矢野経済研究所
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8月5日、ジュネーブで国連環境計画(UNEP)の政府間交渉(INC5.2)が始まった。2022年、国連環境総会は廃プラスチックによる環境汚染を防ぐための国際条約を制定することを決議した。しかし、期限とされた昨年末の釜山会議(INC5.1)では生産規制を巡ってEU、アフリカ、島しょ国と産油国やインド、ロシアなどが対立、結果、結論は先送りされた。今回の会議は言わばその「延長戦」、14日までの日程で170を越える国と地域が参加、実効性の高い国際ルールの成立を目指す。

経済協力開発機構(OECD)によると「世界のプラスチック生産4億6000万トンのうち2200万トンが環境へ流出している」(2019)とされ、国連海洋会議は海洋への年間流出量を500-1200万トンと推計、「2040年までに2倍~3倍に拡大する」と予測する。世界経済フォーラムも「現在のペースが続けば2050年には海洋プラスチックごみは魚の総量を上回る」と警告する(2016)。自然分解されず、海中で砂粒となったマイクロプラスチックはPCBやダイオキシンなど有機汚染物質を取り込み易く、食物連鎖を通じて人類を含む生態系や生物多様性に重大な影響を与える。対策は喫緊の課題である。

日本は2019年にプラスチック資源循環戦略を策定、その翌年からレジ袋有料化をスタートさせた。廃プラスチック全体からみると2%程度に過ぎない施策の有効性に対する疑問や綿製マイバッグや紙袋などについては「一定回数以上使用しないと環境負荷はむしろ大きい」との指摘もなされた。単なる“政治的パフォーマンス”との批判もあった。とは言え、日本ポリオレフィン工業組合加盟132社のレジ袋出荷量は半減、需要増が懸念された家庭用ごみ袋は横ばいで推移した。そもそもの施策目的が“意識改革”と行動変容であったことも鑑みると一定の社会的成果を達成できたと評価してよいだろう。

対立解消のハードルは高い。一方、業界からも声があがる。6月、コカ・コーラ、キリン、ユニリーバ、3Mなどプラスチックのバリューチェーンに関わる企業、金融機関、NPOなど290社・団体以上が参加する国際プラスチック条約企業連合は「法的拘束力のある調和の取れたルールを基盤とすることが経済活動にとっても有益」と声明、「グローバルな水平リサイクルにより2040年には世界の再生素材利用率を77%高めることができる」と提言した。あらゆる生命の根源的な生存環境を守ることに異論はあるまい。INC5.2の成果に期待したい。

今週の“ひらめき”視点 8.3 – 8.7
代表取締役社長 水越 孝