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酪農のまち、栃木県那須塩原市で生乳や乳製品などのトラック輸送業を営む金井運送株式会社は、自動車整備工場を自社内に持つユニークな運送会社だ。給油所も敷地内に併設し、エコドライブ管理システム(EMS)も稼働しており、トラック輸送のコスト削減と安全運転の徹底に役立てている。最近は給与計算をはじめとする財務会計処理ができるシステムを導入、バックオフィス業務の効率化にも乗り出した。(TOP写真:エコドライブ管理システムのモニターで車両の現在地情報をチェック)
「整備工場と給油所を持っているのが当社の強みですね」。金井運送の金井建一代表取締役はこう胸を張る。同社敷地内にある自動車整備工場は民間車検場業務ができる「指定工場」だ。同様に敷地内にある給油所は地下タンクが二つあり、軽油とガソリンの両方を給油できる。

1980年代に自社保有車両への給油と整備を目的とした給油所と整備工場を相次ぎ設置
「車両整備部」と呼ぶ部署が担当する整備事業は、現在71台保有している同社の車両の整備が中心。現在3人の整備担当者がおり、「車検のコストだけを考えると(外注するのと比較して)トントンですが、オイルや部品の交換など一般の整備も含めるとプラス(黒字)になっています」(金井社長)という。軽油やガソリンも外部のスタンドでの給油に比べて割安だ。



金井運送が整備工場と給油所を備えたのは意外と早い。金井運送は1966年に那須塩原市の隣の黒磯町(現那須塩原市)で創業。1983年に現在地に移転するとともに、まず自家給油所を設置した。続いて1985年に整備工場を設置した。このため、創業者の長男である金井社長は家業を継ぐにあたり、まず自動車整備を行う会社に就職して整備士の資格を取得してから1993年に26歳で同社に入社している。2003年には有限会社から株式会社に移行するとともに整備工場も認証工場から指定工場へと格上げした。
金井社長は大型免許やけん引免許も取得、整備だけでなくドライバーとしても経験を積み、専務取締役を経て2016年4月に49歳で現職に就任している。
酪農のまちで生乳や乳製品、加工食品を輸送。主要取引先3社と長年にわたる信頼関係
金井運送が本社を置く那須塩原市は、生乳の生産量が本州1位を誇る酪農のまちだ。那須塩原駅の新幹線改札口の自動改札機は「草原にたたずむ乳牛」をイメージさせる柄になっている。金井運送はその乳牛をはじめ生乳や飼料、ヨーグルトやプリンなどの乳製品、ハム・ソーセージなどの加工食品をトラック輸送している。
それら製品を出荷する酪農とちぎ農業協同組合、江崎グリコ、フードリエの3社が主要取引先。「この3社とは50年近くお付き合いさせていただいており、その歴史と信頼関係も当社の強みです」と金井社長は強調する。主要取引先3社との長期契約に基づく定期路線便が配車の約9割を占めるため、堅実経営が可能になる。

