親族内承継,ポイント
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鈴木まゆ子
鈴木まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

今後の日本経済の課題の一つに、「事業承継」がある。事業承継方法の一つである親族内承継は、中小企業にとっては避けられないテーマだ。今回は事業承継の現状を踏まえつつ、親族内承継の内容やメリット・デメリット、成功の秘訣について解説する。

根深い日本の事業承継問題、2025年には約22兆円のGDPが喪失

以前から注目されている日本の事業承継問題は、年々深刻になっている。経済産業省と中小企業庁が今年2月に発表したレポートによれば、2025年までの間に中小企業の経営者・個人事業主のうち245万人が平均的な引退年齢である70歳を迎えるというが、後継者が決定しているのはその半分程度だ。このままだと中小事業の廃業が急増し、累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われると予測されている。

「若い人たちの起業に期待すればいいのでは?」と思うかもしれないが、日本の若年層による起業は欧米諸国に比べて少ないのが現状だ。少子高齢化が今後進行していくことを考えると、若年層の起業は現実的な解決策にはならないだろう。

各事業主が事業承継問題をいかにクリアしていくかが、今後の日本経済を大きく左右することになりそうだ。

事業承継における3つの基本パターン

日本経済の重大なテーマである事業承継には、3つのパターンがある。

親族内承継

親族内承継は、文字通り経営者の親族に事業を引き継ぐパターンだ。承継者には子どもだけでなく、配偶者や甥や姪、兄弟姉妹なども含まれる。長年事業を肌身で感じているため、承継への理解や心構え、覚悟が備わりやすいこと、また周囲の理解を得やすいことなどがメリットとして挙げられる。

一方で、承継者に経営者としての資質がなければ後々のトラブルにつながりやすいことや、承継者以外への親族の配慮が必要となることなどがデメリットだ。

役員・従業員などへの承継

経営者に親族がいない場合や、経営者の親族に事業承継の意思がない場合、あるいは経営者として適任な人材がいない場合は、自社の役員や従業員から適任者を探し、後継者になってもらうことがある。この方法のメリットは、後継者となる人間が経営方針や事業内容、業務にも精通しているため、承継後も滞りない経営を期待できることだ。

一方で、親族内承継と異なり、承継者の個人的な資金力が問われるのがデメリットだ。親族外の後継者候補が事業を引き継ぐための十分な資金を持っていない場合、いくら経営能力や経験があったとしても、自社株式などの会社財産の引継ぎに必要なコストを負担できなかったり、借入金の個人保証の引継ぎが暗礁に乗り上げたりして、事業承継自体が難航するおそれがある。

M&A

M&A(企業の合併や買収など)は、社外の人間や他社などの第三者へ事業を承継する方法だ。これは、親族にも社内にも後継者が見つからない場合に選択される。M&Aのメリットとしては、外部で広く適切な後継者を探せること、事業を存続できる可能性が高くなること、オーナー経営者が売却利益を得られることなどが挙げられる。

ただし、譲渡しようとする会社そのものの評価が問題になることがある。評価が低いと、売却先がなかなか見つからない。売却できても、従業員が新しい会社の環境になじめないことがある。

中小企業に多い「親族内承継」のメリット・デメリット

3つの事業承継パターンで、今も昔も多いのが「親族内承継」だ。最近は減少傾向にあるものの、依然として事業承継におけるメインの手法である。

中小企業の事業承継の半数以上が「親族内承継」

2012年11月の野村総合研究所「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」によれば、親族内承継の割合は、2003年から2012年までの小規模事業者で75.7%、中規模事業者で54.1%であり、事業承継の半数以上を占めている。

2016年11月の東京商工リサーチ「企業経営の継続に関するアンケート調査」によれば、後継者あるいは後継者候補が決まっている事業者の承継先が親族である割合は、中規模法人で66.6%、小規模法人・個人事業者で90%超だった。いずれにおいても、引き継ぐ親族の80%超が経営者の子どもとなっている。

最近は少子高齢化や家父長制度的な風潮が弱まったこともあり、親族外承継の割合も高まっている。ただし小規模事業では、親族内承継の割合は高止まりしているのも事実だ。

親族内承継のメリット

親族内承継が多い理由は、何だろうか。同アンケート調査の「なぜ親族を後継者としたのか」という問いに対し、小規模事業者・中規模事業者ともに最も多かったのが「血縁者に継がせたい」(小規模事業者で59.2%、中規模事業者で53.1%)で、次いで「自社株式等の引継が容易」(小規模事業者で30.0%、中規模事業者で42.8%)が多かった。また、「従業員や取引先の理解を得やすい」という回答もあった。

