日産
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英紙フィナンシャル・タイムズは2020年8月16日、日産自動車とホンダが経営統合を模索していたと報道した。2019年末に政府関係者から提案されたとのことで、両社とも事実関係についてはコメントを控えているものの、仏ルノーを筆頭株主に持つ日産の経営独立性を維持したいとする政府の思惑も見え隠れする。仮に統合が実現すれば、コロナウイルスの影響も相まって業績低迷が続く自動車業界に対して、再編の動きを投じる一手になりうるかもしれない。

このような経営統合の動きは、これまでもあらゆる業界において行われてきた歴史がある。しかし、日系企業による経営統合の議論は、得てして失敗に終わってしまうケースが多い。なぜ交渉が失敗に終わるのか、なぜ統合後の経営がうまく行かないのか。ここでは、過去の具体的な失敗事例を取り上げながら、その理由の裏にある日系企業の構造的な問題に迫りたい。

日系大手企業同士の統合や買収の失敗事例

まずは、日系企業大手の経営統合が破談、もしくは統合後に失敗に終わったケースをいくつか取り上げよう。

三越と伊勢丹の経営統合

2008年4月、百貨店業界で当時第4位だった三越と第5位だった伊勢丹が経営統合し、三越伊勢丹ホールディングスが発足した。バブル崩壊を背景に、1990年あたりをピークに業界全体が低迷していく中で生き残りをかけた統合戦略であった。

統合後、同社は不採算店の整理や基幹店の大規模な改装によるコスト再編を行ったほか、2016年以降はエステ事業や旅行代理店事業を買収するなど積極的な構造改革を試みた。しかし、業界低迷の波に逆らうことができず、業績は低迷したままだ。2020年3月期現在、3期連続の減収となっている。

両社の経営統合は、当時の業界危機を踏まえた大胆な発表であったが、消費者ニーズの激しい変化と時代の潮流に対して、十分な経営改革が行き届かなかった結果と言わざるを得ない。長期的に見れば、この統合は成功とは言えないだろう。

みずほ銀行の経営統合

かつて、日本には上場銀行および大手銀行併せて100を超える銀行が存在していた。しかし、1990年代のバブル崩壊以降、規模の経済やコスト構造改革を期待して各社とも業界再編に動き出し、現在は三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンク体制となっている。

その中で、業績回復に苦しんでいたのがみずほFGだ。2020年3月期こそ増収増益に転じたものの、昨年までは基幹システム統合の経費等もかさんだことで、競合2行と比較して低成長に喘いでいた。

統合後みずほグループは、対等合併に終始し、人材削減や店舗統合などのコストシナジーを実行できなかったという。一般的にM&Aでは、買収側が主導となってビジネスシナジーの実現やコストカット、システム統合、組織統合等を進めていくのが通例である。ところがみずほグループは、統合前の前身各社の組織や文化に手を付けず、野放しにしていた。

実際、ワンバンク体制への取り組みを明確化させた「ONE MIZUHO」の提唱が2011年で、1999年8月のみずほ銀行誕生から実に10年以上も統合が進んでいなかったことになる。これは、M&Aの成功で最も重要なフェーズの一つであるPMIの主導を、トップが怠ってしまった結果と言えるだろう。

サントリーとキリンの経営統合案 (交渉破談)

2010年2月、半年以上をかけて経営統合の話を続けてきた飲料大手のサントリーホールディングスとキリンホールディングスが、交渉決裂に至ったことを発表した。

実現すれば売上高約3兆8,000億円の世界的規模の飲料大手メーカーが誕生することになった統合案だったが、「統合比率で合意に至らなかった」や「どのような経営を行うかで両社間で認識が一致しなかった」等との理由から破談となった。

日系企業がM&Aで規模を拡大し、グローバル市場での戦いに乗り出すという大胆な戦略が、経営陣やオーナーの小さな利害対立により白紙となった。結果としてグローバル市場で存在感を未だ発揮できていない現状には、残念と言わざるを得ない。

日系企業が経営統合に失敗してしまう3つの理由

日系企業が経営統合に失敗するのは、3つの共通した理由が存在する。一つずつ見ていこう。

具現化かつ実行可能なシナジーの議論が十分にできていない

例えば、みずほ銀行の統合事例では、システムの統合や人材カット等のコストシナジーや、経営効率化のための店舗統合もまともに行われない状態が継続していた。

本来、経営統合というものは、交渉中におけるシナジー戦略の立案もさることながら、クロージングした直後からどのような施策を行って統合後の会社をまとめ上げていくのかを、現場レベルにまで落とし込んだ緻密な計画を立て、短期間で一気にやり遂げなければ成功には至らない。

統合後の実行プランが曖昧なまま時間だけが過ぎていくようなことがあれば、社内の意識を変えることができず、統合後のプランを実行することは困難になってしまう。

経営トップの経営手腕とリーダーシップの不足

サントリーとキリンの統合計画の事例では、海外市場を見ればまだまだ売上規模もシェアも遠く及ばない国内企業同士が、今後どうグローバル展開していくのかという議論がほとんどされていなかった。経営陣や株主の支配権争いという小さな議論に終始するのではなく、統合後の企業をどう成長させていくかという経営の大局的な視点を見失わないことが重要だ。

また、日系企業においては特に、経営統合後の業績に対して、経営者の経営責任の所在が曖昧である。そのため、死に物狂いで統合を完了させたにもかかわらず、グローバル競争での生き残りを賭けるという発想に至らないケースも多い。

文化の異なる2つの組織を一つにまとめるのは、ビジネス上のみならず、組織形成や管理体制においてもさまざまな問題が発生し、相当な労力と気力を要する。このような統合施策をまとめ上げるだけのトップの気概が問われるのだ。

社内におけるM&Aノウハウの蓄積不足

M&Aを得意とする海外の企業では、社長やCFOの直下にM&Aの専門部隊を設け、ノウハウやスキルの蓄積を綿密に行っている。過去のM&Aで失敗した経験も含め、プロジェクトごとの教訓を文書化しておくことで、その後のM&A案件に活かし成功率をあげることができている。

一方で日系企業の多くは、この「ノウハウを蓄積する」ということをないがしろにして、M&Aや統合計画の一切を当時のプロジェクトマネージャーのスキルに依存しているケースが多い。人材が流出してしまえばナレッジが全く残らないこととなり、これではM&Aを自社の戦略の一環として取り入れることは不可能となってしまう。

経営トップの明確なビジョンと卓越したリーダーシップが最も重要

今や日系企業大手は、グローバル市場との激しい競争下に置かれ、M&Aによる成長はますます重要な戦略となっている。経営統合や大型M&Aを成功に導くためには、複雑な取引をまとめ上げるためのトップの強力なリーダーシップこそが重要であるにもかかわらず、多くの経営者は自社のM&Aを上達させるための意識改革や組織作りに時間をかけ切れていないというのが現状だ。

国内では今後も、さまざまな領域で経営統合の機会が浮上すると予想され、直近では、ヤフーを傘下に持つZホールディングスとLINEとの経営統合が2021年3月に行われることになっている。ビジョンファンドの失敗で業績悪化に苦しむソフトバンクグループと、国内通話アプリ最大手のLINEが、混沌とするフィンテック業界をどう改革するのか、注目したい。

文・森琢麻(M&Aコンサルタント)

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