中小企業の多くはいわゆる「オーナー社長」が経営を行っている。それに対して企業のオーナーから雇用され経営を行っている「雇われ社長」も存在する。今回はこの両者の違いやメリット、デメリット等についてお伝えする。
目次
オーナー社長と雇われ社長の違いは?
オーナー企業は、創業者やそのメンバー、創業家の血縁者が会長や社長、相談役などとなって経営の第一線に立っている企業だ。このような企業の社長等は大半の株式を保有し、支配権を握っている。この支配権を握っている人が「オーナー社長」である。自身が出資して株主となり実際に経営も行っているという形態だ。
オーナー社長が発行済株式(議決権)の1/2超を保有している場合には、社長自らが取締役の選任や解任、取締役や監査役の報酬などを決定する「普通決議」が可能である。また、2/3以上を保有している場合には、定款の変更や事業譲渡、株式分割等の「特別決議」も可能となる。
さらに、株式を100%保有している場合、その企業に関する全ての決議を社長が一人で行える。オーナー社長は、企業の重要事項を決定するための特別決議が行えるよう、2/3以上の議決権を保有するのが望ましいと言える。
一方、企業のオーナーに雇用されている「雇われ社長」は、代表取締役等の肩書を持ち経営を行う立場ではあるものの、オーナー社長のように企業に出資して大半の株式を保有しているわけではない。当然ながら議決権を保有していないケースもあり、企業の重要事項を決定する権限は持っていない。
こちらは大企業に多く見られる形態だが、中小企業でも雇われ社長が経営しているケースも存在する。
オーナー社長の3つのメリットと2つのリスク
オーナー社長と雇われ社長では、その企業経営に関する決定を自らができるかどうかという点で大きな違いがある。オーナー社長のメリットやリスクにはどのようなことが挙げられるだろうか。
メリット1.さまざまな意思決定が行える
前述の通り議決権の保有割合によって、企業のさまざまな事項について自身の意思で決定や実行等が可能となる。自身や他の役員等の報酬額をはじめ、役員の選任や解任、定款の変更、会社の分割や解散等、重要事項を含めた経営に必要な決議をすることが可能だ。意思決定にスピード感が必要な場合等は、他者の意思確認を行わずに済むというメリットもある。
メリット2.役員報酬とは別の利益を受け取れる
役員報酬の他に、業績によって保有株式からの配当を受け取ることも可能だ。ただし、役員報酬として上乗せをする場合は、法人税の損金に算入することが認められているため、法人税の負担は少なくなるが、オーナー社長個人の所得税が高くなるだろう。
一方、配当金は法人税の損金算入とはならないため、法人税の負担を少なくすることはできないが、「配当控除」があるためオーナー社長個人の所得税は少なくなる可能性がある。こちらは上乗せする役員報酬の額や支給する配当金の額、オーナー社長個人の所得税率等によって税額が変わるため、どちらで受け取るほうが良いかは税理士等の専門家に相談するとよいだろう。
また、事業譲渡や株式譲渡を行うことによって譲渡益を得ることもできる。事業譲渡は、企業が事業の一部または全部を他の企業へ譲渡するもので、譲渡益は企業が受け取り法人税や消費税の課税対象となる。
株式譲渡は、オーナー社長個人が保有する株式を他の企業へ譲渡するもので、譲渡益はオーナー社長個人が受け取り、所得税や住民税の課税対象となる。譲渡を行うことによりリタイア後の生活資金や新規事業立ち上げのための資金等を確保することも可能だ。
メリット3.所有と経営を分離させることも可能
こちらは後述するが、株式を保有したままで新たに社長を雇用して、経営をその社長に任せることもできる。自身が経営の現場にいなくてもオーナーとして利益を得ることもできるが、信頼できる人物に社長を就任させることはもちろんのこと、経営を任せる上で、業績によって昇給や減給を行う等、事前にさまざまな取り決めをしなければならない。
このように株式の保有と経営を分離させることは可能だが、中小企業、特に小規模企業ではオーナーが社長として経営を行う形態の方が多い。
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リスク1.経営の責任は自身で負う
業績が良い場合の利益を享受できる一方で、業績が悪化した場合の責任も自身で負うことになる。資金繰りが厳しくなった場合には、社長が個人保証をした上で法人が借入を行うケースがある。万が一倒産した場合には、社長個人に返済義務が残ってしまう。
また、社長が資金を会社に貸し付ける等、特に小規模企業では社長個人の資産が法人に入っているケースもみられる。業績が悪化した場合には貸付金の回収は難しくなり、法人の経営状態が社長個人の資産状況にも影響してくるというリスクがあるのだ。
リスク2.事業承継や後継者の問題
