中小企業の助成金・補助金とは?
中小企業の資金調達の代表的な方法は、金融機関からの借入金である。その中でも代表的なものとして、日本政策金融公庫、信用金庫、信用組合などからの借入金がよく利用される。しかし返済不要の資金調達が、これからご紹介する国や地方自治体からの助成金・補助金である。
国や地方自治体という公的機関から、しかも返済不要の資金を調達することができる点は、中小企業にとっては非常に魅力的な制度である。しかも助成金・補助金は年間数千種類もあり、役所が支給するので、4月スタートで年度ごとに予算が策定される。また、種類によっては、毎年定期的に予算計上され、その年度を逃しても、次年度に再びチャレンジできる可能性もある。
助成金・補助金は、別記事でも書いたが、税務上収益としてみなされるので、売上が立ちにくい創業期ではとても大きな収益源として使うこともできる。企業として対象となり得る助成金・補助金を有効活用することは、財務戦略として非常に有効的でインパクトのある資金調達方法である。
助成金・補助金の種類はここですべてを紹介することはできないほど数多く用意されている。しかしすべての補助金があなたの会社にフィットするわけではない。当初から助成金・補助金を貰うこと自体を目的とするのではなく、会社の成長過程で資金需要が出てきて、それをサポートする助成金・補助金が存在するというロジックの方が、申請も通りやすい。
また、助成金・補助金の交付対象は、基本的には中小企業中心であり、また業種によっては交付を受けることができないものもある。以下ではまず中小企業者の定義を明確にした上で、今回は代表的な助成金に的を絞り、その申請方法などもご紹介していく。
助成金を受け取れる中小企業の定義とは?
中小企業庁が2017年4月に発表した『2017年版中小企業白書 概要』によると、大企業は約1.1万者(社)、中小企業は約380.9万者(社)で、そのうち中規模企業が約55.7万者(社)、小規模事業者が約325.2万者(社)だった。割合では、大企業が約0.3%、中小企業が約99.7%と、我が国の企業はほとんどが中小企業であることがわかる。
また、同『2017年版中小企業白書 概要』によると、大企業と中小企業の従業員数については、おおよそ、労働人口の約70%(約3,361万人)が中小企業で働き、残りの約30%(約1,433万人)が大企業で働いているのが我が国の現状となっている。
中小企業者の要件は業種によって異なる
「中小企業者」の要件は、中小企業基本法において定められており、原則として以下の要件に該当すれば「中小企業者」に該当する。
製造業、建設業、運輸業、その他の業種の場合
資本金の額又は出資の総額:3億円以下
常時使用する従業員の数:300人以下、または個人卸売業の場合
資本金の額又は出資の総額:1億円以下
常時使用する従業員の数:100人以下の会社、または個人小売業の場合
資本金の額又は出資の総額:5千万円以下
常時使用する従業員の数:50人以下の会社、または個人サービス業の場合
資本金の額又は出資の総額:5千万円以下
常時使用する従業員の数:100人以下の会社、または個人
すべての助成金・補助金の対象が中小企業に限られるわけではないが、代表的な助成金は、基本的に中小企業のみに交付されるので、自社がその対象になっているかどうかは、最初に確認しておきたい。
中小企業の代表的な助成金3つとプログラム
助成金は、非正規社員の正社員化、高齢者、障害者、女性などの雇用促進などの雇用に関する問題の解決に取り組む事業主に対して交付されるプログラムが多い。
助成金の特徴として、
- 条件を満たせば、交付される可能性が極めて高い
- 交付は条件を満たしてからの後払い
- 交付金額は、単価や総額が予め決められている
- 申請内容は、決められた条件に合致しているかどうか事前に審査される
- 交付金額は、支出された全金額でなく、ある一定割合のみ交付されるケースの方が多い
- 交付申請の受付期間が短い
といった点が挙げられる。
特に注意すべき点は、実際の交付時期が交付決定から数ヵ月~1年半後になることもあるので、その間の資金繰りを何らかの方法で考える必要があるという点だ。お金がすぐに入金されるわけではないので、この期間は、自己資金や金融機関からの融資など、事前に手立てを考えておく必要がある。
では、助成金の代表的なプログラムをいくつか見ていこう。
雇用系の助成金には従業員の雇用を守りつつ人材を育成することを目的として次のようなものがある。
(1)事業継続のための雇用維持・調整を行う場合:雇用調整助成金
景気悪化時に経営者が考えることは、人件費の削減ではないだろうか。近年正社員だけでなく、非正規労働者(パート・アルバイト等)として雇用するケースもあるが、そのようなときに利用できるのが雇用調整助成金である。
この制度は、「景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、「労使間の協定」に基づき、従業員を解雇ではなく一時的に「雇用調整(休業・教育訓練・出向)」によって雇用を維持した場合に受給することができる助成金制度だ。
対象となる雇用調整は休業・教育訓練・出向の3つの形態である。例えば、従業員を休業等させる場合、使用者は通常休業手当等を支払う必要があるが、雇用調整助成金はその休業手当等の一部を助成する仕組みとなっている。
① 支給対象
支給の対象となるのは雇用保険に加入している事業所となる。休業や教育訓練等を行う従業員は、6ヵ月以上継続雇用している雇用保険被保険者が対象となる。
