. 2. 許認可関係
    3. 3. 取引関係
    4. 4. 税務関係
    5. 5. 社会保険
    6. 6. 金融関係
    7. 7. その他の手続き
  3. 飲食店の廃業には誠実な対応と迅速な手続き、届け出が必要

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飲食店の廃業を決断するときに考えること

通常、廃業を考えるのは、資金繰りの問題が一番切迫したときだと思うが、事業としての将来像をしっかり検討してから決める必要がある。

1. どんなときに廃業を考えるべきか

事業には投資期間と回収期間があり、順調に進んでいる会社でも投資期間は資金的には赤字となる。飲食店では将来の収益を見通すことが難しい。売上の推移に加え、新規来客数・リピート数とこれまでの集客施策がどの程度の期間でどの程度の成果を得ているかを振り返る必要があるだろう。

さらに、投資・広告のコストパフォーマンスとそのタイムラグ等を計算に入れ、将来的に現金の流出がいつまで続くのか、いつからどの程度の現金の留保が可能となるかを将来的な収支計画に基づいて算定しなければならない。その上で、そこまでの資金繰りを賄える手段があるか(自己資金、銀行借り入れ、補助金など)について、楽観的なシナリオ・悲観的なシナリオの両面から冷静に考える必要がある。

資金収支が改善する見込みがどうしても立たないときには、現状でまだ資金に余裕があったとしても、廃業の意思決定を早くするほうが賢明な場合もある。飲食店も事業である以上、事業からの撤退の条件は良くも悪くも定量的かつシビアに見極めることが重要だ。

2. 廃業の決断する際に忘れてはいけないこと

収支の改善が見込めず、廃業を決断した際に忘れてはいけないことがいくつかある。以下にそのポイントについて列記する。

・再起できる環境を作ること
廃業を決断するときにギリギリのタイミングまで引っ張ってしまうと、廃業後に負債や返済義務が残り、その後の再起の芽をつぶしてしまうことがある。廃業を決断するタイミングは非常に難しいが、できるだけ資金を手許に残しておくなど、後で再起しやすい状況を作っておくとよい。

・別のビジネスを始める際には顧客を連れていける仕掛けをつくること
飲食店には、様々な属性の顧客がついている。廃業して別のビジネスを始める場合には、顧客を次のビジネスにうまく連れていけるような仕掛けを作っておくことが大切である。

・銀行は大事だが、最重要ではない
大半の事業者は、創業の際に銀行や日本政策金融公庫の融資を利用している。銀行等との人間関係や取引履歴は信用上とても大切である。銀行は、放置しておくと、保証金・敷金への差し押さえなど、強硬な手段に訴えてくるので、しっかりとコミュニケーションをとっておくことが重要である。

融資を利用している銀行については、銀行口座に預金が残っている状態で廃業の話をすると、契約を盾として、預金口座の拘束と融資との相殺を進めていく場合があるため、事前に預金口座の残高を減らしておく、入金口座を変更するなどの対策は必要である。この局面で、銀行はドライに進めていく一面があるため、銀行との付き合いは大事にしつつも、廃業の流れの中で最優先ではないことを肝に銘じるべきである。

・従業員に対してはできるだけの誠意を示す
従業員は会社にとってはとても大切な存在だ。廃業の場合には、解雇することとなりどうしても不利益を与えてしまうが、できるだけの誠意を示すことは必要である。誠意の内容としては、事情説明をする、給与や退職金の支給といった金銭面でできるだけの対処をする、雇用保険関係の手続きを速やかに進めると同時に、再就職支援等の姿勢を示すこと等だ。

解雇という局面では、従業員が自分の権利を強行に主張してくるケースも多いため、相手を見ながら交渉していくこと、個別で合意を図り、必要に応じて書面に落としていくなど柔軟に対応しなければならない。。

・不義理をしない、やむを得ない時にも説明責任を果たす
特に取引先に対し、資金が底をつきて約束が果たせないときには、できるだけ不義理をしないことが大切である。やむを得ない場合でも、できるだけ事前に説明して、承諾は得られなくても筋を通して説明責任を果たすことが重要だ。そのような対応が、その後の再起につながることもあるので、留意しておきたい。

・お金のことはお金と仕組みで解決できる
廃業のときには、お金の問題がネックとなることが多い。基本的には契約にのっとり、誠心誠意対応していくことが必要である。法的整理や私的整理など解決するための手段は選択肢が増えており、お金の問題はお金と仕組みで解決できると割り切って、適切な専門家の助言をもらうとよいだろう。

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廃業をするときにやるべきこと

実際に廃業するときに、やるべきことについて、以下に主要項目別に整理しておく。実務ではさらに細かく対応しなければならないため、タスクリストを作って、確実に処理していくことが必要である。

1. 店舗関係

以下は、店舗となる物件を借りていたケースについて解説する。物件を所有していた場合は、売却するのかどうかを検討する必要がある。

・店舗の賃貸薬契約の解約通知
賃貸で利用していた店舗では、その賃貸契約書にのっとって、賃貸契約の解約と退去についての諸般の事項を交渉する。通常は解約の数か月前に申し出る、もしくは違約金を支払うことや、書面での解約通知を要求されるケースが大半だ。廃業の方針を決めたらまずは契約書の内容を詳細に確認した上で、すぐに家主と交渉を開始する必要がある。

・明け渡し条件の確認
契約書の条件に基づき、賃貸契約解除時に要求される明け渡しの準備をする必要がある。通常は原状回復(店舗を入居前の状態に戻すこと)が求められるため、必要な工事内容の決定と工事の手配をしなければならない。