親子や夫婦といった関係では、長期間生活をともにすることで事業内容や性格などを言語化しにくい部分まで理解しているというメリットがある。このような相互理解は、当事者だけでなく周囲の安心につながるのだろう。

親族内承継のデメリット

しかし、親族内承継にはデメリットもある。

1.親族が必ずしも経営に向いているとは限らない
承継する親族が先代のような資質と意欲を持っていればいいが、必ずしもそうとは限らない。創業者と二代目・三代目では、事業を行う動機や環境が異なるからだ。

創業者は貧困の中で身を起こし、不撓不屈の精神で社会貢献を志して成功した人が多い。一方で二代目・三代目は、生まれた時から経済的にも社会的にも恵まれていたため、創業者のような熱意を持てないというケースは珍しくない。親族によっては経営の才能があっても、先代を見て事業経営を嫌うこともある。また後継者となった親族に対し、取引先や従業員が反感を覚えることもある。

このような場合、無理に親族に事業を継がせると、後々の事業経営がうまくいかなくなるおそれがある。

2.承継者以外への親族への十分な配慮が必要
親族内承継において、事業を引き継ぐのは親族の中の1人だ。事業を引き継ぐということは、法人ならば自社株をはじめとする財産を、個人ならば事業用財産を引き継ぐことを意味する。つまり、「相続」するわけだ。承継者の兄弟姉妹など、事業の承継者以外に相続人がいる場合、彼らに十分な配慮をしないと「争族」に発展するおそれがある。

親族内承継で起こる問題の原因は「準備不足」

まとめると、「引き継いだ親族が承継後の経営に難航する」「後継者が周囲との軋轢で苦しむ」「他の相続人との間に遺産分割問題が発生し、事業承継がうまくいかない」などが親族内承継の問題ということになる。

なぜ、このような問題が起きるのだろうか。原因の大半は「準備不足」だ。実際、事業承継の問題を抱える企業では、高齢の創業者やオーナー経営者が後継者を決めないまま、あるいは決めたが準備が不十分なまま亡くなってしまったケースが多い。

東京商工リサーチの「2019年後継者不在率調査」によれば、後継者が決まっていない中小企業は55.6%。代表者の年齢別で見ると、代表者が60代以上では「後継者あり」が「後継者なし」を上回るが、それでも60代で40.91%、70代で29.39%、80代以上で23.85%が「後継者なし」と回答している。80代以上の社長の4人に1人が、後継者不在のまま経営にあたっていることになる。

事業承継の問題はすなわち親族内承継の問題であり、現経営者の準備不足によるところが大きいと言える。準備不足の背景には、社長自身が元気で現役にこだわっていることなどがあるのだろう。しかし、それによって事業承継の準備を怠ってきたからこそ、現在困っているのだ。

逆に言えば、親族内承継の問題は時間をかけて準備すれば、ほとんど解決できる。つまり親族内承継の成功は、事前準備にかかっているのだ。

親族内承継を成功させるための3つの準備

親族内承継を成功させるために、どのような準備をすればいいのだろうか。具体的には、以下の3つについて準備しておきたい。これらの準備には、10年程度の時間をかけるのが理想だ。

ステップ1:関係者の理解

まず大切なのが、関係者の理解を得ることだ。ここでいう関係者とは、後継者を含む親族、自社の役員・従業員、取引先や金融機関などのことだ。

関係者の理解を得るには、意思表明や話し合いはもちろんのこと、実際に後継者となる親族を自社の責任者に任命し、徐々に権限を移譲していく必要がある。

具体的には、以下のような準備が必要になる。

・親族会議で後継者となる親族について検討・決定・発表する
・社内の役員・従業員に後継者となる親族を紹介し、事業承継計画を発表する
・取引先や金融機関に後継者となる親族を紹介する
・後継者となる親族を役員に就任させ、徐々に権限を移譲する
・現代表は、後継者が代表に就任した後は、会長や相談役に回ってサポート役に徹する

ステップ2:後継者教育

次に大事なのが、後継者教育だ。先ほど「後継者に経営者としての資質がない」ことが親族内承継の失敗の理由の1つとお伝えしたが、実際には最初から経営者としての資質を備えている人は多くない。業務を通じて事業内容を理解し、責任ある立場を経験し、試行錯誤して問題の解決を図り、他の経営者と交流することで、経営者に必要な資質が養われていくものだ。

したがって、後継者教育には以下のようなステップが必要になる。

・同業他社に勤務し、自社の事業内容を理解する
・自社の工場や部門を回ることで、自社の事業や文化を学ぶ
・商工会議所や商工会の会合に参加し、経営者としての意識を培う

