派遣切り
(画像=安琦 王/stock.adobe.com)

5月、英航空機エンジンメーカーのロールス・ロイスが、今後の大幅な市場縮小を見込んで人員削減の方針を固めていることを、英ロイター通信が報じた。コロナショックにより、このような事態が日本の製造業にもじわじわと広がりはじめている。

日本経済の代名詞ともいえる自動車産業でも、アフターコロナの需要減を見込んだ事業規模の縮小に動き出しており、かつてのリーマンショック時を思い起こすような大規模な人員削減がまさに始まろうとしている深刻な状況だ。

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製造業の「派遣切り」再びか

緊急事態宣言は解除されても、新型コロナウイルスとの闘いはまだまだ長期戦になりそうだ。自粛意識の継続や、「新しい生活様式」の定着によって、しばらくは個人消費がおおいに落ち込むことが各業界で予想されている。今後しばらくは消費が落ち込むとみられ、供給側も生産を抑えざるを得ない状況だ。

生産規模の適正化へ動き出すメーカー

コロナの影響は世界的にみても深刻だ。輸出も伸び悩むとわかっている今の状況を鑑み、製造業界では「それなりの需要に応じた体制」を整え始めている。設備投資を縮小し、生産設備や雇用人員を適正な規模に見直しを検討している企業も多い。

人員整理にあたっては、日本の法律上、お得意の「退職推奨」の手法を駆使して、事業規模のスリム化を狙うだろう。

派遣契約の「更新見送り」という手法に

また、非正規雇用が多いのも製造業界の特徴だ。人材派遣会社では、今後近いうちに、派遣労働者の雇い止めが起こるのではないかと懸念している。

このようなとき、企業はできるだけ穏便に従業員を解雇しようと模索する。今回は、リーマンショックの反省を生かして「契約途中で終了」するのではなく、「更新を見送る」、つまり“雇い止め”で対応して、できるだけ世間からの批判を避ける対策をとるとも想定される。

派遣労働者の契約期間は、「3カ月」単位であることが多い。つまり、コロナ禍が始まったからタイミングから計算すると、6月あたりがまずひとつの節目なのだ。今後しばらく需要増が見込めないとみれば、工場再開の見通しは立たず、非正規雇用の雇い止めは避けられない。

すでに始まっている製造業の「コロナ失業」

事業を縮小するため、すでに人員整理に動き始めている企業もある。

東京製綱

東京製綱は、中国生産子会社において、工場労働者を中心に希望退職者を5月に募集した。コロナショックにより生産活動を一時休止していた同社では、今後も安定した再開の見通しが立たないことから、従業員削減により事業縮小を図るという。

三菱自動車

コロナショックにより、新車の需要が世界的に減少している。事態を長期化するとみた三菱自動車では、リストラ施行が現実味をおびてきた。

三菱自動車では、コロナ禍以前より、販売不振などから生産ラインの統廃合やそれにともなう人員整理を進める考えを示していた。最近では、トヨタや日産に次ぐ規模での融資を求めており、これらを人員整理に充てる狙いもあるとみられている。

日産

日産自動車では、ゴーン氏指揮のもと過剰に膨れ上がった生産能力の削減など、構造改革のための費用が膨らみ、2020年3月期の連結決算発表では11年ぶりに赤字へ転落した。損失額は過去2番目の規模となったことをうけ、海外工場の閉鎖や、生産能力を20%削減するなど、リストラの具体性を高めている。

東芝テック

レジなどのPOSシステムを手がける東芝テックでは、新型コロナウイルスの影響で商品の需要が低迷し、今後も落ち込みが予想されることから、およそ700人のリストラをすでに発表した。同社では、収益力の回復のため、構造改革として人員を削減する方針だ。

中小企業では事業存続すら危うい状況

体力のある上場企業はなんとか事業縮小で生き残れても、その事業縮小の影響をもろに受ける中小企業や零細企業は、一段と厳しい窮地に立たされることになる。政府や自治体は、助成金や制度融資によって中小企業の支援に動いているが、手続きの煩雑さから、効果が高いとはいえない状況であり、これもまた雇用情勢を脅かすことになるだろう。

「退職割増金」で穏便にリストラ?

人員整理を進めたい企業では、雇い続けることはできないけれど、できるだけ揉め事は起こしたくない…、と考えている。そのような企業側の事情から、通常の退職金額に上乗せした「退職割増金」を用意して退職したい人を募る手法で、いわゆる“穏便なリストラ”が増えると予想される。

しかしそれは表面上の話で、実際には「希望」とはいえ退職してほしい人に企業側が退職を勧奨するというケースもあり、不本意に職を失う人も含まれているという実情も知っておきたい。

アフターコロナで雇用形態はどう変化する?

長期化するコロナ禍で、世界的に販売需要が急減していることから、今後製造業は、アフターコロナ、そしてその先の需要に見合った体制に事業規模を見直していくこととなるだろう。明らかな消費ニーズの変化にともなうビジネスモデルの抜本的な見直しも必要だ。

日本経済を支える製造業の雇用構造が大きく変わろうとしている今、経営側は人事評価基準の見直しにも迫られている。雇われる側も、「退職を勧奨」される前に、業界に必要な人材として残っていく術を検討しておきたい。

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文・THE OWNER編集部

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