企業,社員,不当解雇
(画像=PIXTA)

企業経営で重要な項目に、リソースの問題がある。経営が順調なときはリソースが必要であり、経営が不振のときはリソースを削らなければならない。新規事業を運営していくためには、新たなるスキルと能力のあるリソースが必要となり、生産性のない事業から撤退する場合は、その事業に長けたスキルと能力のあるリソースであったとしても必要がなくなる。

会社経営の中では、リストラを視野に入れなければならない場面が出てくるが、外資系企業と比べ、日本企業はリストラできないといわれている。従業員にとってリストラは、不当解雇と感じることが多いのが現実だ。裁判で会社側が慰謝料などの支払を命じられることもある。そのため、経営者はリストラが不当解雇とならないポイントを理解しておく必要があるのだ。

目次

  1. 「リストラできない」では済まされない日本企業の現状
  2. リストラの定義
  3. 退職勧奨とは
  4. リストラに踏み切れない?不当解雇に当たる4つの場合
    1. 会社の経営不振
    2. 従業員の病気・ケガ
    3. 業務態度
    4. 能力不足
  5. 企業がリストラできる4つの要件
    1. 1. リストラの必要性
    2. 2. 解雇回避努力義務の履行
    3. 3. リストラと被解雇者選定の合理性
    4. 4. 手続きの妥当性の説明、協議
  6. 従業員を解雇するときに気をつけたい5つのポイント
    1. 1. 法律で決められた禁止事項を犯さない
    2. 2. 法律で義務付けられた解雇予告を行う
    3. 3. 就業規則の解雇事由に該当すること
    4. 4. 正当の理由がある解雇であること
    5. 5. 手順を守る
  7. リストラしづらい場合はどうすればいい?
  8. 従業員のリストラは簡単な理由ではできない

「リストラできない」では済まされない日本企業の現状

日本企業において人事制度の主流とされていた終身雇用、年功序列、労働組合は、高度経済成長時には維持が可能であったが、近年の社会環境の中では維持が難しい。終身雇用、年功序列、労働組合は、企業がリストラできない要因でもある。

終身雇用についてインパクトがあったのが、下記に引用した経団連会長が2019年5月7日に定期記者会見で発言した内容だ。

“働き手の就労期間の延長が見込まれる中で、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している。そこで、経営層も従業員も、職種転換に取り組み、社内外での活躍の場を模索して就労の継続に努めている。利益が上がらない事業で無理に雇用維持することは、従業員にとっても不幸であり、早く踏ん切りをつけて、今とは違うビジネスに挑戦することが重要である”

引用元:2019年5月7日 定例記者会見における中西会長発言要旨(一般社団法人 日本経済団体連合会)

2019年に明らかになった大手企業のリストラ発表の一部を列記すると、次の通りだ。

  • 2019年7月25日、日産自動車は効率化に向けて2022年までに1万2,500人規模の人員削減を実施する方針を発表。
  • みずほ証券は2020年1月に50歳以上の社員を対象とした早期退職制度を設ける。
  • 損保ジャパン日本興亜は、2020年度末までに、従業員数を2017年と比べ全従業員の15%にあたる4,000人減らす方針。

大手企業において、2020年にかけて大規模なリストラが計画されている。企業を取り巻く社会環境は、中小企業も同様である。現実的に目にする情報から想定すると、「リストラできない」では済まされない日本企業の厳しい現状が浮き彫りになるであろう。

リストラの定義

企業が不況や経営不振などの理由により従業員を解雇せざるを得ない場合に、人員削減のために行う解雇をリストラ(整理解雇)という。

リストラは英語のリストラクチャリングの略称で、本来は企業が置かれている景気や環境の変化、国際化に適応して企業経営を再構築することを指すものだ。具体的には、不採算部門からの撤退や縮小、有望な事業への経営手段を集中させるための合併や事業の売却、従業員の人員削減を手段として実行する。

しかし、リストラは日本語で「整理解雇」「人員削減」「雇用調整」「経費節減」といった意味で使われることが多い。

退職勧奨とは

退職勧奨とは、企業が従業員に対し、退職を勧めることをいう。退職勧奨は、企業が従業員に解雇を通知する解雇予告とは異なる。しかし、退職勧奨を受けた従業員は、いわゆる「肩たたき」と捉えるケースが多く、実際には人員削減や雇用調整を目的に、リストラと同様に実施される。

退職勧奨に応じるかどうかは従業員の自由意志とされ、使用者が自由意志を妨げることは違法な権利侵害にあたるとされる場合がある。退職勧奨に応じて退職した従業員は、会社都合退職とする。

リストラに踏み切れない?不当解雇に当たる4つの場合

企業がリストラに踏み切れない理由に、不当解雇となる可能性が考えられる。確かに、従業員を解雇するケースで裁判所に不当解雇と判断されてしまうと、高額の支払を命じられることもあり、リスクが高い。どのような場合に不当解雇と判断される可能性があるのか、代表的な例を挙げていこう。