社内に後継者となる人材が育っていれば問題は無いが、親族内承継を検討している場合、適任者がいるかどうかが問題となるケースも多い。適任者がいたとしても育成までに多くの時間がかかる場合もあるため、事業承継は時間をかけて計画や実行していくことが必要だ。
また、経営に関係の無い親族がいた場合には、事業を承継した親族との間に財産分与の面で不公平が生じることもある。このような場合には事業承継と合わせて相続対策も検討しなければならない。
社内で親族外承継を行う場合にも後継者の育成の他、自社株式の承継方法や承継時期について、事前に計画を作成した上で進めていくことが必要だ。M&A等で社外承継を行う場合にも承継先との折衝や社内外の利害関係者へ通知し、理解を求めるなど、解決すべき事項が多く存在する。
いずれにしても、事業承継はオーナー企業やオーナー社長にとってできるだけ早期に取り組むべき問題である。早期に計画し実行することが結果的に事業承継におけるさまざまなリスクを軽減することにもつながる。
雇われ社長の2つのメリットと3つのリスク
それでは、雇われ社長のメリットやリスクはどのようなものが考えられるであろうか。
メリット1.業績悪化や倒産時等のリスクが少ない
企業の業績を上げることが責務であることはオーナー社長と変わりないが、大株主ではないため万が一業績が悪化した場合や倒産をした場合のリスクはオーナー社長よりは少ないと言える。ただし、経営責任を問われる場合がある他、連帯保証人となっている場合等には返済義務が個人に残るリスクもある。
メリット2.自己資金を投資する必要が少ない
一定割合の株式を保有する場合には資金が必要となるが、オーナー社長のように自己資金を投資して企業の立ち上げや増資等を行う必要が無いため、資金準備の必要が低いと言える。その上で経営者としての知識や経験を得ることができる。
リスク1.最終的な意思決定はオーナーが行う
経営者でありながらさまざまな事項を決議するだけの議決権を持っていないため、経営上の重要な判断の意思決定は最終的にはオーナーに委ねなければならない。その決定に基づき経営を行っていくことになるが、時には自身が考える方向性とは違う決定が下されるケースも考えられる。
あくまでもオーナーの意向に沿った経営を行う必要があるため、自身が目指す経営や会社作りがしづらいという側面もある。
リスク2.常に業績の向上を求められる
売上高や利益等、常に業績の向上を求められる立場にあり、その内容によって自身が評価され報酬にも影響してくる。ただし、業績が良かったからと言って大幅に報酬が上がるとは限らず、オーナー社長のように自身の裁量で報酬を決めることもできない。
逆に、業績が悪い場合には減給や解任のリスクも潜んでいる。定められた任期の中で、オーナーから常に結果を求められるプレッシャーを抱えながら経営を行う場合もあり、精神的な負担も大きいと考えられる。
リスク3.従業員との社会保障等の違い
雇われ社長は経営者であるため、「労働者」ではない。「労働者」である従業員が加入する労災保険や雇用保険に加入することはできない。また、役員報酬を得られるが、原則として残業代は支払われない。あくまでも経営の対価として報酬を得ることになるため、労働時間による対価は支払われず、長時間働いたとしても報酬は変わらないことになる。
オーナー社長が社長を雇う時に気をつけることは?
中小企業のオーナー社長は、自身が現場に立ちリーダーシップを発揮しながら経営を行うことが多いが、自身が現場を離れ社内や社外の人材を社長に登用し、経営を任せる場合にはどのような点に注意すれば良いのだろうか。
まずは社長となる人材を選定する必要があるが、事前にコミュニケーションを綿密に取り、経営方針や今後の方向性、業績の目標等について認識を共有しておくことが大切だ。また、人間性はもちろん、リーダーシップがあることも必要であるため、オーナー社長自身の人材の見極めが重要となる。
さらに、社内の従業員への周知の他、社外の利害関係者にも経営を任せるに至った経緯等を説明し、理解を得なければならない。
社長就任後の業績については、できるだけ具体的な数値で基準を設け、その基準によって昇給や降給、解任等の判断を行う旨を事前に決めておく。そうすれば、オーナーは冷静な判断を下すことができ、社長のモチベーションアップにもつながるのではないかと考える。
業績を上げることが社長の役割であるため、双方が納得した上で明確な基準を設けることが大切である。
オーナー社長と雇われ社長、裁量の違いにより得られる収入やリスクの大きさが違う
今回お伝えしたように、オーナー社長と雇われ社長それぞれにさまざまなメリットやリスクが存在する。
オーナー社長は、万が一の時のリスクは大きいものの自身の裁量で経営を行うことができ、結果が出た場合には大きな利益を享受することも可能だ。雇われ社長は常に結果を求められ、立場も不安定であることから、企業のトップに立つことを考えた場合にはオーナー社長のほうが魅力的ではないかと考える。
オーナー社長に関するQ&A
Q1.オーナーと社長の違いは?
