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目次

  1. 産業の基盤を支えるコンプレッサー 点検・整備作業にミスは許されない
  2. 何百もの部品を一つひとつチェックして整備し、納期内に終える それが信用の源
  3. 中国・四国地方でIHIのコンプレッサー、デカンター整備を受注 出張作業中心の勤務形態
  4. 出張先でスマートフォンから出退勤を打刻。勤務時間の管理も容易で、時間外労働を減らすのに役立っている
  5. 顧客とのWeb会議、データ共有、チャットなどを活用し、紙データをなくしてスピードアップ
  6. 出張旅費、出張先で購入した資材費などはスマートフォンの経費精算アプリに入力、現金の手渡しはほぼなくなった
  7. 人材確保へ向けて、新ホームページ作成 「我が社の魅力をわかりやすくアピールしたい」
中小企業応援サイト 編集部
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コンプレッサー(空気圧縮機)は様々な製造業のプロセス用途から一般的な空圧機器の作動用に至るまで多くの工程で使用され、「ものづくり日本」を陰で支えている。岡山県西部に本社を置く有限会社西備サービスは、中国・四国地方を中心にコンプレッサーとデカンター(遠心分離機)の安定稼働を支えるメンテナンス(点検・整備)工事を担っている。分解から再組み立てまで、現場作業は目と手で機械と向き合う世界だが、勤怠管理・会計分野などにICTを導入、ネットワークを活用しながら労働環境の改善を進めている。(TOP写真:ダイヤルゲージによる摺動(しゅうどう)部の摩耗検査。100分の1ミリまでチェックする)

産業の基盤を支えるコンプレッサー 点検・整備作業にミスは許されない

工場の床には細かく分解された部品が並べられ点検・整備を待っている
工場の床には細かく分解された部品が並べられ点検・整備を待っている

岡山県小田郡矢掛町にある西備サービスを訪ねると、ちょうど隣接の自社工場で窒素製造会社のコンプレッサーを点検・整備しているところだった。

現地工場で作業スペースを確保できないため、総重量約10トンの機械を1トン程度の重さに分解し、現地工場の屋根の一部を取り外してクレーンでつり上げて運んできたという。自社工場の床には細かく分解した部品が整然と並べられ、従業員4人が各部品の点検に取り組んでいた。各部の汚れを落とし、ダイヤルゲージで摺動部の摩耗を100分の1ミリ(0.01mm)単位で測定。別の場所では浸透液を使って微細な表面の割れなどを検出する探傷検査をしていた。

「とくに回転体を支える軸受や高速で回転するインペラの羽根部分は細心の注意が必要です。1分間に約3万回転するので、ちょっとしたミスがあれば振動が発生し、コンプレッサーが運転出来なかったり、一瞬で壊れることもあります」。西備サービスに45年間勤め、現在は非常勤で若手従業員に技術伝承をしている藤井憲師さんが教えてくれた。コンプレッサーは接続された機器に圧縮空気を送り込み、さまざまな用途としてとして稼働している。この窒素製造会社では圧縮した空気から窒素ガスを分離精製することで高純度窒素を取り出し、半導体製造工場へパイプで圧送している。

何百もの部品を一つひとつチェックして整備し、納期内に終える それが信用の源

「きちんと納期内に仕上げることで信用を得てきた」と話す浅田社長
「きちんと納期内に仕上げることで信用を得てきた」と話す浅田社長

「今でも整備した後、機械を運転する瞬間は緊張しますよ。機械は動き出しの時が一番リスクが高いのです」。こう話すのは浅田祐司代表取締役だ。浅田社長は今も現場に出ている。