ステップ3:株式・財産の分配

後継者以外に親族がいる場合、悩みの種となるのが事業用財産も含めた「相続」だ。後継者として自社株や事業関連の財産を引き継いだとしても、自由に売却できないので経済的な利益を享受できるわけではない。

しかし事業に関わりのない他の相続人は、そのような内部事情は理解できないだろう。そのため、後継者以外の親族は、後継者に対して嫉妬や不満を抱きやすくなる。とはいえ、自社株を複数の相続人が分割して相続すると、株式の分散化によって事業経営が難航する可能性があるので避けたいところだ。

このようなトラブルを避け、事業承継を円滑に行うためには、事業承継後の経営権を1人に集中させ、後継者以外の相続人には現預金や生命保険などを活用して財産を配分するのが望ましい。具体的には、以下のような手続きを行うことになる。

  • 後継者以外の相続人の遺留分を調査し、遺留分に配慮した遺産分割割合を検討する
  • 遺産分割について記載した公正証書遺言を作成する
  • 生命保険を活用して納税資金や公平な相続の準備を行う
  • 会社法を活用し、自社株の分散防止に向けた社内制度の整備を行う
  • 事業承継税制や生前贈与制度を活用し、自社株を後継者に引き継ぐ
  • 重要事項の拒否権を有する黄金株を発行し、後継者に割り当てる
  • 会社が既存の同族経営者から自社株を買い取り、議決権の集中を図る
  • 後継者以外の親族への相続対策として議決権制限株式を発行する
  • 信頼できる弁護士と任意後見契約を締結する

これらの対策は、現経営者と親族だけで行うと失敗するリスクがある。事業承継を含めた株式や財産の相続対策については、弁護士や税理士などの専門家に相談しながら行うようにしたい。

承継後の事業を円滑にするためにやっておきたい3つの作業

親族内承継の概要と問題点、対策についてお伝えしたが、これらはあくまでも親族内承継そのものを円滑に進めるためのヒントに過ぎない。承継後の事業経営を円滑に行うためには、以下のような手順で事業を見直し、経営理念や方向性をあらためて考えるといいだろう。

作業1:現状の把握

「親族の誰を後継者にするか」も大事だが、自社の現状を見つめなおすことも重要だ。自社の現状を客観的に把握しなければ、適切な事業承継計画が立てられない。具体的には、以下の要素を把握する必要がある。

1.会社の経営資源の状況
・従業員数や年齢構成など
・資産額やその内容、キャッシュフローなどの現状と今後の展望

2.会社の経営リスクの状況
・会社の負債の現状
・現在の競争力と今後の展望

3.経営者自身の状況
・保有自社株式の現状
・個人名義の土地・建物などの現状
・個人の負債・個人保証などの現状

4.後継者候補の状況
・後継者候補の能力・適正
・後継者候補の年齢・経歴・会社経営に対する意欲

5.相続発生時に予測される問題
・法定相続人の人間関係・株式の保有状況などの確認
・相続財産の特定・相続税額の試算・納税方法の検討

作業2:事業承継計画の作成

事業承継の準備は、頭の中のイメージだけでは不十分だ。「事業計画書」として以下の項目を紙に書き出して頭の中を整理し、やるべきことや方向性を確認しておきたい。

1.事業承継の概要
・現経営者の氏名と年齢
・後継者の氏名と年齢、現経営者との続柄や自社内での地位
・承継方法と承継時期

2.会社の方向性
・経営理念
・事業の方向性(経営ビジョン)
・将来の数値目標

3.事業承継を行うための対策と実施時期
・関係者の理解の具体的な内容・時期
・後継者教育の具体的な内容・時期
・株式・財産の分配の方向性と具体的な内容・時期

作業3:会社の実力を磨く

承継がうまくいったとしても、会社のモノ・サービスの競争力や業績が落ちていれば、後継者が引き継いだ後の経営が難航する。それは、従業員たちの生活にも直結する。そのため以下の作業を行うことで、会社そのものの価値を磨いておくことも重要だ。

  • 業務改善・業績アップ
  • 無駄な経費や支出の削減
  • 老朽化した固定資産の見直しなど貸借対照表のスリム化
  • 会社の強み(セールスポイント)作り
  • 企業と経営者一族の線引きの明確化(資産の貸借、自家用車、交際費など)
  • 各種社内マニュアル・規程・契約などの見直し

「業績が良いと承継時の株価が高くなるのが心配」という人もいるだろう。しかし事業承継は一時のことではなく、その後何十年にも渡って経営に影響を及ぼす出来事だ。税金対策だけでなく、承継後の事業の維持・発展や社会貢献にも意識を向け、事業承継が長期的にするような基盤を今から築いていただきたい。

文・鈴木まゆ子(税理士)