オーナーは会社の出資者として会社を所有しており、社長はただ経営にかかわる実務を遂行する存在に過ぎず、所有権を持っているとは限らない。
「オーナー:Owner」の言葉の意味は「所有者」「持ち主」であり、その会社の創業時の出資者や株式を大量保有している大株主など、会社の所有権を有した人たちのことを指す。オーナーには創業者はもちろん事業を承継した親族、M&Aなどにより他社を買収した者など、さまざまな立場の者がいる。
それに対して社長は、その会社の経営におけるトップのことで、最高責任者として会社の経営方針を打ち出して、会社を存続させるために行動する立場にある。そのため、会社の所有権を持っているとは限らず、所有権を持つ社長のことは「オーナー社長」と呼ばれて区別される。
Q2.オーナー社長のメリットとは?
オーナー自らが、企業価値を高めるための経営活動を行えるというメリットがある。また、オーナーと社長の考え方が異なることにより発生する経営判断の捻れなど、経営問題が発生しにくいということもメリットだ。
オーナー社長とは、出資者としてその会社の所有権を有した者であり、経営権を有する者でもある。「オーナー社長」は、会社の所有権と経営権を同時に有しているため、経営方針やそれに関連する企業としての行動指針をほぼ独断で決定することができる。そのため、オーナー社長は、その会社における権限の全てを有していると言っても過言ではない。
しかし、オーナーと社長が別人であれば、経営方針の決定とその遂行はオーナーの意向に左右されることになる。そのため、経営にかかわる重要な決断の場面などで、オーナーと社長の考えの食い違いが起きたり、意思決定が滞ったりする問題が生じる恐れもある。
いずれにせよ、オーナー社長は、オーナーだからこそのメリットとデメリットと同時に、経営者としてのメリットやデメリットも抱えることになる。そのため、事前に自らの経営者としての資質に対するリスクについて考慮した上で、経営権は他者に譲るなどの決断も必要になるだろう。
Q3.オーナー経営者の意味とは?
「オーナー社長」と同様に、会社の所有権と経営権を持つ人物のことである。
経営者とは、会社の経営についての責任を持つ者であり、経営方針を打ち出して経営活動を計画通りに遂行するために指示を出し、事業全体をコントロールする立場にある。この経営権に加えて、会社の設立時やM&Aなどによる企業買収の際に出資を行い、会社の所有権を所持しているのが「オーナー経営者」だ。
そのため、オーナー経営者はオーナー社長と同義であり、そのメリットやデメリット、経営に際しての注意点についても同じである。
Q4.オーナー社長の特徴は?
オーナー社長は、会社の所有権と経営権を同時に持っており、素早い経営判断ができるというメリットがある。そのため、社長としての経営力が高いオーナー社長ならば、企業価値を高めることで自らの報酬を増やすこともできる。
しかし、権限が強過ぎるが故に、いわゆる「ワンマン経営」に陥ってしまう可能性が高い。オーナー社長が他者の有益な意見に耳を貸さず、リーダーシップもない場合は、経営が傾いて長期的な存続が難しくなるケースもある。
「雇われ社長」などオーナー以外の社長は、あくまで出資はしていないため、社長としての業務に対して報酬が支払われる。一方、オーナー社長は会社に対してすでに出資しているため、会社が成長して企業価値が高まれば、株式配当などの報酬はもちろん出資額より高く会社を売却できれば利益を得ることもできる。
Q5.オーナーと社長はどっちが偉い?
会社の所有者であるオーナーの方が、会社の事業運営の責任者であり職責上の地位に過ぎない社長より立場が上である。
「オーナー社長」のように、会社の所有権と同時に経営権を有している人の場合は、もちろんオーナーと社長の立場は同じだ。しかし、オーナー以外の者から選ばれた「雇われ社長」「サラリーマン社長」などは、あくまでオーナーに選ばれて経営トップとしての業務を委託されている立場に過ぎない。
そのため、経営がうまくいかずに企業価値を下げるような結果になれば、結果的にオーナーの収入が減る事態になるため、社長はオーナーから交代を告げられることになるだろう。
Q6.オーナー企業とは?
オーナー企業とは、会社の創業者やその親族、大株主など会社に出資しているオーナーが、社長や会長、役員などといった立場で経営にかかわっている企業のことだ。
オーナーが、会社の所有権と経営権などの実質的な支配権を持っている企業なので、オーナー陣の経営者としての能力が優れていれば、その意思決定の早さなどが企業成長に大きくプラスとなる。しかし、オーナーに経営面での才能や能力がなければ、ワンマン経営のように独断専行に反対する者がいなくなり、会社の存続が危ぶまれる事態に陥ることもある。
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