メンテナンス作業はいくつもの工程からなる。①分解、②磨き(汚れ取り)、③部品の欠陥チェック、④隙間が拡がっていないか摩耗チェック、⑤塗装、⑥組み立て、⑦駆動用モーターとコンプレッサーの軸の中心位置を合わせる芯出しなど。これらをすべてクリアできたら、機器の電源投入となる。部品は何百にもなり、整備はボルト1本1本に至るまで一つひとつチェックしていく。人の目と手が頼りだ。「機械ごとに設置環境や使用環境が違い、クセもある。それを見極めながら整備する。そして、それを決められた納期までに終えるというのがもう一つの重要なミッションです」と浅田社長。稼働中の工場から機械から取り外して作業するので、工事の遅れは顧客の製造ラインに直接影響する。この時、整備していたコンプレッサーの場合、点検・整備作業中は顧客の窒素製造会社がタンクローリーで窒素を運びこみ取引先の半導体製造工場へ供給しているという。「ミスが許されない工事を制限期間内に行う。これを長年着実に行ってきたことが我が社の信用につながっています」と浅田社長が力を込めた。

中国・四国地方でIHIのコンプレッサー、デカンター整備を受注 出張作業中心の勤務形態

藤井憲師さん(右)と話す浅田社長。「この部品の点検結果は良好です」
藤井憲師さん(右)と話す浅田社長。「この部品の点検結果は良好です」

西備サービスは、浅田社長の父、昭夫さん(現会長)が1973年に創業した。化学メーカーの設備部門で働いていたが、実家の事情で転勤がむずかしかったため退職。その際、上司に保全業務を請け負わないかと誘われ、兄弟らと有限会社西備サービスを設立して機械の修理、据え付け、配管工事を行うようになった。その中で現IHI回転機械エンジニアリングとつながりができ、同エンジニアリングのサービス工場としてコンプレッサーやデカンターの設備工事が事業の中心に。2016年に長男で兄の秀昭さんが2代目の代表取締役に就任したが病気で亡くなり、2023年に次男の祐司さんが3代目を継いだ。現在、従業員は16人。業務の約9割をIHI回転機械エンジニアリングから受注し、同メーカーが製造販売した中四国地方の汎用コンプレッサーやデカンターのメンテナンスの多くを西備サービスが請け負っている。このため、勤務形態は月の半分程度が宿泊を伴う出張だという。

出張先でスマートフォンから出退勤を打刻。勤務時間の管理も容易で、時間外労働を減らすのに役立っている

退勤時間をスマートフォンで打刻する従業員。そのままタイムレコーダーに記録される
退勤時間をスマートフォンで打刻する従業員。そのままタイムレコーダーに記録される

「以前は従業員の出退勤はタイムレコーダーで行っていて、出張者は出張期間中の仕事開始と終了時刻をメモしておき、出張から戻ってきて作業日報に書き込んでいました。出張は5泊程度が多く、長い時には10日間になることもあります。手で書き込むのも手間がかかるし、不正確にもなっていました」。浅田社長は2024年に勤怠管理ソフトを導入した背景をこう話す。

現在は、従業員各自のスマートフォンに勤怠管理アプリをダウンロードしている。スマートフォンで出退勤の欄をタップすれば、時刻が自動で記録され、本社の総務部門の勤怠ソフトでリアルタイムに確認できて残業時間も管理できる。そのデータを、同じく2024年に導入したクラウド型会計ソフトに簡単に入れられ、従業員ごとの給与計算にも反映できる。

「時間外労働の上限規制は、2019年4月から段階的に施行されていましたが、建設業に対しては5年間の猶予期間が設けられていましたので、早めに対応しておこうと導入を決めました」(浅田社長)。従来は紙ベースで記録していたので、気づいたら時間外労働が月45時間を超えていたということもあった。今はリアルタイムで各従業員の労働時間を知ることができるため、時間外労働の把握と削減に役立っている。

顧客とのWeb会議、データ共有、チャットなどを活用し、紙データをなくしてスピードアップ

メンテナンス工事は4~5人でチームを組んで行うことが多く、チームの責任者は工事が終了すると、工事報告書を作成する。統合型クラウドサービスを活用することでパソコンを使って現地で作成し、顧客との共有フォルダへ直接送信できるようになった。従来はCD-ROMなどで提出していた膨大な工事経過写真もクラウドストレージサービスで提出できるようになった。これも帰社後の作業が減った要因だ。

