矢野経済研究所
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米中対立を背景とした政治による経済への介入に対して、経済の側から「待った」の声があがる。
21日、米EVテスラは、米中通商摩擦の中で課された中国からの輸入部品に対する課税の撤廃を求めて国際通商裁判所に提訴した。テスラはトランプ政権による経済報復措置として課された一連の関税は「違法」であると主張する。

その2日前、サンフランシスコ連邦地裁は、中国IT大手テンセントの対話アプリWeChatに対する「米国内での使用を20日付で禁止する」とした大統領令の執行を停止する仮処分を下した。米国憲法が保障する表現の自由を侵す懸念があるとの原告側の主張を認めた。
中国動画投稿アプリTikTokも「27日付で新規のダウンロードを禁止する」との大統領令の差し止め請求をワシントン連邦地裁に起こした。

内需の流出、雇用の喪失、課税逃れ、貿易赤字、不公正取引、格差の助長などグローバル経済がもたらした負の側面は各国に共通した課題である。もちろん、各国の産業政策や対外交渉の根底には安全保障という国益が含まれる。しかし、それゆえに経済的共存のための国際的なルールづくりが模索されてきたはずだ。
今、米中対立は確実にその一線を越えてきており、両国はともにその強権的な姿勢を崩さない。いずれにせよ経済という視点からは非生産的であり、合理的な企業活動を制限するものでしかない。

ただ、自国内での統制強化と近隣への権益拡大をはかる側が国際協調を主張し、自由と民主主義の盟主であったはずの側が自国第一主義をかざし国連に背を向けるという矛盾の中で、企業 はどう行動すべきか。
16日、スウェーデンのアパレルH&Mは自らの経営判断で新彊ウイグル自治区を産地とする繊維の取引を停止すると発表した。企業にとって大切にすべき価値は何か、経営理念と行動原則は一致しているか、問われているのはコーポレートアイデンティティーの在り様そのものということだ。政治からの介入は回避し難い。しかし、「鷹は飢えても穂を摘まず」、せめてこうありさえすれば “企業の社会的責任” に対するリスクは最小化できるはずである。

今週の“ひらめき”視点 9.20 – 9.24
代表取締役社長 水越 孝