支給の対象となる「事業活動の縮小」とは以下の2つの要件を両方満たすものをいう。
(a)直近3ヵ月の生産量・売上高等の事業活動を示す指標の最近3ヵ月間の月平均値が前年同期と比べて10%以上減少していること(生産量要件)
(b)雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者の最近3ヵ月間の月平均値が、前年同期と比べ、大企業の場合は5%を超えてかつ6人以上、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上増加していないこと(雇用量要件)
② 支給期間
事業主が任意に決定した1年間のみが対象となり、再度続けて申請を行うことはできない。ただし1年間以上の「クーリング期間」(休止期間)を経れば再度申請を行うことが可能となる。
③ 受給額
中小企業の場合の受給額は以下のとおり。大企業の場合、助成率は2/3ではなく1/2と少なくなる。いずれの場合も、対象従業員1人1日あたり8,335円が上限となる。
助成率 | 期間 | |
---|---|---|
休業 | 休業手当の2/3 | 1年間で最大100日分 クーリング期間を入れて3年で最大150日分 |
教育訓練 | 賃金負担額の2/3+1200円(1人1日あたり) | |
出向 | 出向元事業主負担額の2/3(大企業は1/2) | 最長1年間の出向期間中 |
④ 雇用調整の実施について
雇用調整の実施は、労使協定に基づいたものである必要があり、労働組合がない場合には、従業員の過半数を代表する者との間で書面により協定を締結する必要がある。
【休業】
支給の対象となる「休業」とは、以下の(a)~(f)すべてを満たすものをいう。
(a)労使間の協定によるものであること
(b)事業主が自ら指定した対象期間内(1年間)に行われるものであること
(c)判定基礎期間における対象労働者に係る休業又は教育訓練の実施日の延日数が、対象労働者に係る
所定労働延日数の (大企業の場合は )以上となるものであること(休業等規模要件)。
(d)休業手当の支払いが労働基準法第26条の規定に違反していないもの(休業手当の額は平均賃金の6割以上とする必要がある)
(e)所定労働日の所定労働時間内において実施されるものであること
(f)所定労働日の全1日にわたるもの、または所定労働時間内に当該事業所における対象労働者全員について一斉に1時間以上行われるもの(短時間休業)であること
【教育訓練】
支給の対象となる「教育訓練」とは、職業に関する知識、技能または技術を習得させ、または向上させることを目的とする教育、訓練、講習等であって、所定労働日の所定労働時間内に実施され、かつ、当該教育、訓練、講習等を受講する労働者が当該所定労働日の全一日にわたり業務に就かないものをいう。
対象となる教育訓練は、職業の知識・技能・技術の習得および向上を目的とした実践的なものでなければならない。
事業所内において内部講師を利用するか、職業訓練支援センター等の外部教育訓練機関に実施を委託する場合も支給対象となる。
教育訓練は所定労働時間内に実施し、受講者は受講日に業務に就くことはできない。終了後、受講者はレポートを提出する必要がある。
【出向】
対象となる「出向」とは、労働者が事業所の従業員たる地位を保有しつつ、他の事業主の事業所において勤務すること又は将来出向元事業所に復帰することその他の人事上のつながりを持ちながら、一旦出向元事業所を退職して、出向先事業所において勤務することをいう。
雇用調整を目的とした出向は、雇用調整助成金の対象となる。3ヵ月以上1年以内に元の事業所に復帰することが交付対象の条件となる。
【手続きの流れ】
受給の手続きは以下の流れによる。
① 雇用調整の計画を立てる
② 計画届を提出する
③ 雇用調整を実施する
④ 支給申請をする
⑤ 労働局における審査・支給決定
⑥ 支給額の振込
なお、②および③で必要な書類は、休業・教育訓練・出向の場合でそれぞれ異なるので、事前に確認して準備する必要がある。
(2)高齢者を雇用する場合:特定求職者雇用開発助成金
近年の人手不足や高齢者の働き場所を確保するために準備された特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)は、雇い入れ日の満年齢が65歳以上の離職者をハローワーク等の紹介により、一年以上継続して雇用することが確実な労働者(雇用保険の高年齢被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成される。
① 支給対象
支給の対象となるのは雇用保険の適用事業所で、対象労働者をハローワークなどからの紹介により、雇用保険の高年齢被保険者を1年以上継続して雇用することが確実である事業主であること、等が支給対象の条件となる。
② 支給期間
原則として、対象労働者の雇い入れ日から起算して1年間のみが対象となる。
③ 受給額
支給対象者 | 支給金額 | 期間 | |
---|---|---|---|
短時間労働者以外の者 | 大企業 | 60万円 | 1年間 |
中小企業 | 70万円 | ||
短時間労働者 | 大企業 | 40万円 | |
中小企業 | 50万円 |
※「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満である者をいう。
※上記支給金額は上限であり、実際は対象者に支払った金額までとなる。
その他代表的な雇用関係の助成金を以下に挙げておこう。