メンテナンス工事に入る前には、作業リスクを少なくするため、顧客と工事担当者で「着工前会議」を行うが、これもWeb会議ツールでの開催が可能となり、他の仕事にかかっている従業員も現地からパソコンやスマートフォンで出席できるようになった。「30分程度なので、仕事場から参加しています。直接工事を行う者が出なければ意味がないので助かります」と浅田社長。

さらに以前のメンテナンス工事データを参照したい時は、顧客や西備サービスが保存しているデータをネット経由で見ることができるので、かつてのように分厚い紙のファイリング資料を持っていく必要がなくなった。出張作業が多く、従業員同士が顔を合わせる機会が少ないが、従業員間の重要な情報共有は勤怠管理ソフトに含まれているチャット機能が担っている。

出張旅費、出張先で購入した資材費などはスマートフォンの経費精算アプリに入力、現金の手渡しはほぼなくなった

西備サービスの総務部エリア。勤怠管理ソフトや新会計ソフトの導入で事務作業が大幅にスピードアップ
西備サービスの総務部エリア。勤怠管理ソフトや新会計ソフトの導入で事務作業が大幅にスピードアップ

ICT化のおかげで経費精算作業も大きく変わったという。10年ほど前から会計ソフトを導入していたが、手書き帳簿と併用していて手書き作業が中心だった。総務担当で先代の浅田社長の妻、浅田倫子取締役が給与計算や経費精算などを一括して処理できる新会計ソフトを導入。

その結果、従業員は出張先で購入した資材の代金や出張先への交通費、宿泊費などをスマートフォンの経費精算アプリで申請できるようになり、スマートフォンで領収書の写真を撮って送ればOK。帰社後、持ち帰った領収書を事務担当者がパソコンへ打ち込む作業がなくなった。

電気代、消耗品、宿泊費、交通費などといった費目を、会計ソフトに入っているAI機能が光熱費、消耗品などと自動で仕分けしてくれる。学びながら精度が上がっていった。「従業員は、経費や出退勤などほとんどすべての申請をスマホで終えられるようになりました。経理担当者も従業員の申請内容のチェックをする程度で、手書き作業が大幅に減りました。」と浅田倫子取締役。以前は、事前に人数×日数分のかなり大きな出張費を現金で用意しなければならなかったが、今は従業員のスマートフォン申請に応じて銀行口座へ振り込むので、現金を扱うことがほぼなくなったという。

人材確保へ向けて、新ホームページ作成 「我が社の魅力をわかりやすくアピールしたい」

西備サービス本社。四つの工場で機種作業別にメンテナンスを行っている
西備サービス本社。四つの工場で機種作業別にメンテナンスを行っている

現在の大きな課題は、いかに人材を確保するかだ。顧客から仕事の依頼がきても、仕事が手一杯で工事着手を数ヶ月先に延ばしてもらわなければならないことがあるという。「定年退職者の補充が追い付いていません。4人程度はなんとか確保したいのですが」と浅田社長。

そんな中で期待しているのが作成中の新しいホームページだ。「若い求職者はまずホームページでどんな会社か調べるのが標準的な手順となっています。新しいホームページでは、わが社がどんな仕事をしているか、魅力は何かなどをわかりやすくアピールしたいですね」(浅田社長)

西備サービスのメンテナンス工事という仕事は外観では分かりにくいために、その仕事の価値や重要性が伝わりづらい。「メンテナンスを手掛けている機械には、私の生まれた年より古く、50年以上前から動き続けているものもあります」という浅田社長。「メンテナンスは機械をただ分解して組み立てるだけでなく、その機械の個性やクセも把握して、ユーザー様の設備の安定稼働に貢献する仕事なんです」と語った。

企業概要

会社名有限会社西備サービス
住所岡山県小田郡矢掛町南山田2042-3
HPhttp://www.seibi-s.jp
電話0866-82-1415
設立1973年4月
従業員数16人
事業内容  空気圧縮機の点検・整備、遠心分離機の点検・整備、冷凍機、ポンプ等その他回転機の点検・整備