ただし、次に入るテナントの有無や汎用性によっては、明け渡しの条件について交渉の余地もあり、柔軟に対応してくれる家主も存在する。解約申し出と合わせて、できるだけ早期に交渉して、少しでもお互いに負担の少ない形での妥結を目指すことも重要である。

・内装物の処分と退去立ち合い
賃貸物件を解約する場合、内装を原状(通常はスケルトン状態)に戻し、不用品は処分する。残置物として残す場合もあるが、その場合には高額な処分費を請求されるため、できるだけ自分で処分しておくことをすすめる。特に、飲食機材などについては、再販業者への売却なども可能であり、早めに対応しておくことが必要だ。

原状回復が完了したら、家主との退去立ち合いを経て、賃貸契約が終了となる。この退去立ち合いが終わるまでは、追加費用を請求される可能性もある。

2. 許認可関係

許認可関係の整理も重要だ。保健所、消防署、警察署への連絡は必ず行おう。

・保健所に対する廃業届の提出
飲食店を廃業する場合には、保健所に対して廃業届の提出しなければならない。廃業届の添付書類としては、営業許可を受けたときに交付された営業許可指令書またはその内容を証明する書類が必要となる。

・消防署に対する防火管理者解任届出書の提出
一定規模以上の店舗の場合、消防署に対して防火管理者解任届を提出する。廃業日が解任日となる。

・警察署に対する深夜酒類提供飲食店廃止届出書の提出、風俗営業許可証の返納
深夜営業の届け出を行っている場合には、廃止届出書の提出が必要となる。また、風俗営業許可を受けている場合には、返納理由書とともに、風俗営業許可証を返納しなければならない。

3. 取引関係

取引先ともきちんとやり取りをする必要がある。

・取引先に対する通知と精算
仕入に関する取引先に対しては、廃業を決定したらその旨の通知を行い、買掛金の精算を行う。場合によっては、廃業後の連絡先を届け出ておくことも必要である。買掛金の早期精算が難しい場合には、金融関係も含めて早期に交渉し、事後の支払い条件を決めておく。

特に、後々に再起を図る方針であるならば、取引先と良好な関係を維持しておくことが重要であり、その点について留意しておく必要がある。

・特殊な契約を締結していた場合には解約手続き
取引先と特別な契約(継続的供給に関する契約など)を締結している場合には、解約手続きが必要だが、継続的な仕入契約など、内容によっては廃業そのものの大きなハードルとなる可能性があるため、早めに交渉した方が良いだろう。

4. 税務関係

税務署へや地方自治体への届け出も必ず行おう。

・税務署への事業廃止届、給与支払事業所等の開設・移転・廃止届出書
事業所を所管している税務署に対しては、事業の廃止届と、正社員・アルバイトを雇用していた場合には、給与支払事業所の廃止届を提出する。源泉徴収した税金・住民税の支払いも忘れずに行っておく必要がある。法人を清算する場合には、清算に伴う決算の申告も行う。

・地方自治体への事業廃止の届出
都道府県・市町村に対して、事業の廃止の届け出をする必要がある。個人事業主・法人ともに必要であるが、提出書類は異なる。また、複数の都道府県にまたがって経営していた場合には、それぞれの自治体への手続きが必要となることにも留意が必要だ。

5. 社会保険

公共職業安定書へは雇用保険適用事業所廃止届、従業員の失業関係書類(雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書)を提出し、日本年金機構には「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を提出する。

6. 金融関係

金融機関への連絡は早ければ早いほど良い。

・金融機関に対する廃業関係の交渉
金融機関に対して、廃業に関する手続きをする必要がある。融資を利用していた法人の場合、内容によっては個人名義の融資への書き換えを要求されるケースもある。他のことに比べれば、時間的な優先順位は低いが、遅くなるほど金融機関は強硬姿勢になるため、一定時期からは早急な対応が必要である。

・場合によっては預金口座の住所変更届
金融機関に対する届け出住所が店舗になっている場合には、住所変更の届出が必要となる。所在不明になると金融機関の交渉姿勢が強硬となるため、忘れずに対応することが必要である。

・預金口座の整理・解約
事業用に設けていた預金口座を解約すると、その時点までの利息が支払われるので、必要がない口座であれば、解約するのも一つの手段である。ただし、その後の廃業に関して、口座が必要となることも多いので、法人を精算する場合以外は、口座は解約しないほうが望ましい。

7. その他の手続き

上記以外にも、以下のような諸般の手続きが必要となる。手続きを忘れると余分な費用がかかるため、タスクリストを作り、確実に処理しておく必要がある。

  • 電気、ガス、水道、電話の停止
  • NHK、新聞などの解約
  • 火災保険等の解約
  • その他店舗で使用していた各種契約の廃止(USENなど)
  • 法人の清算をする場合には司法書士、税理士との協議

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飲食店の廃業には誠実な対応と迅速な手続き、届け出が必要

以上、飲食店の廃業にあたって、必要な考え方と、実際に行う必要のある最低限の手続きに関して整理した。後ろ向きの対応であり、かつ、かなり多岐にわたる事項を短時間で対応する必要があるため、実行には困難な部分もあるが、必要なタスクを整理した上で、確実に処理していくことが必要である。何より、廃業した後どうするか、が最も大切であり、そこをイメージしながら進めていくことが最も大切だ。

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文・THE OWNER編集部

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