安全方針を制定し安全運転を徹底
取引先との信頼関係を維持するのに欠かせないのが、貨物を確実に届けるための安全運転だ。金井社長が代表取締役に就任する10年ほど前に「輸送の安全に関する基本的な方針」(略称・安全方針)を制定、「①輸送の安全を第一とし、安く、早く、正確に、かつ環境に配慮した業務を行う。②現場力の効率化を目指し、顧客の期待に応えるため、日々研鑽し、継続的な改善に努める。③社会人としてのかん養に努め、当たり前のことを当たり前に実施できるように努める。」の3項目を掲げている。
重点施策として「①法定及び規制速度の厳守、②交差点における安全確認の徹底、③法定運転(労働)時間の厳守」の3項目を掲示。年間の目標として「①死亡事故及び人身事故0件、②車輛事故(物損事故等含む)5件以内、③重大な交通法令違反0件、④苦情・クレーム等5件以内」を掲げている。ちなみに2024年度は①~③はすべて0件で④の苦情が1件あっただけだった。
毎月の講習会や全社あるいは部署ごとの月例会議、さらには乗務前・乗務後の点呼の機会などを利用して、会社全体で安全運転に関する情報の伝達・共有に努めている。
デジタコを大幅グレードアップしエコドライブ管理システム(EMS)として運用 事故発生率が急激に下がった 栃木県警から2024年最高位のプラチナ賞受賞
その一方でICTをフル活用。各車両には2005年頃から走行データを自動的に記録するデジタルタコグラフを搭載していたが、2020年頃に大幅にグレードアップした。GPS(全地球測位システム)機能を付加するとともに、ドライブレコーダーとも連携したエコドライブ管理システム(EMS)として運用しているのだ。
エコドライブ管理システム導入により、「(各車両の)速度管理が徹底できるのが一番だと思いますが、事故発生率も急激に下がりました」と金井社長は語る。さまざまな導入効果が結果として事故発生率の低下につながっているようだ。
具体的には運転日報のデジタル化で、ドライバーの休憩時間・場所が明確になるので、ドライバーに対する指導・管理がしやすくなった。速度管理の徹底で燃費やタイヤの摩耗も減少し、運行コストも下がった。高速道路の渋滞情報などを把握できる「ETC(自動料金収受システム)2.0」との連携により、運行計画書や運行指示書の作成が容易になり、「現場はひと手間もふた手間も減りました」(金井社長)。運行記録から安全運転評価がランキングされるのでドライバーのモラルも向上。リアルタイムでの車両の現在地情報の把握や冷蔵冷凍車の庫内温度管理も可能になった。
こうした取り組みが評価され、2017年に栃木県警察本部、国土交通省関東運輸局栃木運輸支局、それにバス、タクシー、トラックの各業界団体が共催する「営業用自動車事業所交通事故防止100日コンクール」で成績優秀事業所(トラック業界は栃木県内上位13事業所までが対象)として表彰されたのをはじめ、2022年以降は「栃木県警察本部優秀安全運転事業所表彰」の常連で、2024年には最高位のプラチナ賞を受賞している。また、2025年には再度、100日コンクール表彰を受けた。
整備部門には車載式故障診断装置(OBD)検査システム導入し故障記録を読み取り 整備士不足には外国人材の活用も
一方、整備部門は自動車のデジタル化対応と人手不足対策が進められている。自動車のデジタル化対応としては、2024年10月から車検の検査項目の一つとして、車載式故障診断装置(OBD)検査が義務化されたのに対応、2023年9月にOBD検査システムを導入した。OBDは自動車に搭載されている装置で、電子制御システムの状態を監視し、故障を記録する働きをしている。その故障記録をスキャンツールで読み取るのがOBD検査システムだ。OBD検査システムにより早期の故障発見につながり事故をより正確に防ぐことができるようになった。
整備士の人手不足に対しては外国人技能実習制度を活用して外国人材を受け入れている。2022年4月に初めてインドネシア人2人を採用。3年間の実習期間が終了して帰国したので、2025年4月から新たにインドネシア人2人を雇用した。金井社長は「21歳と22歳の若者ですが、とても真面目でやる気があり、(外国人なのに)昔の日本人の匂いというか、昭和の日本人の匂いがします」と話す。
バックオフィス業務の効率化へ給与計算システムも稼働 いつもチャンスを逃さない準備をしている 前期は過去最高収益
運送部門、整備部門と事業現場のデジタル化が一巡したことから、最近はバックオフィスのデジタル化に乗り出した。勤怠管理システムと連携した給与計算システムの導入を進めている。これまで手書きで作成していた給与明細や源泉徴収票をパソコンで自動的に作成するだけでなく、会社の財務会計処理もできるようになるという。2025年8月からの本格稼働を目指して、テストランを進めている。
さらにホームページ作成ソフトの刷新も検討中。2013年に開設した現在のホームページは市販の作成ソフトを使って自社で作成した労作だが、ウイルスなどの不正アクセスが巧妙化する中、セキュリティー面の対策をより万全にする必要があるためだ。
金井社長に今後の目標を問うと、「最低限、現状を維持することです。売上をいくらにしたいとか、保有車両台数を何台にしたいといった具体的な数字の目標は一度も考えたことはありません。チャンスがあれば自然と良い方向にいくだろうと、そのチャンスを逃さないための準備を整えておくことが大事だと思っています。言うなれば目標は無限大です」との返事。主要取引先3社との信頼関係を大事にし、その要望に速やかに応えることで業容を拡大してきた。創業以来、業績の好・不調の波こそあるものの少なくとも2024年度には過去最高の収益を上げているとの自信が垣間見えた。

企業概要
会社名 | 金井運送株式会社 |
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本社 | 栃木県那須塩原市渡辺3番地78 |
HP | http://kanai-exp.com/ |
電話 | 0287-62-3278 |
設立 | 1971年7月(創業1966年4月) |
従業員数 | 約60人 |
事業内容 | 一般区域貨物自動車運送事業、国際海上コンテナ輸送業務、上記に付帯する一切の業務 |