高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)

目次

  1. 医療機関に勤めていても、自身の父親の介護が出来なかった後悔から退職 自ら法人を設立し家事代行から高齢者福祉事業をスタート
  2. 介護報酬請求システムは早期に導入 介護スタッフへの資格取得支援も行い、手探りの中で介護保険制度に応じた基盤整備が進む
  3. インターネットが普及してホームページも積極的に活用 データのセキュリティーと利便性を確保するため、NASを導入
  4. 音声入力による議事録の自動作成など、ICTを活用して働きやすい職場環境を構築し、利用者に対して最高のケアを提供していきたい
  5. 老年期・終末期を迎える人に、介護や医療では対応できない「暮らしの困りごと」を支援する「よりそいの会」を設立
  6. 誰でも最後はひとり。だからこそ、住み慣れた地域で家族のように相談でき、頼れる存在を目指したい
中小企業応援サイト 編集部
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超高齢化社会を迎えて介護や医療の支援以外に最近注目されているのが、入院時の保証人や看取り、葬儀や各種解約など、独居高齢者などの暮らしを生前から死後まで支える事業だ。今回の事例では、介護保険制度創始期から時代の変化に応じて取り組んできた代表と、ICTを駆使して基盤整備を進めた代表の息子である専務。高齢者が安心して人生の終末期を迎えられる新たな試みを紹介する。(TOP写真:デイサービス「ほほえみ倶楽部」でのレクリエーション風景)

医療機関に勤めていても、自身の父親の介護が出来なかった後悔から退職 自ら法人を設立し家事代行から高齢者福祉事業をスタート

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
50歳の時、父親の介護のために29年勤めた医療機関を退職し、「ほほえみ倶楽部」を設立した同社代表取締役の松岡美代子氏

栃木県南部の小山市に本社を置く株式会社ほほえみ倶楽部はデイサービス、訪問介護、居宅介護支援事業、家事代行などの高齢者福祉事業を手がける法人だ。代表取締役の松岡美代子氏が法人を設立したのは2003年。起業のきっかけは父親の介護だったという。

「当時医療機関で事務職に従事していたのですが、自分が病院にいるにもかかわらず、父の介護ができなかったという後悔を抱いていました。そこで、父と同じような人の力になりたいという想いから退職したのです」。松岡代表は29年間勤めた職場を辞して自ら会社を立ち上げ、まずは家事代行業を開始した。地域の高齢者からのニーズは思いのほか高く、病院への付き添いなどさまざまな依頼に応じるうちに仕事の幅が広がっていった。そして、創業の3年前(2000年)に介護保険制度が創設されたこともあり、同時期に訪問介護もスタート。同社は制度に合わせて事業の仕組みを整えていった。一方で、介護保険制度に則って運営する以上、資格保持者も必要だ。そこで、松岡代表は家事代行のスタッフで資格取得希望者のために学びの場を提供し、資格取得に必要な費用も支援した。

そして2004年にはデイサービスを開設した同社。利用してもらうには地域への認知度を高める必要があった。そこで松岡代表が考えたのが、高齢者に喜んでもらうことだった。松岡代表は自ら南京玉すだれや腹話術といった演芸を学び、地域の高齢者施設でたびたび披露してきたという。その行動力とバイタリティーには感服する限りだ。

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
事業を軌道に乗せるためには地域への認知度向上が大切だ。松岡代表は地域の高齢者施設を慰問に訪れ、南京玉すだれや腹話術を披露してきた

介護報酬請求システムは早期に導入 介護スタッフへの資格取得支援も行い、手探りの中で介護保険制度に応じた基盤整備が進む

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
前職を退職し、法人設立後まもなく入社した松岡正樹専務。松岡代表を実務面で長年支えてきた

法人設立からまもなく、松岡代表にとって心強い人材が入社した。息子であり、現在専務を務める松岡正樹氏だ。松岡専務は松岡代表の構想を実現し、運営を円滑に進める実務部隊的な存在である。現在同社の運営を円滑に進めていくための基盤整備、とりわけICTのソリューション導入については松岡専務が情報収集し積極的に進めてきた。

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
法人設立当初は手作業で行っていた介護報酬請求業務だが、残業や作業負担の過大さから早期に支援システムを導入。現在、残業はほぼなくなったという

地域の要請に応じて同社の事業所は増え続け、一時は13拠点を数えるほどになっていた。そこで必要となったのが、介護報酬請求業務の効率化だった。同社では数百人を超える利用者の請求業務を当初は手作業で算出・請求しており、事務スタッフ2人の負担は相当大きかったという。そこで松岡専務は会社設立からまもなく介護報酬請求システムを導入した。「毎月1日から10日までの期間は請求作業のために多忙で残業も生じていました。しかも、記載ミスが生じると県への取り下げ申請など、修正作業が煩雑で大変な作業です。でも、このシステムを入れてからは残業がほぼなくなりましたね」(松岡専務)

その一方で、利用者へのサービス提供内容や健康状態などの介護記録に関しては、カーボン複写式の用紙に手書きで記入しているという。「介護記録に関してもデジタル化は進めたいとは思いますが、高齢の介護スタッフが多いので、“手書きの方が楽”という声が多く、今のところは紙ベースになっています」と話す松岡専務。状況を見ながら、デジタル化への移行を進めたい意向だ。