(3)従業員を雇用する場合:トライアル雇用奨励金
職業経験、技能、知識等から安定的な就職が困難な求職者について、ハローワークや職業紹介事業者等の紹介により、一定期間試行雇用した場合に助成される。
目的は、上記の求職者の適性や業務遂行可能性を見極め、求職者および求人者の相互理解を促進すること等を通じて、その早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることにある。
(4)育休、介護など家庭の事情で仕事から離れる従業員がいる場合に利用できる制度:両立支援等助成金
「両立支援等助成金」とは、従業員に対して職業生活と家庭生活の両立支援や女性の活躍推進の支援をおこなった事業主に対して支給される助成金である。
両立支援等助成金には大きく分けて、以下のコースがある。
出生時両立支援コース
男性が育児休業や育児目的休暇を取得しやすい職場づくりに取り組み、男性の育児休業や育児目的休暇の利用者が出た事業主に支給される。介護離職防止支援コース
「介護支援プラン」を作成し、プランに基づいて介護休業の円滑な取得・職場復帰に取り組んだ、または介護のための柔軟な就労形態の制度(介護両立支援制度)を導入し、利用者が出た中小企業事業主に支給される。育児休業等支援コース
「育休復帰支援プラン」を作成し、プランに基づいて労働者が育児休業を円滑に取得、職場復帰した場合に中小企業事業主に支給される。再雇用者評価処遇コース
妊娠、出産、育児、介護または配偶者の転勤等(配偶者の転居を伴う転職も含む)を理由として退職した者が、就業が可能になったときに復職でき、適切に評価され、配置・処遇される再雇用制度を導入し、かつ、希望する者を採用した事業主に支給される。
(5)キャリアアップや人材育成する場合:キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者(有期契約労働者等)の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成される。
キャリアアップ助成金には大きく分けて、以下のコースがある。
正社員化コース
有期契約労働者等を正規社員に転換または直接雇用した場合に助成される。賃金規定等改定コース
有期契約労働者等の賃金規定等を改定した場合に助成される。健康診断制度コース
有期契約労働者等者に対し、労働安全衛生法上義務づけられている健康診断以外の一定の健康診断制度を新たに規定し、適用した場合に助成される。賃金規定等共通化コース
有期契約労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに設け、適用した場合に助成される。選択的適用拡大導入時処遇改善コース
労使合意に基づき社会保険の適用拡大の措置を講じ、新たに被保険者とした有期契約労働者等の基本給を増額した場合に助成される。短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し、当該労働者が新たに社会保険適用となった場合に助成される。また、短時間労働者の週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長し、当該労働者が新たに社会保険適用となった場合も、労働者の手取り収入が減少しないように賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースと併せて実施することで一定額が助成される。
これらのコースは1つのみに申請するだけでなく、各コースの条件に該当すれば複数のコースに申請することも可能だ。
助成金を受けるときの注意点 要件を満たしているかは入念に確認しよう
以上、助成金の概要とその代表例を挙げたが、いずれも申請をする場合、かなり手間がかかり、対費用効果を考える必要がある。また、これらの助成金に共通するのは、助成金のどの種類に対象になるかを見極めるのに手間がかかる点だ。
ある程度まとまった金額が助成されると判断できる場合は、対費用効果を見極めた上で、助成金申請に慣れた社会保険労務士などに依頼することも考慮に入れながら進めていくべきだろう。
また、労働者の雇用を考える際、実際に雇用開始する前に受給できる助成金があるかどうかを確認することが大切だ。雇用した後に対象となる助成金を貰うために申請しても難しいケースが多い。その一例として、求人を出す場合、ハローワーク経由で雇用をしないと交付されない助成金も存在する(前述の特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用奨励金など)。
上記でご紹介した助成金は厚生労働省が管轄している雇用保険二事業(雇用安定事業・能力開発事業)や労災保険料を原資としている。労働基準法、雇用保険法、労働者災害補償保険法などの法令を遵守している企業でなければ助成金は原則受給できない。また、助成金を受けた事業所には、行政機関が必要と判断した場合、受給後、法令を遵守しているか等の調査が入る場合もあるので、不正に受給することはリスクを伴うことは言うまでもない。
また今回は、雇用関係の助成金中心に紹介してきたが、経済産業省などが主導する数多くの補助金も存在する。こちらは上手に使えば交付される金額も大きいケースがある。
助成金・補助金とも獲得を思い立ったら事前準備が大切だ。常にアンテナを張り、書類作成などの準備を行っておくことでスムーズな申請が可能となる。最新の条件と詳細は、厚生労働省助成金HPでご確認いただきたい。
文・中村伸一