会社の経営不振

・企業が従業員や労働組合と十分に協議を行わず解雇した場合

・企業存続のため、人員削減の必要性があるとしてリストラしながら新規採用をしていた場合

従業員の病気・ケガ

・復職の可能性がある従業員の休職を認めず解雇した場合

・従業員に対し医師が復職可能と判断したのに無視して休職を認めず解雇した場合

業務態度

・遅刻や欠席が多い従業員に対し会社が指導を行わず解雇した場合

・従業員を退職に追い込むような業務命令を行った場合

能力不足

・企業が従業員に十分な指導や教育をしないで能力不足を理由で解雇した場合

・正当な評価を実施せず不合理な低評価を理由に解雇した場合

企業がリストラできる4つの要件

企業がリストラをするときには、社会通念上、客観的に見て合理的な理由が必要だ。さらにリストラを実施するには、従業員の納得を得られるような手続きの妥当性も重要になる。具体的には、次の4つの要件を満たさなければならない。

1. リストラの必要性

会社の維持存続のためにはリストラによる従業員の人員削減が必要とされ、最も有効な手段であること。企業が経営不振に陥っていることが客観的に見て明白であり、リストラ以外に解決策が見つからない場合などがこれにあたる。

2. 解雇回避努力義務の履行

企業が経営不振に陥っていることが客観的に見て明白であっても、リストラを回避するための努力を履行する義務がある。具体的には、「従業員の配置転換・出向・転籍」「新規採用の中止」「希望退職者の募集」などがある。

3. リストラと被解雇者選定の合理性

リストラは合理的に運用され、リストラの対象となる従業員を選定する基準も合理的かつ公平であることが必要だ。

4. 手続きの妥当性の説明、協議

リストラの必要性や時期、運用などの手続きの妥当性について、十分に説明して納得を得るように努力しなければならない。労働協約に解雇協議条項や解雇同意条項などがある場合はそれに従う。

従業員を解雇するときに気をつけたい5つのポイント

リストラに限らず、従業員を解雇するときには十分な注意が必要だ。労働基準法・労働契約法では、客観的な理由を欠いて社会通念上相当であると認められない場合、企業が権利を乱用したとして解雇は無効とされる。

一方で、問題のある従業員は従業員側に責任があることが客観的に証明できるケースがあり、合法的に解雇できる可能性がある。ここでは、解雇が有効とされるために気をつけたい基本的な5つのポイントを紹介する。

1. 法律で決められた禁止事項を犯さない

第一のポイントは、法を犯さないことだ。厚生労働省が労働契約終了のルールとして法律で解雇が禁止されている主なものをまとめているので、下記に引用しておく。

“<労働基準法>
業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇

<労働組合法>
労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇

<男女雇用機会均等法>
労働者の性別を理由とする解雇
女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇

<育児・介護休業法>
労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇”

引用元:厚生労働省 労働契約終了のルール

2. 法律で義務付けられた解雇予告を行う

従業員を解雇するときには、予告解雇として、原則少なくとも30日以上前に解雇の予告(通知)することが、労働基準法第20条で義務付けられている。

ただし、予告解雇ができない場合は、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払うか、30日に満たない解雇予告の満たさない日数分以上の平均給与を支払うことで労働基準法違反にはならない。

3. 就業規則の解雇事由に該当すること

従業員が10名以上いる企業であれば、就業規則を作成して労働基準監督署に届出をしているはずだ。就業規則には、解雇事由が記載されている。まずは、自社の就業規則に解雇事由が具体的に記載されていることが重要だが、従業員の解雇にあたっては、修行規則の解雇事由に該当しなければならない。

4. 正当の理由がある解雇であること

正当の理由がある解雇であることは、法を犯さないために必須だ。ただし、解雇にあたり重大な理由がある懲戒解雇を除く普通解雇の場合、解雇の理由は就業規則に記載された「勤務成績の不良」「勤務の怠慢」「協調性の欠如」などのように、解雇する基準が明確には示せないケースが多いのが現実だ。最終的には、客観的な理由があり、社会通念上相当であるかどうかの判断は裁判所の判断になることも理解しておく必要がある。

5. 手順を守る

解雇をするときには手順を守ることが必要だ。長い期間トラブルやミスを起こしてきた問題社員を解雇する場合でも、突然解雇することは避けなければならない。手順とは、注意・指導である。書面で記録を残しながら、証拠として残す必要もある。

注意・指導を行っても改善しない場合は、就業規則上の減給などの懲戒処分を行い、改善ができない場合は解雇もあり得ることを懲戒処分通知書に記載する。ここまで実施しても改善が見られない場合に、解雇を検討するのである。

リストラしづらい場合はどうすればいい?

日本の中小企業は家族や親族とともに事業を運営しているケースが多く、従業員とも家族同様に企業経営を続けてきた経営者も多い。

リストラしづらい場合の解決策にひとつに、M&Aがある。ネガティブな印象で考えられてきたM&Aだが、最近ではポジティブな事業承継プランとして捉えられている。優良企業に会社を引き継ぐことで従業員は雇用を確保し、経営者は保有株式を売却することで資金を得ることができるのだ。

従業員のリストラは簡単な理由ではできない

従業員は合理的な理由があれば解雇できる。ただし、この合理的な理由は個々のケースで判断される。解雇に客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は、解雇権の濫用として無効となる。「従業員のリストラは簡単な理由ではできない」と理解しておくといいだろう。

文・小塚信夫(ビジネスライター)

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