インターネットが普及してホームページも積極的に活用 データのセキュリティーと利便性を確保するため、NASを導入

同社の事業が進展した2000年代はインターネットの普及が大きく進んだ時期とも重なる。同社では職員の確保や利用者の家族に向けた情報発信のツールとして、これまで以上にホームページを活用したいと考えていた。しかし、現状のホームページの更新は、業者に修正依頼してからタイムラグが生じてしまうことがネックになっていた。そこで2013年にブログ形式のホームページに移行し、職員が施設の活動のようすやお知らせなどをタイムリーに発信できるようにした。その結果、ホームページの求人募集を見た人の応募もあり、採用が実現したそうだ。一方で利用者についても、遠方で暮らす家族からの問い合わせが最近増えているという。

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
デイサービスでの食事風景。家庭と同じように食器に陶器を使えるのも、少人数の定員だからこそ実現できるメリット。アットホームで質の高い介護の実践を心がけている

また、各事業所合わせて利用者400人あまりの個人情報の管理をインターネット回線を通じて行うことから、情報のセキュリティー対策を講じる必要があると松岡専務は感じていた。折しも、新型コロナウイルス感染症が拡大してテレワークが推奨されたこともあり、同社のケアマネジャーもテレワークを2020年から開始していた。そこで同社ではネットワーク経由でデータを共有できるNASを2021年に導入してデータを保管し、出先からも利用者情報に安全にアクセスできるようにした。

「安心できることで精神的に楽になりました。以前はデータをUSBメモリで保管していたのですが、これ自体を失くす可能性や、持ち去りの危険性を回避するためにも、NASにデータを保管する体制を構築できてよかったです。これで別の仕事に安心して集中できます」と松岡専務は導入のメリットを実感している。

音声入力による議事録の自動作成など、ICTを活用して働きやすい職場環境を構築し、利用者に対して最高のケアを提供していきたい

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
各種書類は複合機でスキャンし、電子データとしてNASに保管される

コロナ禍以降飛躍的に進んだ同社のICT活用だが、さらに松岡専務は生成AIや音声入力を活用したソリューションによる、業務効率の向上にも関心を寄せる。「ケアマネジャーが多職種の方々とサービス利用会議を実施する際に、話している内容を音声入力できるソフトを取り入れたいですね。音声データから議事内容を自動的に文字起こしできれば、事務所に戻ってからまとめ直しをする手間も省けます。AIが要点を的確にまとめてくれるようですし、介護の専門用語の変換に対応しているものもあるそうです」(松岡専務)

さらに、これまでは自社の各種チラシを自前で作成していたが、今後はAIによるチラシ作成サービスを利用してみたいと意欲的だ。

老年期・終末期を迎える人に、介護や医療では対応できない「暮らしの困りごと」を支援する「よりそいの会」を設立

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
デイサービス「ほほえみ倶楽部」外観。一軒家のような温かみのある建物だ

介護保険制度の進展とともに歩んできた同社だが、超高齢化社会を迎える中、松岡代表は現場の声から新たなニーズを感じ取っていた。「地域の高齢者施設の施設長さんやケアマネジャー、病院から、身寄りがなく保証人がいなくて入居ができない方のご相談を受けることが増えたので、うちで支援ができないかと検討しました」(松岡代表)

そこで同社が2022年に『一般社団法人よりそいの会』を設立して立ち上げたのが『よりそいの会』である。同社は以前から事業の中で生前整理や福祉整理(福祉・介護施設入居前に必要な自宅の片付けなど)、遺品整理を実施していたが、この「よりそいの会」は身寄りのない契約者に対し、入院や高齢者施設入居時の「身元保証」をはじめ、ケガや病気の際の病院への付き添い、家事や書類作成などを行う「生活支援」、亡くなったあとの「葬送支援」や遺品整理・各種契約解約などの「死後事務」までをワンストップで手がけている。また、金銭の預託が生じることから、同会では契約者が選定した弁護士の管理のもとに契約を行い、3ヶ月に一回は使用実績を弁護士と契約者に報告することを定めている。「コンサルタントを入れて1年ぐらい仕組みを練り上げました。まだ世の中では、保証人サービスに不信感を持つ方もいらっしゃいますから、弁護士の方と契約者様と私どもの三者契約にすることで信頼を担保することにしました」(松岡代表)

人が亡くなると、年金や携帯電話、カード会社など、生前契約していた各種サービスの解約をはじめ、不動産の処分などが発生する。そのため、利用者とは多岐にわたる確認作業を事前に実施する。

誰でも最後はひとり。だからこそ、住み慣れた地域で家族のように相談でき、頼れる存在を目指したい

高齢者の終末期を支えるために様々な挑戦をする母を、ICTなどの実務で支える息子とスタッフ ほほえみ倶楽部(栃木県)
利用者が増えているため、今後はより一層「よりそいの会」に力を入れていきたいと語る松岡代表と松岡専務

「よりそいの会」の利用者の多くは70代後半から80代が占めており、当初は親戚が遠方にいる独居の人や、高齢夫婦の利用が多かったそうだが、最近では病気を抱えた50代の利用者もいるという。

ケアマネジャーとは月に1回情報交換を行い、支援体制を整えていると話す松岡代表。利用者が増えているため、支援スタッフの増員も必要だという。「遠方にご家族がお住まいの方や、余命の短いご病気の方、おひとり暮らしの方もいらっしゃいます。だからこそ、何かあったら頼める人、信頼できる人がお住まいの地域にいれば安心できると思います。ご入会いただいた方には、私どもを家族のように思っていただけるよう心がけています」と続ける松岡代表。家族だけでは支えきれない超高齢化時代において、誰もが安心して過ごせる人生を送るために、同社の取り組みは希望の光となるだろう。

企業概要

法人名株式会社ほほえみ倶楽部
住所栃木県小山市乙女3-27-31
HPhttps://mk-hc.jp
電話0285-41-5500
設立2003年6月
従業員数80人
事業内容 訪問介護、通所支援(デイサービス)、居宅介護支援事業、家事代行